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78 報復

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 ガヴェニャック王国に到着すると犬の獣人達はそれぞれの知り合いの元へと去って行った。

 僕達は王都に着くとすぐに王宮に向かった。

 エリクはそれよりも先にジャンヌさんの元へ帰りたがったが、テオがそれを阻止していた。

 そんな理由で今隣にいるエリクは非常に機嫌が悪い。

「家に帰るよりファビアン様への報告が先だろう。ほら早く済ませないといくらでも帰りが遅くなるぞ」

 テオもあんまりエリクをいじめないであげてほしいな。

 王宮の門番に取り次ぎを頼むとしばらく待たされた後で中に通された。

 案内役の騎士の後に付いて王宮の中に入ると、そこにはランベール様が待っていた。

「ランベール樣、只今戻りました」

「ああ、テオドールか。ご苦労だったね。わざわざこちらに来ると言う事は何か報告があるんだろう? …おや? その子は?」

 ランベール樣は青年の姿の僕と一緒にいるビリー兄さんに目を向けた。

 ビリー兄さんは初めて入った王宮にかなり緊張しているようだ。

「この子はシリルの兄です。パストゥール王国の王女の所で檻の中に飼われていました。その他にも別の建物に閉じ込められていた獣人を保護して解放しました」

 テオの報告を聞いてランベール様は苦い顔をした。

「あそこの王女は獣人達にそんな扱いをしていたのか」

「彼等は皆、特殊な首輪を付けられていました。だから王女が彼等を獣人と認識していたかどうかはわかりません」

「だが、たとえ普通の動物であったとしてもそんな扱いをするような人間である事は間違いないだろう。パストゥール王国から王女とファビアンの婚姻を打診されているが、断るしかないな。問題が一つ減って助かったよ」

 寝ている姿しか見ていないけど、綺麗な人にも関わらず、そんな思いやりの欠片もないような人とは結婚しないほうがいいに決まっている。

 ましてやファビアン様は国王だ。

 彼女に王妃の座が務まるとは到底思えない。

「シリル。一人だけとはいえ兄が見つかって良かったな。また情報が集まり次第知らせるから下町でゆっくりしているがいい」

 自分の母親を断罪したときよりも穏やかな微笑みを浮かべるランベール様に僕は少しばかりホッとした。

「ありがとうございます。ランベール様のお心遣い感謝いたします」

 王宮を辞すると僕と兄さんはテオの家に世話になる事にした。

 これ以上エリクとジャンヌさんの邪魔はしたくないからね。


 ******

 パストゥール王国にガヴェニャック王国から書簡が届いた。

 それに目を通したパストゥール王国の国王は頭を抱えた後で娘である王女を呼び出した。

「お呼びですか? お父様」

 母親である王妃によく似た王女がにこやかな笑顔で国王の所にやってくる。

 美人ではあるが、末娘で甘やかしたせいか、非常にわがままに育ってしまった。

 献上された動物を次々と取り替えては、放置しているのも困りものだ。

 注意をしてもまるで効き目がない。

 だが、流石にもうこれ以上は目溢しをするわけにはいかないだろう。

「ガヴェニャック王国からお前の婚姻に対する返事が届いた」

 国王にそう告げられて王女はパッと顔を輝かせた。

「まあ、ファビアン様から? わたくしを迎えてもいいとお返事をいただきましたの?」

 以前、ガヴェニャック王国を訪れた際にファビアンと出会っていた王女は父親に婚姻の打診をして欲しいと願っていたのだ。

 自分の願いが叶ったとばかり思っている王女に国王は現実を突き付けた。

「いや。ファビアン様からはお断りの返事を頂いた。お前が動物に対して虐待を繰り返しているという噂を聞いたのでこの話はなかった事にして欲しいとな」

 想像もしていなかった言葉に王女はサッと青ざめた。

 どこでそんな話が漏れたのだろう…。

 自分の側にいる侍女達が漏らしたのに違いない…。

 部屋に戻ったら問い詰めて吐かせないと…。

 そんな事を考えている王女に国王は更に追い打ちをかけた。

「お前は明日から修道院に入れる。しばらくそこで反省しなさい」

 突然の事に王女は国王に詰め寄った。

「お父様! どういうことですか? わたくしが何をしたと言うのです?」

 だが、国王の近くに行くよりも早く騎士に拘束される。

「王女を部屋に閉じ込めておけ。それから侍女達には荷造りをさせるようにな」

 王女はそのまま騎士達に引き摺られるように部屋へと連れ戻された。

 翌日、王女は修道院へと送られたが、その後王宮に戻る事はなかった。
 
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