4 / 12
4 晩餐会
しおりを挟む
結婚式を終えた私とリュシアンは公爵家の敷地内に建てられた別邸を与えられていた。
リュシアンが王宮に向かうと私は本邸に向かい、義母であるジョゼット様に公爵家の仕事を教えられていた。
「ヴァネッサ、別邸での生活に問題はないかしら? 足りない物があればすぐに言ってちょうだいね」
「ありがとうございます、お義母様。特に問題はありませんわ」
ジョゼット様は私をいびったりする事もなく、普通に私を受け入れてくれていた。
リュシアンが一人っ子だから、息子べったりかと思ったが、そんな事もなかった。
「子供が出来るまでは別邸で暮らす事になっているのよ。焦らなくてもいいけれど、やはり早めに子供が出来るといいわね」
そんなふうに義母に微笑まれて、私は身の縮む思いがした。
私とリュシアンが未だに結ばれていないと知ったら。この人はどんな顔をするかしら…。
もちろん、バカ正直にそんな事を告げたりはしない。
「…ご期待に添えるように頑張りますわ」
そう言ってニコリと微笑み返しておく。
リュシアンは私に一切手を触れてこないけれど、跡継ぎの事はどうするつもりなのだろう?
そのうちに誰か他の女に産ませた子を私が産んだ事にさせるつもりなのだろうか?
その問題をリュシアンに問いただす事も出来ずに月日は過ぎていった。
数日後にアドリアンとアンジェリック樣の結婚式を控えた頃、朝食の席でリュシアンが私に告げた。
「今日の晩餐にアドリアンを招待している。そのつもりで準備をしてくれ」
アドリアンの名前を聞いた途端、胸が締め付けられるような思いに襲われた。
あと数日後にアドリアンはアンジェリック様と結婚してしまう。
リュシアンはアドリアンを家に呼ぶと言っていたが、なかなかそんな機会が訪れるはずもなく、未だに約束は叶っていない。
アドリアンが結婚してしまえば、更に難しくなるだろう。
だから、今日が独身のアドリアンと会える最後の日になるに違いない。
「わかりました。おまかせください」
そう返事をしたが、私が指示をするまでもなく、別邸にいる侍従や侍女達だけで準備は着々と進められていった。
そしてアドリアンを迎えるにあたって何故か私は湯浴みをさせられ着替えさせられた。
指示を出しているのはこの別邸を取り仕切っているリュシアンの侍女長のポーラだった。
彼女は元々はリュシアンの乳母で幼い頃からリュシアンの面倒を見てきた人らしい。
夕方、王宮から戻ったリュシアンと共に馬車から降りてきたのは紛れもなくこの国の王太子アドリアンだった。
「こんばんは、公爵夫人。今日はお招きありがとう」
アドリアンににこやかに微笑まれて私の心臓は早鐘を打つようにドキドキし始める。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
私は精一杯の優雅さでカーテシーをするとアドリアンを別邸の中へ招き入れた。
アドリアンとリュシアンが連れ立って歩き出す後ろをついて行く。
二人の後ろを歩きながら妙な違和感を覚えた。
リュシアンはともかく、アドリアンがまるで良く知っている場所のように屋敷の中を歩いているように見えたからだ。
…前にここに来た事があるのかしら?
