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22 穀潰し
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横に座るアラスター王太子似た目をやると、能面のような無表情をしている。
てっきり父親である国王陛下に抗議をすると思っていたので、意外な反応に驚いた。
もしかしたら、国王陛下がブリジットに懐柔された時点で諦めているのかもしれない。
「キャサリン嬢」
「あ、はい…」
いきなり国王陛下に名前を呼ばれて、視線をアラスター王太子から国王陛下に移すと、真顔の国王陛下と目が合った。
「当分の間はアラスターの客人として王宮での滞在を許そう。その間に今後の身の振り方を考えてほしい。アラスターはどうやらキャサリン嬢を婚約者にしたいようだが、それには賛成しかねる」
「父上、それは!」
「黙りなさい!」
アラスター王太子が口を挟もうとしたが、国王陛下はそれを一喝した。
「キャサリン嬢がエヴァンズ王国の貴族令嬢という立場であれば考えなくもないが、貴族籍を抜かれた以上、平民という立場になる。そのような人物を王太子の婚約者にするわけにはいかないのは、お前でもわかるだろう。私の話は以上だ。わかったのなら下がりなさい」
国王陛下はそれだけを告げると、立ち上がってまた執務机に戻って行った。
国王陛下がそう言うのも当然だろう。
私がこの王宮に滞在するのにも、様々な費用がかかるのは分かりきっている。
私がエヴァンズ王国から正式に訪問した貴族ならば、相応のもてなしを受けるのは当たり前だけれど、今はアラスター王太子が勝手に連れてきた客でしかない。
そんな私を無償でもてなすのにも限界があるだろう。
今の私はコールリッジ王国にとってはただの穀潰しでしかないのだ。
アラスター王太子はきつく唇を噛み締めて国王陛下を睨みつけていたが、やがて諦めたようにフルリと首を振った。
「キャサリン嬢、部屋に戻ろう」
私に手を差し出してきたアラスター王太子は柔らかい微笑みを見せる。
私はコクリと頷くとアラスター王太子の手を取って立ち上がった。
「国王陛下、それでは失礼いたします」
私はペコリと頭を下げて国王陛下に挨拶をしたが、国王陛下は軽く手を上げてそれに応えただけだった。
「父上、失礼します。しかし、僕は諦めていませんからね」
アラスター王太子はそれだけを言い残すと私を連れて執務室を出ていく。
国王陛下は何も言わなかったけれど、内心心良く思ってはいないだろう。
廊下で待っていたウォーレンとエイダと合流して、私の部屋に戻った。
「キャサリン嬢、申し訳ない。まさか、父上があんな話をするとは思わなかったんだ」
部屋に戻ってソファーに向かい合わせに座るなり、アラスター王太子が頭を下げてくる。
「頭を上げてください。国王陛下がおっしゃる事は当然の事ですわ。むしろ私の事を簡単に受け入れられる方がどうかしています」
国王陛下が言う通り、私が公爵令嬢のままであれば良かったのだが、貴族籍を抜かれた以上、平民でしかない。
そんな私がアラスター王太子の婚約者になるなんて、他の貴族達からは反発の声が上がるに決まっている。
国王陛下としては他の貴族達から苦情がくる前に私をこの王宮から追い出したいに違いない。
「キャサリン嬢。僕がきっと君を養女に迎えてくれる高位貴族を探すよ。だから君は心配せずにこの王宮で暮らしていればいいんだ」
アラスター王太子は安易にそんな提案をしてくるけれど、そう上手く私を養女に受け入れてくれる貴族が見つかるのだろうか?
