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終章 わたしたちの務め
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それからしばらくした、天気の良い午後。
わたしたちは、孤児院の庭のテーブルで、のんびりお茶を飲んでいた。
ユウが、シンドゥーで仕入れてきたお茶の葉で淹れてくれた。
ジーヴァ茶という、そのお茶の色はほぼ黒にちかく、カップを手にして、お茶が波紋をつくると、その波紋のふちが黄金に輝きながら広がるさまが、とてもすてきだ。
香りもすばらしい。
時の大伽藍から戻り、わたしたちの日常がもどってきたのだった。
時の魔獣はヴェレミアに生まれ変わり、どこか別の世界で新しい時がはじまっているのだという。
わたしたちはがんばった。
なにしろ、新しいひとつの世界が生み出されるのを助けたわけだから、これはたいしたもんだと思うわけ。
でしょ?
「まあ、ひとつ残念なのは……」
と、ジーナが、おいしそうにお茶をすすりながら、
「時の鐘がなくなったから、もう、あたし、ウルトラGになれなくなっちゃったんだよね……」
そうなのだ。わたしとジーナは、あれからこっそりふたりで、何度か試してみたのだけれど、もうわたしたちは、ウルトラGにもスーパーLにも変身できなかったのだ。
「あれ、かっこよくて、気分爽快だったのになあ……伝説の、獣人の闘神になったみたいでさあ」
ジーナがこぼす。
「ああ、やっぱり、鐘がないとだめなのか……」
「そうだなあ、例えば、ふたりで、ほら、こんなふうに腕をくみあわせて、ばろーむとか叫んでみるといいかもしれないよ」
「なにそれ?」
またユウが、意味不明なことを言いはじめた。
「こうかしら、ユウ、ばろーむ!」
ルシア先生が、そのわけのわからない言葉を唱えながら、ユウと腕を交差させる。
バチッ!
一瞬、二人の体を輝きが包む。そしてそこに、異形の超人の姿が浮かび上がったような気がする。もちろん、一瞬だけですが。
「おぉっ?」
自分で言っておきながら、ユウが驚いた顔をする。
「まさか、これ、できちゃうの?」
ルシア先生が微笑む。
……まあ、この二人なら、何ができてもおかしくはないけど。
何羽もの黒い渡り鳥が、よく晴れた高い空を、弓のような隊形をつくって、懸命にはばたき飛んでいく。
あの方向は、はるかオリンボスの山か。鳥は、あのオリンボスを越えるのか。
それにしても――
わたしたちが飛ばされた過去で知った、いくつかの事実。
ルシア先生のお父様とお母様の命を奪った、『アペルピスィア』のダンジョン。
なぜあのとき『アペルピスィア』が起きたのか。
調査に向かったダンジョンではなにが起きたのか。
わたしの出自にまつわる、あの荒野でのできごと。
円に直線をくみあわせた紋章は目に焼き付いている。
同胞を虐殺した、ローブをまとう黒馬の魔導士は何者か。
いつか、歴史に消えたこれらのことをきちんと調べなくては。
それが、今に生きるわたしたちの義務かもしれない。
でも、今は、それより前に、しなければならないことがあるのです。
わたしは、お茶のはいったカップを、コトリ、とテーブルの上に置いた。
「ユウさん、ルシア先生、わたしはお二人に言いたいことがあります!」
まったり紅茶を飲んでいる二人を、わたしはきびしく問い詰めた。
「「は、はい?」」
「お二人の婚礼は、いったい、どうなっちゃったんですか?!」
ユウも、ルシア先生も、ぽかんとしたあと、気まずい顔になり
「あ……そうね……なんかいろいろあったから……むにゃむにゃ……」
「そっちが優先で……むにゃむにゃ……わすれてたというか……」
いいわけまで、ぴったり息がそろっているのはどうなのか。
「みんな、楽しみにしているんですよ。お二人がまずやらなければならないのは、それです!」
「うっ……ライラ、今日はなんかきびしいね……」
「そ、そうね、師匠にそれは……ないわね……うん」
なおもいいわけをする二人に、ジーナが、にやにや笑うのだった。
「いいぞ、ライラ! もっと言っちゃえ!」
「もちろんよ、ジーナ。あたしたちが言わなきゃ、誰が言うのよ!」
「わかった……わかったよ」
「うん、わかったから、ね……うん……」
話が進みそうになったその時——
ドバアアアンン!