お義母様の態度を見るとアドリアンにあまりいい感情を持っていないように思えるけれど、従兄弟同士なのだからここに来た事があってもおかしくはないだろう。
アドリアンを真ん中にして私とリュシアンは両脇に向かい合うように席に着いた。
「今日は堅苦しい事は抜きにして楽にしていいよ。リュシアン、ヴァネッサ。先ずは乾杯しようか」
いきなりアドリアンに名前で呼ばれて思わずリュシアンに目を向けると、リュシアンは私に向かって肩を竦めた。
「アドリアンがああ言っているんだからヴァネッサも今日は敬称を付けなくて大丈夫だよ。なぁ、アドリアン」
確かにこの場に控えているのはポーラだけで、他に私達に意見出来るような人物はいない。
いくら本人から許可が出たとはいえ、「アドリアン」と呼び捨てに出来るはずもなく時は過ぎて行く。
食事も終わり、食後のお茶を入れて貰う頃になってアドリアンが何かを思い出したように声を上げた。
「ああ、そうだ。お土産にお酒を持ってきていたんだった。ポーラ、用意してくれるかい?」
それを待っていたかのようにポーラはお酒の瓶をアドリアンの前に置くとそれぞれにグラスを配った。
アドリアンは瓶の蓋を開けると先ずは私のグラスにそれを注いだ。
グラスの中には薄いピンク色のお酒がキラキラと輝いている。
「さあ、ヴァネッサ。君にも飲み易いお酒だよ。飲んでご覧」
アドリアンに勧められてそのお酒を一口飲んでみた。
…甘い…
何のお酒かはわからないが、確かに甘くて飲みやすかった。
「美味しいだろう。さあ、一気に飲んでご覧よ」
アドリアンがなおも勧めてくるので、私はグラスのお酒を一気に流し込んだ。
そんな私の様子をアドリアンとリュシアンが意味ありげな視線を向けている事には気付かなかった。
リュシアンが王宮に向かうと私は本邸に向かい、義母であるジョゼット様に公爵家の仕事を教えられていた。
「ヴァネッサ、別邸での生活に問題はないかしら? 足りない物があればすぐに言ってちょうだいね」
「ありがとうございます、お義母様。特に問題はありませんわ」
ジョゼット様は私をいびったりする事もなく、普通に私を受け入れてくれていた。
リュシアンが一人っ子だから、息子べったりかと思ったが、そんな事もなかった。
「子供が出来るまでは別邸で暮らす事になっているのよ。焦らなくてもいいけれど、やはり早めに子供が出来るといいわね」
そんなふうに義母に微笑まれて、私は身の縮む思いがした。
私とリュシアンが未だに結ばれていないと知ったら。この人はどんな顔をするかしら…。
もちろん、バカ正直にそんな事を告げたりはしない。
「…ご期待に添えるように頑張りますわ」
そう言ってニコリと微笑み返しておく。
リュシアンは私に一切手を触れてこないけれど、跡継ぎの事はどうするつもりなのだろう?
そのうちに誰か他の女に産ませた子を私が産んだ事にさせるつもりなのだろうか?
その問題をリュシアンに問いただす事も出来ずに月日は過ぎていった。
数日後にアドリアンとアンジェリック樣の結婚式を控えた頃、朝食の席でリュシアンが私に告げた。
「今日の晩餐にアドリアンを招待している。そのつもりで準備をしてくれ」
アドリアンの名前を聞いた途端、胸が締め付けられるような思いに襲われた。
あと数日後にアドリアンはアンジェリック様と結婚してしまう。
リュシアンはアドリアンを家に呼ぶと言っていたが、なかなかそんな機会が訪れるはずもなく、未だに約束は叶っていない。
アドリアンが結婚してしまえば、更に難しくなるだろう。
だから、今日が独身のアドリアンと会える最後の日になるに違いない。
「わかりました。おまかせください」
そう返事をしたが、私が指示をするまでもなく、別邸にいる侍従や侍女達だけで準備は着々と進められていった。
そしてアドリアンを迎えるにあたって何故か私は湯浴みをさせられ着替えさせられた。
指示を出しているのはこの別邸を取り仕切っているリュシアンの侍女長のポーラだった。
彼女は元々はリュシアンの乳母で幼い頃からリュシアンの面倒を見てきた人らしい。
夕方、王宮から戻ったリュシアンと共に馬車から降りてきたのは紛れもなくこの国の王太子アドリアンだった。
「こんばんは、公爵夫人。今日はお招きありがとう」
アドリアンににこやかに微笑まれて私の心臓は早鐘を打つようにドキドキし始める。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ」
私は精一杯の優雅さでカーテシーをするとアドリアンを別邸の中へ招き入れた。
アドリアンとリュシアンが連れ立って歩き出す後ろをついて行く。
二人の後ろを歩きながら妙な違和感を覚えた。
リュシアンはともかく、アドリアンがまるで良く知っている場所のように屋敷の中を歩いているように見えたからだ。
…前にここに来た事があるのかしら?
