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しおりを挟む「ちょっエネ!!待てっ!」
酷い!!
俺はリーアスから「話しかけるな」とか「疲れる」と言われた事が相当ショックで、悔しくてリーアスの顔も見れずに逃げるようにして走って帰った。
背後でリーアスの焦った声がしていたが、そんなの知るもんか!リーアスなんか大嫌いだ!!
そうれからというもの…一切リーアスとの接触を絶った。
丁度、俺も薬剤師試験を受ける予定だった事もあり、試験勉強に集中する事にした。
勉強は正直大変だが今の俺にはありがたい。リーアスの事で余計に悩まなくて済むからだ。
一緒に試験を受ける仲間も数人いるし、薬学の先生も分からない所は何でも聞けるような暖かい雰囲気に助けられた。
どうも薬学系を専攻を希望する人というのは攻撃的な人が誰もいないんだよな…俺も誰かを傷つけるより助けたい方だもんな。
今日も授業後に試験勉強をする為に学習室に移動すると、いつものメンバーと先生が既にいた。丁度みんなで休憩時間にしていたのか和気あいあいとおしゃべりしている。
「エネ~授業お疲れ!今日も頑張ろうね」
とニコル先生が気軽に挨拶してくれる。ニコル先生は豹の獣人で薬学の先生。
この国でも5人しかいない薬剤師の中でも上級薬剤師の資格を持つ薬学のエキスパートだ。
それなのに全く偉ぶる事もなく、薬学の事なら生徒の質問にもしっかり答えて下さる俺が尊敬する先生。
「先生今日も宜しくお願いします」と言うと、ニコル先生はニコニコして頷いてくれた。
一緒に試験を受ける仲間のモニカとミーシャとトーイも丁度休憩していて、恋バナをしているようだ。
「モニカ、私ね、今回の薬剤師試験に合格したら、思い切って告白しようと思うの。多分私の事なんか何も思われていないけれど……きっかけがないと何も行動できないし、当たって砕けろなのよ!!」
「へえーミーシャって行動力あるじゃない!!で、ミーシャの告白する相手って誰よ?」
「ほらっ騎士団候補生のリーアス様ってモニカは知ってる?」
「!!!!」
いきなりリーアスの名前を聞いてドキッとする
ゴンッ!
「っつぅーー」
その時、脚が何かにぶつかってしまって痛い!!
「エネっ!!机にぶつかった脚大丈夫??」
とトーイがそう言って心配してくれる。
「ぐぅ…トーイ…ああ、何とか平気……ちょっと考え事しちゃって」
「ははっエネは何かに集中すると周りが見えなくなる時があるからねー気をつけてね」
「はい…先生もご心配ありがとうございます」
ただの机に突進してぶつかった鈍臭い俺に対しても先生は本当に優しい。
けど、今はミーシャが告白する相手がリーアスって言った事に驚いてそっちの話に集中してしまう。
「勿論知ってるわよー!モテモテの騎士団様達じゃない。あいつら女の子を食い荒らしているって噂よ?付き合っていても他の子と浮気をしたり、たまに男の子にも手をだしてるって聞いたわ。その人達の中にいるリーアスのどういう所を好きになった訳?」
「だってカッコいいんだもん。特定の人がいないから遊んでるのよ。それに、騎士団候補生としての実力は先生も認めているし将来はエリートよ!」
「ミーシャったら面食いなんだから!でも告白して上手くいったらとか考える前に私達はまず試験に合格しなくては!!
