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98 束の間の休息
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モゾ、と身動きの振動で目が覚めた。
薄目を開けると、朝日の中にキラキラと輝く金色の毛並みが目に入った。
これはアーリン兄さんか、ビリー兄さんか、区別がつかないままに起き上がろうとすると、後ろからガシッと体を押さえつけられる。
…新婚夫婦かよ!
そんなツッコミを心の中で呟いて、仕方なく起きるのを諦めてまた目を閉じた。
そのうちにペシペシと顔を叩かれて目を開けると、アーリン兄さんとビリー兄さんが僕の顔を覗き込んでいた。
「あ、やっと起きた」
「シリルはねぼすけだな。早く起きろよ」
二人の兄に起こされて僕は体を起こして大きく伸びをする。
最初に目が覚めたのは僕なのに何か納得がいかないけれど、二度寝してしまったんだから仕方がない。
僕は青年の姿に変化すると、朝ご飯を作るためにキッチンに向かった。
ビリー兄さん一人の時は近所に住む狐のおばさんが面倒を見てくれたようだ。
三人でご飯を食べていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、今開けます」
声をかけながら玄関の扉を開けると狐のおばさんが立っていた。
「あら、シリル。帰ってたのね。食事を持ってきたんだけど…」
そう言いながらおばさんはズンズンと家の中に入って行く。
勝手知ったる他人のナントカだな。
お世話になっているんだから、今更文句なんてないけどね。
「おはよう、ビリー。…あら、アーリンも戻っていたのね」
「おばさん! 久しぶり!」
アーリン兄さんが椅子から飛び降りるとおばさんに抱きついた。
久しぶりに会えた嬉しさもあるんだろうけど、母さんのような感触に浸りたかったのかもしれない。
おばさんはしばらくアーリン兄さんを抱きしめていたけど、テーブルの上の食事を見てフフッと笑った。
「ビリー一人の時はまだ寝てる時間だったのにね。みんながいると早起きになるのかしら」
おばさんの暴露話にビリー兄さんはそっぽを向いている。
まあ、一人じゃすることもないから寝てるしかないのはわからないでもないけどね。
おばさんは持ってきた食事を冷蔵庫に片付けると僕達が食べ終わった食器まで洗ってくれた。
「すみません、おばさん」
片付けを手伝いながら僕が謝るとおばさんはブンブンと手を振る。
「気にしなくていいわよ。それにしてもダニエルもエレノーラもどうしちゃったのかしら? たまにはここに帰ってきても良さそうなものなのにね」
そう思っているのは僕達も一緒だ。
せっかく三人が揃ったのにどうして父さん達は帰って来ないんだろう。
シュンとなった僕達におばさんは慌てて元気づけるように陽気な声を上げる。
「でも、こうやって三人が揃ったんだから、このまま三人でダニエル達を待つんでしょ?」
その言葉にアーリン兄さんとビリー兄さんの目が僕に注がれる。
その目は「僕から言え」と如実に語っている。
「おばさん。僕はまた旅に出るんだ」
僕の言葉におばさんは目をパチクリさせている。
「え? どうして? こうしてアーリンも見つかったから三人でダニエル達を待つんじゃないの?」
「僕は兄さん達を探すためにこの国の王子様にお世話になったんだ。その時に他の獣人達も解放する約束をしたんだよ。だからまた旅に出るんだ」
それにあちこち旅をしていたら、何処かで父さん達に会えるかもしれない。
決意を固めた目でおばさんを見るとおばさんはフッと表情を緩めた。
「シリルが決めた事を私が止める事は出来ないわ。二人の面倒は私が見るから気を付けていってらっしゃい」
そう言っておばさんはギュッと僕を抱きしめてくれた。
この体の大きさで女性に抱きしめられるのはちょっと照れるな。
おばさんが帰って行った後、僕はアーリン兄さんとビリー兄さんに向き合った。
もっと二人と一緒にいたいけれど、王都ではランベール樣やテオが待っている事だろう。
「アーリン兄さん、ビリー兄さん。留守補をよろしく」
僕は兄さん達に別れを告げると王都に向けて旅立った。
薄目を開けると、朝日の中にキラキラと輝く金色の毛並みが目に入った。
これはアーリン兄さんか、ビリー兄さんか、区別がつかないままに起き上がろうとすると、後ろからガシッと体を押さえつけられる。
…新婚夫婦かよ!
