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本編10

108僕想いの家族

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 今日は久しぶりに母上が帰ってくるので嬉しいやら緊張するやらで胸がドキドキしている。

 数年前、侯爵家の行く末や僕の事を心配した母上が「アンドルの婚約解消や侯爵領民の為にお金を稼ぐわ!!」と言って商売を始め、侯爵家に帰ってこれなくなってからもう何年経っただろうか……。6年?7年だっけ。

 それでも今回母上が帰って来るのはお忍びだ。
 母上は今や王子達王太子争いの裏で貴族の勢力争いの中心人物の1人だと言っていい。
 今やいくつもの事業をしている母上に何とかして会って関わりを持ちたいと言ってくる貴族は多く、その母上が王都に戻ってきたのが知られてしまうと母上の身の危険性も高くなるからお忍びなんだ。

 今回は母上がどうしても僕とアンジュに会いたい事と、金策で苦労した時、母上を信じて出資して下さった侯爵家のお隣に住んでいる伯爵様が老衰でもう長くはないそうで一目お礼と挨拶をしようと弾丸で帰ってくるらしい。

 夜には今度は父上と一緒にすぐに戻らなくちゃいけないみたいだけど……本当に母上はアクティブで凄い人だ。

 短い時間でも久しぶりにお会いできるなんて本当に嬉しい気持ちでソワソワしていたら馬車が到着した。アンジュもウキウキして待ちきれないみたいだ。


「母上ー!!」

「まあっアンジュったら大きくなったのに変わらずの甘えん坊さんね!!」


 馬車から母上が降りると同時にアンジュが駆け出して母上とハグをしている。僕はこういう時、アンジュに遠慮してしまうのか一歩引いて冷静になってしまう。だから昔からアンジュの行動を少し羨ましく思った事があったな……と、流石に今の僕は羨ましい気持ちは無くなったけれどそれも懐かしく感じた。


「母上お久しぶりです。そしてお帰りなさい。お元気そうで安心しました」


「アンドル!!まあまあすっかり立派になって!!」

 アンジュを抱き締めたままの母上は顔だけ僕の方を見て驚き、笑顔になってくれた。僕も久しぶりに母上をみる事ができたが、母上は昔より目つきが鋭くなっておりシワも増えている。いくら事業で成功したと言っても金策で駆け回っていた時期もあったし、ずっと苦労も絶えなかっただろうなと……母上の顔つきを見て苦労を感じた。

 そして母上は帰った早々、夜にはまた帰らなくてはならないので直ぐに家族で話し合いたい事があるという。
 それで父上も含めて久しぶりに家族全員がリビングに集合した。

「久しぶりに家族全員で集まれた事がとても嬉しい。特にマリアはずっと子供達と離れた生活をさせてしまって本当に済まなかった。王宮への借金も完済した今、今一度この国の情勢とアンドルの婚約をどうするか……侯爵家の今後どうして行こうか家族の意思を確認したいと思っている」

 使用人にリビングにお茶を用意させてから、家族で暫く団欒したいから次に呼ぶまでは下がってて良いと伝え、下がらせてから父上が神妙な顔つきで家族にそう伝えた。するとすかさず母上は

「そうね。私はずっと王都の外から今の王太子争いを見て来たけれど、今の所誰が次期王太子になったとしても私達侯爵家は揺るがないでしょう。それよりも誰かの後ろ盾に手を挙げて、その王子が王太子になれなかった時のリスクの方が高いと思いますわ。出来れば強制的に誰かを指名しろと命令が下るまでは中立を押し通したいわね。
   それとアンドルの婚約の事だけれど……いくらエドワード王子が中立を保ち、争いから離れた良い位置にいる事はそうだけどそんな事とかはこの際良いの。アンドルの素直な気持ちに従って貰いたいわ。アンドルはもう自由なのよ。今まで侯爵家の為に文句も言わずに自分を押し殺して生きて来たでしょう?でももうそんな生き方をしなくても良いのよ」


「母上……」


 母上は僕を見ながら強い言葉で僕に自由なのよと言ってくれていた。母上だけじゃない。父上も頷きながら聞いていたし、アンジュだって同じ様に頷いて僕の方を優しい目で見守ってくれている。そうだよな。この何年間家族が僕と王子の婚約に心を痛めて解消できる様にお金を工面して来たんだもの。それがまさか王族にお金を完済しただけじゃなく、今は沢山の利益を出している事業を何個も持っている事になるとは両親も思っていなかったみたいだけど。


「兄上そうですよ。僕もここ何年かで貴族達を見る目を養って来ました。だから兄上が無理に王族と繋がりを持たなくても侯爵家は揺るがない様に頑張りますから……どうぞ自分を縛らないて兄上の好きにしてくれたら良いと思います」


「アンジュ……」


 アンジュも……アンジュなりに僕が強制的にエドワード王子の婚約者になった事を不憫に思っていてくれたみたいだ。アンジュだって僕が王子の婚約者になってしまったばっかりに侯爵家に跡取りとして貴族の会合やら、勉強やらも沢山やっているというのに、ずっと僕の事を気にかけてくれていた。


「アンドル、そういう事だ。アンドルはもう自由なんだぞ。だから王太子争いを考えたり、侯爵家の将来の為に自分が犠牲になる必要は無くなったんだ。今迄苦労かけたな。だからアンドルの意思を尊重したいと思っている。それに、実はエドワード王子の婚約者として王宮に住んで欲しいと王家から直々に要請されたんだ。それを受け入れるともう戻れなくなると思ってな……急ぎの家族会議になってしまった」


「えっ?父上、僕が王宮に住む要請っ?」


「ああ……近々返事をしなければならない。完済したら婚約解消しても良いと陛下は仰っていたが、今侯爵家の事業が大きくなり小さな貴族達に仕事を任せている事も多い。そんな侯爵家の強い影響力が今になって惜しくなったのかアンドルを早く囲い込もうとしているようだ」




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明日も投稿予定です。
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