お義母様の態度を見るとアドリアンにあまりいい感情を持っていないように思えるけれど、従兄弟同士なのだからここに来た事があってもおかしくはないだろう。
アドリアンを真ん中にして私とリュシアンは両脇に向かい合うように席に着いた。
「今日は堅苦しい事は抜きにして楽にしていいよ。リュシアン、ヴァネッサ。先ずは乾杯しようか」
いきなりアドリアンに名前で呼ばれて思わずリュシアンに目を向けると、リュシアンは私に向かって肩を竦めた。
「アドリアンがああ言っているんだからヴァネッサも今日は敬称を付けなくて大丈夫だよ。なぁ、アドリアン」
確かにこの場に控えているのはポーラだけで、他に私達に意見出来るような人物はいない。
いくら本人から許可が出たとはいえ、「アドリアン」と呼び捨てに出来るはずもなく時は過ぎて行く。
食事も終わり、食後のお茶を入れて貰う頃になってアドリアンが何かを思い出したように声を上げた。
「ああ、そうだ。お土産にお酒を持ってきていたんだった。ポーラ、用意してくれるかい?」
それを待っていたかのようにポーラはお酒の瓶をアドリアンの前に置くとそれぞれにグラスを配った。
アドリアンは瓶の蓋を開けると先ずは私のグラスにそれを注いだ。
グラスの中には薄いピンク色のお酒がキラキラと輝いている。
「さあ、ヴァネッサ。君にも飲み易いお酒だよ。飲んでご覧」
アドリアンに勧められてそのお酒を一口飲んでみた。
…甘い…
何のお酒かはわからないが、確かに甘くて飲みやすかった。
「美味しいだろう。さあ、一気に飲んでご覧よ」
アドリアンがなおも勧めてくるので、私はグラスのお酒を一気に流し込んだ。
そんな私の様子をアドリアンとリュシアンが意味ありげな視線を向けている事には気付かなかった。
12
お気に入りに追加
170
あなたにおすすめの小説
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
誤解の代償
トモ
恋愛
天涯孤独のエミリーは、真面目な性格と努力が実り、大手企業キングコーポレーションで働いている。キングファミリー次男で常務のディックの秘書として3年間働き、婚約者になった。結婚まで3か月となった日に、ディックの裏切りをみたエミリーは、婚約破棄。事情を知らない、ディックの兄、社長のコーネルに目をつけられたエミリーは、幸せになれるのか
「股ゆる令嬢」の幸せな白い結婚
ウサギテイマーTK
恋愛
公爵令嬢のフェミニム・インテラは、保持する特異能力のために、第一王子のアージノスと婚約していた。だが王子はフェミニムの行動を誤解し、別の少女と付き合うようになり、最終的にフェミニムとの婚約を破棄する。そしてフェミニムを、子どもを作ることが出来ない男性の元へと嫁がせるのである。それが王子とその周囲の者たちの、破滅への序章となることも知らずに。
※タイトルは下品ですが、R15範囲だと思います。完結保証。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
引きこもり令嬢が完全無欠の氷の王太子に愛されるただひとつの花となるまでの、その顛末
藤原ライラ
恋愛
夜会が苦手で家に引きこもっている侯爵令嬢 リリアーナは、王太子妃候補が駆け落ちしてしまったことで突如その席に収まってしまう。
氷の王太子の呼び名をほしいままにするシルヴィオ。
取り付く島もなく冷徹だと思っていた彼のやさしさに触れていくうちに、リリアーナは心惹かれていく。けれど、同時に自分なんかでは釣り合わないという気持ちに苛まれてしまい……。
堅物王太子×引きこもり令嬢
「君はまだ、君を知らないだけだ」
☆「素直になれない高飛車王女様は~」にも出てくるシルヴィオのお話です。そちらを未読でも問題なく読めます。時系列的にはこちらのお話が2年ほど前になります。
※こちら同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
いつか彼女を手に入れる日まで
月山 歩
恋愛
伯爵令嬢の私は、婚約者の邸に馬車で向かっている途中で、馬車が転倒する事故に遭い、治療院に運ばれる。医師に良くなったとしても、足を引きずるようになると言われてしまい、傷物になったからと、格下の私は一方的に婚約破棄される。私はこの先誰かと結婚できるのだろうか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる