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15.ルーク殿下のおかげか!

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 半ば拉致されるかのように俺は馬車に乗せられた。外からは鍵をかけられ、窓もない。これではまるで罪人の護送だ。けれど帝都のメインストリートを通る間はまるでお祭り状態だった。がやがやとしているのが聞こえ、人だかりができているのがわかる。馬車自体の作りは一見して豪華だが、張りぼてのように壁は薄く、外の声が丸聞こえだった。

「なんでも廃太子のルーク殿下がストラテ王国に嫁ぐらしい」

「嫁ぐ? ルーク殿下は男だろう?」

「なんでも夜会で、自分は男色家だと公言なさったらしい。女を愛せないんじゃ、後継ぎも望めないからって廃太子になったとさ」

「へぇ。じゃあ、ストラテ王国の殿は誰なんだ?」

「大宰相の弟君だってさ」

 あることないこと噂する愚民どもが忌まわしい。同性愛者ではないし、この婚約も望んだものではない。黙って下々の者に言われ続けるのは我慢できず、薄い壁を思いっきり叩いた。

「おい、開けろ。俺の命令を無視するのか」

「やむをえない状況でない限り開けるなとの、皇太子殿下の命令ですので出来かねます」

 護衛の騎士は非情だった。

 その声に覚えがあった。確か名家の貴族の次男で、俺が取り立ててやったこともあった男だ。その恩を忘れるとは。もはや俺に味方はいないのか。このまま大人しくストラテ王国ごときの豚に嫁ぐなど、ありえない。何とかして脱出し、お父様に助けてもらおうと騎士たちの隙を狙う俺の耳には、平民どもの駄弁が嫌でも聞こえてきた。

「弟君だって? 帝国もなめられたもんだな」

「それがよ、ストラテ王国が頼み込んだらしいぜ? その代わり、帝国と正式に貿易をするらしい」

「ん? 貿易なんて今までもしてきたじゃないか」

「ストラテ王国は結構裕福な国でよ、帝国の辺境伯とはやってたらしいが今回のは大々的に皇室とも貿易するらしい。景気も良くなるだろうよ」

「つぅことは、なんだ。ルーク殿下のおかげか!」

「そういうこったな!」

 げらげらと笑い声がする。

 俺のおかげで、貿易が?

 ストラテ王国が頼み込んだ?

 それらが頭の中をぐるぐると回り、そのうち悪い気はしなくなった。ストラテ王国が頼み込んだのなら、帝国側、つまり俺のほうが立場が上ということだ。であれば、婚約の場で破棄してやればいい。さぞ胸のすく思いがするだろう。

 部屋に閉じ込められて三日、馬車の中に押し込められてまた三日。しかも帝都を出てからというもの、揺れがひどく、酔っているというのに止まらない。待っていろよ、と意気込みつつ、俺はバケツを抱えていた。


「…でもよ、今の不景気はルーク殿下のとんちんかんな政策と浪費のせいだろ? なら、責任取るのは当たり前なんじゃないか?」

「それもそうだな!」
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