さあ 勉強頑張りましょ!!」
「はーいw」
モニカが上手く勉強の方に誘導してくれたお陰でミーシャも勉強を再開した。学習部屋はまたシーンと静かになる。
俺も勉強をしていたが、やっているフリをして、2人の話が気になって集中できていなかった。
この学園でも騎士団候補生はとてもモテる。身分が平民でも騎士になって実績を重ねれば貴族の称号を賜れるので、この学園にいる平民の子達からも、将来有望な騎士団候補生とチャンスがあればと狙っているらしい。
リーアスもその1人でモテるのは知っていたが、だからかな。同じ田舎者の俺が付き纏っていると感じて鬱陶しいと思われたんだろうか……
そう思うと、悲しくなり底なし沼の中にいる気分になる。
俺は頭をブンブン横に振る。
リーアスの事は考えるのをやめよう。
考えたって答えは出ないんだ。
学園に入ってから付き合う仲間も違うし、昔は仲が良かったけど、大きくなったら話さなくなるなんてそんなに珍しい事でもない。
そう強がっていても、たまに会った時には「やあ!」って挨拶できる様な気さくな付き合いをしたって良かったじゃないか……と心の中ではリーアスを攻める事が今の俺にとって精一杯の強がりだ。
ーーーーー
「エネ?エネ?……勉強に集中しずぎもいけないよ。そろそろ帰ろうか」
「えっ先生……は??」
気づいたら先生以外誰もいなかった。部屋の窓から外を見ると外は真っ暗だった。
「エネはずっと勉強に集中していたから、邪魔したく無かったんだけど暗くなってしまったからね……送っていくよ」
「先生……声をかけて下されば日が落ちる前に帰りましたのに、ご迷惑になりたくないので1人で帰ります」
「ふむ。エネ、君はね……自分が危ない子だって自覚があるかなぁ?
力もないし、考え事をしていると周りが見えなくなってしまうでしょう?
そんな時に1人でいたら犯して下さいって言っているようなものだよ」
「へっ?犯されるとは思いませんが……強盗に襲われても力では負けてしまうのはそうかもしれません。先生すみません」
「うーん……こんなにエネが自分に無防備なのもどうしたものか……まあそれはそれで美味しいかもなぁ……とにかく謝らなくてもいいよ!むしろこんなに可愛い教え子を送って行けるのは役得だからね!さあっ帰ろうか」
先生は本当にいい人だな。怒る事なく導いてくれる。
「はい!」
俺の住んでいる家までの先生との時間は思いがけず楽しい時間だった。ニコル先生の話は薬学を専攻している俺にとっては目から鱗の内容ばかりで質問攻めにしてしまったが、先生も「よくぞ聞いてくれた」と嬉しそうに返事を返してくれるので、あっという間に家に着いてしまった。
「先生と一緒に帰るのとっても楽しかったです。今日はありがとうございました」
と俺が先生にお礼を言うと、先生は「ちょっといい?」といって俺を抱き締めた。
「ひゃっ先生!どうしたんですか?」
俺の身体を包みこんだ先生の両手が、スルリと背中からお尻の方まで撫でられる。それから今度は手が前にきて胸から腰までまたスルリと撫でられた。
「せっ先生……あの」
「エネ……やっぱり……随分痩せているじゃないか……ちゃんと食べてる?エネはもう少し食べないと倒れそうだから少し心配かなぁ。」
あっ先生は俺の事心配してくれていたのか……急に抱き締められてドキドキしてしまった自分が恥ずかしい。
ただでさえ豹の獣人は美しいと評判でニコル先生も例に漏れず男性だけど、とても綺麗という言葉が似合う人だ。
そんな人が抱き締めてくれたら男の俺でも誤解してしまうんだから、先生も罪な人だよ。なのに若くて独身って。
「先生心配してくれてありがとうございます。でも俺はこれでも結構丈夫なんですよ」
と先生にニコっと笑って心配して下さったお礼に俺からも先生をギュッと抱き締め返してあげた。
「くっ!…はあー……どうしようか。エネが可愛くて困ったな…お礼をいってくれるなら、今度私の家にご飯を食べにおいで。勉強も見てあげるよ」
「えっ?良いんですか?喜んで伺います!!」
「そうか!じゃあ試験に合格したら私の手料理の腕を披露してあげよう」
「先生の料理楽しみです。勉強頑張ります」
「うん。エネ頑張って」
そう言って先生はニコニコして帰っていった。
はあー先生には俺が鈍臭いせいで色々心配させてしまっているなあ。
だからせめて勉強を頑張って先生の期待に応えたい。
俺はその日の夜も張り切って勉強した。
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