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89 交渉
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怪訝そうな顔で僕達を見回すカジミールに僕は意を決して話しかけた。
「魔術師のカジミールさんですか? ベルナールさんの息子さんの…」
ベルナールさんの名前を出した途端、カジミールさんはピクリと眉を動かした。
無表情だった顔が徐々に険しくなる。
ベルナールさんの名前を出したのは失敗だったのだろうか。
「親父の知り合いか? 俺に何の用だ?」
不機嫌そうな態度を隠さないままのカジミールさんに僕はたじろぐ。
「あなたが作ったらしい首輪を解除してもらいたいんだが、お願い出来るかな」
テオが僕を庇うように前に出てくると、カジミールさんは半開きだった扉をグイと大きく開いた。
「客か。中に入れ。詳しい話を聞こう」
開いた扉から中に入るとそこはお店になっていて壁伝いに様々な種類の魔道具。並べられていた。
カジミールさんは中央に置かれたテーブルセットに僕達を誘導する。
カジミールさんに向かい合う形で僕達が腰を下ろすと、カジミールさんは僕達を不躾にジロジロと観察する。
「それで? どの首輪を解除して欲しいんだ?」
そこでテオはベルナールさんから預かった魔法陣をテーブルの上に乗せた。
「狐の獣人に着けられた首輪だ。一本はこれで解除出来たが、もう一本の方は解除出来なかった。あれは君が作った物だろう?」
カジミールはテーブルに置かれた魔法陣をしばらく見つめていたが、やがてクッと可笑しそうに笑った。
「あの狐は獣人だったのか。確かに奴隷商の男に頼まれて狐に首輪を着けたよ。一匹は一本だけだったけど、もう一匹はもう少し体を小さくして欲しいと言われてね。もう一回り体が小さくなるような首輪を作ったのさ。我ながらいい出来だったと思ってるよ」
満足そうにカジミールさんは頷いているが、僕達にとっては首輪の出来なんかどうでもいい話だ。
「その狐はこの国のデュラン公爵の所にいるんです。お願いですから首輪を解除してください」
必死に頼み込む僕にカジミールさんは冷ややかな目を向けてくる。
「首輪の解除は構わないが、君達はそれでいくら払ってくれるんだ?」
「えっ?」
まさかそこでお金の話が出てくるとは思っていなかった。
戸惑う僕にカジミールはフンと鼻で笑う。
「俺は奴隷商に金を貰ってあの首輪を作ったんだ。それを解除するって言うのなら当然、それ相応の対価を払ってもらわないとな。それが仕事ってものだろ?」
ベルナールさんは息子であるカジミールが仕出かした事の尻拭いとして無償であの魔法陣を貸してくれた。
だからカジミールもてっきり無償で首輪を解除してくれるものだと思い込んでいた。
まさかお金を請求されるなんて思ってもいなかった。
「いくら払えば首輪を解除してくれますか?」
ランベール様からお金を預かっているテオがカジミールと交渉に移る。
「んー、そうだなあ…」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてカジミールは僕達を値踏みする。
どのくらいふっかけてやろうかと品定めをしているんだろう。
「何だか切羽詰まっているみたいだからな。金貨百万枚でどうだ?」
え?
金貨百万枚?