門の外、坂道の下の方で、何かが破裂する音がした。
そして
「うわああああああ!」
「加護はどうなっちゃったんだよー!」
「きゃああああああ!」
「みなさーん、助けてくださーい!」
聞こえてくる四人の叫び。
もちろん、それはあの人たち。「暁の刃」である。
またなにかを引き当てたようだ。さすがである。
ルシア先生が言う。
「ライラ、ジーナ、行ってあげなさい」
「「はいっ!」」
返事をする前に、わたしとジーナはもう駆け出していた。
これが、還ってきたわたしたちの「今」。
「今」を生きることが、わたしたちの務め——。
アンバランサー・ユウ第三編「時の大伽藍」編 <完>
わたしたちは、孤児院の庭のテーブルで、のんびりお茶を飲んでいた。
ユウが、シンドゥーで仕入れてきたお茶の葉で淹れてくれた。
ジーヴァ茶という、そのお茶の色はほぼ黒にちかく、カップを手にして、お茶が波紋をつくると、その波紋のふちが黄金に輝きながら広がるさまが、とてもすてきだ。
香りもすばらしい。
時の大伽藍から戻り、わたしたちの日常がもどってきたのだった。
時の魔獣はヴェレミアに生まれ変わり、どこか別の世界で新しい時がはじまっているのだという。
わたしたちはがんばった。
なにしろ、新しいひとつの世界が生み出されるのを助けたわけだから、これはたいしたもんだと思うわけ。
でしょ?
「まあ、ひとつ残念なのは……」
と、ジーナが、おいしそうにお茶をすすりながら、
「時の鐘がなくなったから、もう、あたし、ウルトラGになれなくなっちゃったんだよね……」
そうなのだ。わたしとジーナは、あれからこっそりふたりで、何度か試してみたのだけれど、もうわたしたちは、ウルトラGにもスーパーLにも変身できなかったのだ。
「あれ、かっこよくて、気分爽快だったのになあ……伝説の、獣人の闘神になったみたいでさあ」
ジーナがこぼす。
「ああ、やっぱり、鐘がないとだめなのか……」
「そうだなあ、例えば、ふたりで、ほら、こんなふうに腕をくみあわせて、ばろーむとか叫んでみるといいかもしれないよ」
「なにそれ?」
またユウが、意味不明なことを言いはじめた。
「こうかしら、ユウ、ばろーむ!」
ルシア先生が、そのわけのわからない言葉を唱えながら、ユウと腕を交差させる。
バチッ!
一瞬、二人の体を輝きが包む。そしてそこに、異形の超人の姿が浮かび上がったような気がする。もちろん、一瞬だけですが。
「おぉっ?」
自分で言っておきながら、ユウが驚いた顔をする。
「まさか、これ、できちゃうの?」
ルシア先生が微笑む。
……まあ、この二人なら、何ができてもおかしくはないけど。
何羽もの黒い渡り鳥が、よく晴れた高い空を、弓のような隊形をつくって、懸命にはばたき飛んでいく。
あの方向は、はるかオリンボスの山か。鳥は、あのオリンボスを越えるのか。
それにしても――
わたしたちが飛ばされた過去で知った、いくつかの事実。
ルシア先生のお父様とお母様の命を奪った、『アペルピスィア』のダンジョン。
なぜあのとき『アペルピスィア』が起きたのか。
調査に向かったダンジョンではなにが起きたのか。
わたしの出自にまつわる、あの荒野でのできごと。
円に直線をくみあわせた紋章は目に焼き付いている。
同胞を虐殺した、ローブをまとう黒馬の魔導士は何者か。
いつか、歴史に消えたこれらのことをきちんと調べなくては。
それが、今に生きるわたしたちの義務かもしれない。
でも、今は、それより前に、しなければならないことがあるのです。
わたしは、お茶のはいったカップを、コトリ、とテーブルの上に置いた。
「ユウさん、ルシア先生、わたしはお二人に言いたいことがあります!」
まったり紅茶を飲んでいる二人を、わたしはきびしく問い詰めた。
「「は、はい?」」
「お二人の婚礼は、いったい、どうなっちゃったんですか?!」
ユウも、ルシア先生も、ぽかんとしたあと、気まずい顔になり
「あ……そうね……なんかいろいろあったから……むにゃむにゃ……」
「そっちが優先で……むにゃむにゃ……わすれてたというか……」
いいわけまで、ぴったり息がそろっているのはどうなのか。
「みんな、楽しみにしているんですよ。お二人がまずやらなければならないのは、それです!」
「うっ……ライラ、今日はなんかきびしいね……」
「そ、そうね、師匠にそれは……ないわね……うん」
なおもいいわけをする二人に、ジーナが、にやにや笑うのだった。
「いいぞ、ライラ! もっと言っちゃえ!」
「もちろんよ、ジーナ。あたしたちが言わなきゃ、誰が言うのよ!」
「わかった……わかったよ」
「うん、わかったから、ね……うん……」
話が進みそうになったその時——
ドバアアアンン!
門の外、坂道の下の方で、何かが破裂する音がした。
そして
「うわああああああ!」
「加護はどうなっちゃったんだよー!」
「きゃああああああ!」
「みなさーん、助けてくださーい!」
聞こえてくる四人の叫び。
もちろん、それはあの人たち。「暁の刃」である。
またなにかを引き当てたようだ。さすがである。
ルシア先生が言う。
「ライラ、ジーナ、行ってあげなさい」
「「はいっ!」」
返事をする前に、わたしとジーナはもう駆け出していた。
これが、還ってきたわたしたちの「今」。
「今」を生きることが、わたしたちの務め——。
アンバランサー・ユウ第三編「時の大伽藍」編 <完>
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