まず、年頃の娘がいる貴族は、私よりも自分の娘をアラスター王太子の婚約者にと希望するだろう。
例えば娘がいなくても、良く知りもしない私を養女にしてくれる貴族なんているはずがない。
そう思ったけれど、アラスター王太子の顔を見ると何も言えなくなった。
「わかりました。よろしくお願いします」
私はそれだけを告げるに留めた。
てっきり父親である国王陛下に抗議をすると思っていたので、意外な反応に驚いた。
もしかしたら、国王陛下がブリジットに懐柔された時点で諦めているのかもしれない。
「キャサリン嬢」
「あ、はい…」
いきなり国王陛下に名前を呼ばれて、視線をアラスター王太子から国王陛下に移すと、真顔の国王陛下と目が合った。
「当分の間はアラスターの客人として王宮での滞在を許そう。その間に今後の身の振り方を考えてほしい。アラスターはどうやらキャサリン嬢を婚約者にしたいようだが、それには賛成しかねる」
「父上、それは!」
「黙りなさい!」
アラスター王太子が口を挟もうとしたが、国王陛下はそれを一喝した。
「キャサリン嬢がエヴァンズ王国の貴族令嬢という立場であれば考えなくもないが、貴族籍を抜かれた以上、平民という立場になる。そのような人物を王太子の婚約者にするわけにはいかないのは、お前でもわかるだろう。私の話は以上だ。わかったのなら下がりなさい」
国王陛下はそれだけを告げると、立ち上がってまた執務机に戻って行った。
国王陛下がそう言うのも当然だろう。
私がこの王宮に滞在するのにも、様々な費用がかかるのは分かりきっている。
私がエヴァンズ王国から正式に訪問した貴族ならば、相応のもてなしを受けるのは当たり前だけれど、今はアラスター王太子が勝手に連れてきた客でしかない。
そんな私を無償でもてなすのにも限界があるだろう。
今の私はコールリッジ王国にとってはただの穀潰しでしかないのだ。
アラスター王太子はきつく唇を噛み締めて国王陛下を睨みつけていたが、やがて諦めたようにフルリと首を振った。
「キャサリン嬢、部屋に戻ろう」
私に手を差し出してきたアラスター王太子は柔らかい微笑みを見せる。
私はコクリと頷くとアラスター王太子の手を取って立ち上がった。
「国王陛下、それでは失礼いたします」
私はペコリと頭を下げて国王陛下に挨拶をしたが、国王陛下は軽く手を上げてそれに応えただけだった。
「父上、失礼します。しかし、僕は諦めていませんからね」
アラスター王太子はそれだけを言い残すと私を連れて執務室を出ていく。
国王陛下は何も言わなかったけれど、内心心良く思ってはいないだろう。
廊下で待っていたウォーレンとエイダと合流して、私の部屋に戻った。
「キャサリン嬢、申し訳ない。まさか、父上があんな話をするとは思わなかったんだ」
部屋に戻ってソファーに向かい合わせに座るなり、アラスター王太子が頭を下げてくる。
「頭を上げてください。国王陛下がおっしゃる事は当然の事ですわ。むしろ私の事を簡単に受け入れられる方がどうかしています」
国王陛下が言う通り、私が公爵令嬢のままであれば良かったのだが、貴族籍を抜かれた以上、平民でしかない。
そんな私がアラスター王太子の婚約者になるなんて、他の貴族達からは反発の声が上がるに決まっている。
国王陛下としては他の貴族達から苦情がくる前に私をこの王宮から追い出したいに違いない。
「キャサリン嬢。僕がきっと君を養女に迎えてくれる高位貴族を探すよ。だから君は心配せずにこの王宮で暮らしていればいいんだ」
アラスター王太子は安易にそんな提案をしてくるけれど、そう上手く私を養女に受け入れてくれる貴族が見つかるのだろうか?
まず、年頃の娘がいる貴族は、私よりも自分の娘をアラスター王太子の婚約者にと希望するだろう。
例えば娘がいなくても、良く知りもしない私を養女にしてくれる貴族なんているはずがない。
そう思ったけれど、アラスター王太子の顔を見ると何も言えなくなった。
「わかりました。よろしくお願いします」
私はそれだけを告げるに留めた。
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