そんなツッコミを心の中で呟いて、仕方なく起きるのを諦めてまた目を閉じた。
そのうちにペシペシと顔を叩かれて目を開けると、アーリン兄さんとビリー兄さんが僕の顔を覗き込んでいた。
「あ、やっと起きた」
「シリルはねぼすけだな。早く起きろよ」
二人の兄に起こされて僕は体を起こして大きく伸びをする。
最初に目が覚めたのは僕なのに何か納得がいかないけれど、二度寝してしまったんだから仕方がない。
僕は青年の姿に変化すると、朝ご飯を作るためにキッチンに向かった。
ビリー兄さん一人の時は近所に住む狐のおばさんが面倒を見てくれたようだ。
三人でご飯を食べていると玄関の呼び鈴が鳴った。
「はーい、今開けます」
声をかけながら玄関の扉を開けると狐のおばさんが立っていた。
「あら、シリル。帰ってたのね。食事を持ってきたんだけど…」
そう言いながらおばさんはズンズンと家の中に入って行く。
勝手知ったる他人のナントカだな。
お世話になっているんだから、今更文句なんてないけどね。
「おはよう、ビリー。…あら、アーリンも戻っていたのね」
「おばさん! 久しぶり!」
アーリン兄さんが椅子から飛び降りるとおばさんに抱きついた。
久しぶりに会えた嬉しさもあるんだろうけど、母さんのような感触に浸りたかったのかもしれない。
おばさんはしばらくアーリン兄さんを抱きしめていたけど、テーブルの上の食事を見てフフッと笑った。
「ビリー一人の時はまだ寝てる時間だったのにね。みんながいると早起きになるのかしら」
おばさんの暴露話にビリー兄さんはそっぽを向いている。
まあ、一人じゃすることもないから寝てるしかないのはわからないでもないけどね。
おばさんは持ってきた食事を冷蔵庫に片付けると僕達が食べ終わった食器まで洗ってくれた。
「すみません、おばさん」
片付けを手伝いながら僕が謝るとおばさんはブンブンと手を振る。
「気にしなくていいわよ。それにしてもダニエルもエレノーラもどうしちゃったのかしら? たまにはここに帰ってきても良さそうなものなのにね」
そう思っているのは僕達も一緒だ。
せっかく三人が揃ったのにどうして父さん達は帰って来ないんだろう。
シュンとなった僕達におばさんは慌てて元気づけるように陽気な声を上げる。
「でも、こうやって三人が揃ったんだから、このまま三人でダニエル達を待つんでしょ?」
その言葉にアーリン兄さんとビリー兄さんの目が僕に注がれる。
その目は「僕から言え」と如実に語っている。
「おばさん。僕はまた旅に出るんだ」
僕の言葉におばさんは目をパチクリさせている。
「え? どうして? こうしてアーリンも見つかったから三人でダニエル達を待つんじゃないの?」
「僕は兄さん達を探すためにこの国の王子様にお世話になったんだ。その時に他の獣人達も解放する約束をしたんだよ。だからまた旅に出るんだ」
それにあちこち旅をしていたら、何処かで父さん達に会えるかもしれない。
決意を固めた目でおばさんを見るとおばさんはフッと表情を緩めた。
「シリルが決めた事を私が止める事は出来ないわ。二人の面倒は私が見るから気を付けていってらっしゃい」
そう言っておばさんはギュッと僕を抱きしめてくれた。
この体の大きさで女性に抱きしめられるのはちょっと照れるな。
おばさんが帰って行った後、僕はアーリン兄さんとビリー兄さんに向き合った。
もっと二人と一緒にいたいけれど、王都ではランベール樣やテオが待っている事だろう。
「アーリン兄さん、ビリー兄さん。留守補をよろしく」
僕は兄さん達に別れを告げると王都に向けて旅立った。
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