あまりの金額にテオを見やるとテオは申し訳なさそうにフルフルと首を横に振る。
流石にそこまでの金額は想定外だったようだ。
そんな僕達の様子を見てカジミールはさっさと席を立った。
「払えないみたいだな。それじゃ交渉決裂と言うことでさっさと帰ってくれ」
半ば追い出されるように僕達はカジミールの店から外へと追いやられた。
閉ざされた扉を見つめて僕はグッと唇を噛み締める。
「済まない、シリル。流石に金貨百万枚は用意出来ない」
テオが僕に謝ってくるが、悪いのはテオじゃない。
僕達が払えないのをわかっていて高額をふっかけてくるカジミールが悪い。
奴隷商が頼んだ首輪だってそんなに高価ではないはずだ。
それなのに…。
僕達はなすすべもなくその場を後にした。
「魔術師のカジミールさんですか? ベルナールさんの息子さんの…」
ベルナールさんの名前を出した途端、カジミールさんはピクリと眉を動かした。
無表情だった顔が徐々に険しくなる。
ベルナールさんの名前を出したのは失敗だったのだろうか。
「親父の知り合いか? 俺に何の用だ?」
不機嫌そうな態度を隠さないままのカジミールさんに僕はたじろぐ。
「あなたが作ったらしい首輪を解除してもらいたいんだが、お願い出来るかな」
テオが僕を庇うように前に出てくると、カジミールさんは半開きだった扉をグイと大きく開いた。
「客か。中に入れ。詳しい話を聞こう」
開いた扉から中に入るとそこはお店になっていて壁伝いに様々な種類の魔道具。並べられていた。
カジミールさんは中央に置かれたテーブルセットに僕達を誘導する。
カジミールさんに向かい合う形で僕達が腰を下ろすと、カジミールさんは僕達を不躾にジロジロと観察する。
「それで? どの首輪を解除して欲しいんだ?」
そこでテオはベルナールさんから預かった魔法陣をテーブルの上に乗せた。
「狐の獣人に着けられた首輪だ。一本はこれで解除出来たが、もう一本の方は解除出来なかった。あれは君が作った物だろう?」
カジミールはテーブルに置かれた魔法陣をしばらく見つめていたが、やがてクッと可笑しそうに笑った。
「あの狐は獣人だったのか。確かに奴隷商の男に頼まれて狐に首輪を着けたよ。一匹は一本だけだったけど、もう一匹はもう少し体を小さくして欲しいと言われてね。もう一回り体が小さくなるような首輪を作ったのさ。我ながらいい出来だったと思ってるよ」
満足そうにカジミールさんは頷いているが、僕達にとっては首輪の出来なんかどうでもいい話だ。
「その狐はこの国のデュラン公爵の所にいるんです。お願いですから首輪を解除してください」
必死に頼み込む僕にカジミールさんは冷ややかな目を向けてくる。
「首輪の解除は構わないが、君達はそれでいくら払ってくれるんだ?」
「えっ?」
まさかそこでお金の話が出てくるとは思っていなかった。
戸惑う僕にカジミールはフンと鼻で笑う。
「俺は奴隷商に金を貰ってあの首輪を作ったんだ。それを解除するって言うのなら当然、それ相応の対価を払ってもらわないとな。それが仕事ってものだろ?」
ベルナールさんは息子であるカジミールが仕出かした事の尻拭いとして無償であの魔法陣を貸してくれた。
だからカジミールもてっきり無償で首輪を解除してくれるものだと思い込んでいた。
まさかお金を請求されるなんて思ってもいなかった。
「いくら払えば首輪を解除してくれますか?」
ランベール様からお金を預かっているテオがカジミールと交渉に移る。
「んー、そうだなあ…」
ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべてカジミールは僕達を値踏みする。
どのくらいふっかけてやろうかと品定めをしているんだろう。
「何だか切羽詰まっているみたいだからな。金貨百万枚でどうだ?」
え?
金貨百万枚?
あまりの金額にテオを見やるとテオは申し訳なさそうにフルフルと首を横に振る。
流石にそこまでの金額は想定外だったようだ。
そんな僕達の様子を見てカジミールはさっさと席を立った。
「払えないみたいだな。それじゃ交渉決裂と言うことでさっさと帰ってくれ」
半ば追い出されるように僕達はカジミールの店から外へと追いやられた。
閉ざされた扉を見つめて僕はグッと唇を噛み締める。
「済まない、シリル。流石に金貨百万枚は用意出来ない」
テオが僕に謝ってくるが、悪いのはテオじゃない。
僕達が払えないのをわかっていて高額をふっかけてくるカジミールが悪い。
奴隷商が頼んだ首輪だってそんなに高価ではないはずだ。
それなのに…。
僕達はなすすべもなくその場を後にした。
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