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62 まさかの…

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 サイモンが割れた水晶玉に向かって手のひらを向けると、スッと何処かへ消えてしまった。

「仕方がありません。解呪の水晶玉を作り直しますのでしばらくお時間をいただけますか? 部屋でくつろぐのも良し、街を散策されるのも良し。お好きにしていただいて結構です」

 サイモンがパチンと指を鳴らすと、廊下が現れ、その両側に扉が並んでいる。

 扉の数からして一人一部屋ずつ割り当てられるようだ。

「アラスター様、どうされますか?」

 真っ先にウォーレンがアラスター王太子に意向を聞いてくる。

 アラスター王太子は少し考えた後、私に顔を向ける。

「キャサリン嬢、よろしければ庭を散歩しませんか? 疲れておられるならお部屋に行かれても構いませんが…」

 ここまで馬車に乗りっぱなしで来たので、庭を散歩するのもいいかもしれないわ。

 私は一も二もなくアラスター王太子の誘いを受ける事にした。

「ぜひお願いします」

 私の返事を受けてエイダとウォーレンが立ち上がった。

 どうやら私達の後に付いてくるつもりのようだ。

「私はここでサイモンの作業を見ている事にするよ」

 ロナルドはアラスター王太子に手を引かれて立ち上がった私にひらひらと手を振る。

 ロナルドから少し離れた所に座っているサイモンは新しく取り出した水晶玉に向かって何やら呪文を唱えている。 

 それを尻目にウォーレンが開けてくれた扉から外に出ると、そこは一面、かすみ草で埋め尽くされている。

 オーソドックスな白いかすみ草の他にピンク、黄色、紫、青色など様々な色のかすみ草が咲き誇っている。

「かすみ草ってこんなにいろんな色があるんですね」

 王宮では白とピンクしか見なかったけれど、他の色も咲いているのかしら?

「キャサリン嬢のいる部屋の庭には白とピンクしか植えられていないが、他の場所には別の色も植えられている。王宮に戻ったら他の庭も散歩に行こう」 

「わかりました。楽しみにしています」

 その時にはこの呪いも解けているといいのだけれど…。

 一通り庭を見て回った後でサイモンの家に戻った。

 サイモンは先程と同じように水晶玉に向かって呪文を繰り返している。

 側にいたはずのロナルドの姿が見えないところを見ると、部屋で休んでいるのだろうか?

「邪魔をしても悪いな。一旦部屋に下がらせてもらおうか」 

 アラスター王太子はウォーレンを連れて部屋に入って行き、私はエイダと一緒にその向かい側の部屋へ入った。

「まあっ!」 

 この部屋もまた、家の外観からは想像も出来ないくらい豪華な作りになっている。  

 ゆったりとしたソファーに座り、いつの間にかうつらうつらしかけた頃に、部屋をノックする音で、ハッと目を覚ます。

「キャサリン様、解呪の水晶玉が出来上がったそうです」

 ウォーレンの声にぼうっとしていた頭がスッキリする。
 
 はやる気持ちを抑えながら立ち上がって部屋を出ると、そこにはアラスター王太子が待っていてくれた。

「行きましょう」

 アラスター王太子に手を取られ、サイモンのいる所まで進む。

 先程と同じ位置に座ると、そこには既に解呪の水晶玉が置いてあった。

「キャサリン嬢。もう一度、その水晶玉に手をかざしてください」

 サイモンにうながされ、ゴクリと唾を飲み込むと私はゆっくりとその水晶玉に手をかざした。

 手のひらから水晶玉へと何かが吸い出されていく。

 どのくらい時間が過ぎたのか、やがて水晶玉がピカッと光った。

 先程まで透明だった水晶玉が真っ黒に染まっている。

「どうやら呪いはその水晶玉に吸い出されたようですね」

 本当にこれで呪いがなくなったのかしら?

「それではクシャミをしてもらえますか?」 

 サイモンに言われて私はドキドキしながらエイダからこよりを受け取った。

「クシュン!」 

 クシャミをした途端、ポンという音と共に私の姿はウサギへと変わっていた。
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