15 / 38
15.ルーク殿下のおかげか!
しおりを挟む
半ば拉致されるかのように俺は馬車に乗せられた。外からは鍵をかけられ、窓もない。これではまるで罪人の護送だ。けれど帝都のメインストリートを通る間はまるでお祭り状態だった。がやがやとしているのが聞こえ、人だかりができているのがわかる。馬車自体の作りは一見して豪華だが、張りぼてのように壁は薄く、外の声が丸聞こえだった。
「なんでも廃太子のルーク殿下がストラテ王国に嫁ぐらしい」
「嫁ぐ? ルーク殿下は男だろう?」
「なんでも夜会で、自分は男色家だと公言なさったらしい。女を愛せないんじゃ、後継ぎも望めないからって廃太子になったとさ」
「へぇ。じゃあ、ストラテ王国の殿は誰なんだ?」
「大宰相の弟君だってさ」
あることないこと噂する愚民どもが忌まわしい。同性愛者ではないし、この婚約も望んだものではない。黙って下々の者に言われ続けるのは我慢できず、薄い壁を思いっきり叩いた。
「おい、開けろ。俺の命令を無視するのか」
「やむをえない状況でない限り開けるなとの、皇太子殿下の命令ですので出来かねます」
護衛の騎士は非情だった。
その声に覚えがあった。確か名家の貴族の次男で、俺が取り立ててやったこともあった男だ。その恩を忘れるとは。もはや俺に味方はいないのか。このまま大人しくストラテ王国ごときの豚に嫁ぐなど、ありえない。何とかして脱出し、お父様に助けてもらおうと騎士たちの隙を狙う俺の耳には、平民どもの駄弁が嫌でも聞こえてきた。
「弟君だって? 帝国もなめられたもんだな」
「それがよ、ストラテ王国が頼み込んだらしいぜ? その代わり、帝国と正式に貿易をするらしい」
「ん? 貿易なんて今までもしてきたじゃないか」
「ストラテ王国は結構裕福な国でよ、帝国の辺境伯とはやってたらしいが今回のは大々的に皇室とも貿易するらしい。景気も良くなるだろうよ」
「つぅことは、なんだ。ルーク殿下のおかげか!」
「そういうこったな!」
げらげらと笑い声がする。
俺のおかげで、貿易が?
ストラテ王国が頼み込んだ?
それらが頭の中をぐるぐると回り、そのうち悪い気はしなくなった。ストラテ王国が頼み込んだのなら、帝国側、つまり俺のほうが立場が上ということだ。であれば、婚約の場で破棄してやればいい。さぞ胸のすく思いがするだろう。
部屋に閉じ込められて三日、馬車の中に押し込められてまた三日。しかも帝都を出てからというもの、揺れがひどく、酔っているというのに止まらない。待っていろよ、と意気込みつつ、俺はバケツを抱えていた。
「…でもよ、今の不景気はルーク殿下のとんちんかんな政策と浪費のせいだろ? なら、責任取るのは当たり前なんじゃないか?」
「それもそうだな!」
「なんでも廃太子のルーク殿下がストラテ王国に嫁ぐらしい」
「嫁ぐ? ルーク殿下は男だろう?」
「なんでも夜会で、自分は男色家だと公言なさったらしい。女を愛せないんじゃ、後継ぎも望めないからって廃太子になったとさ」
「へぇ。じゃあ、ストラテ王国の殿は誰なんだ?」
「大宰相の弟君だってさ」
あることないこと噂する愚民どもが忌まわしい。同性愛者ではないし、この婚約も望んだものではない。黙って下々の者に言われ続けるのは我慢できず、薄い壁を思いっきり叩いた。
「おい、開けろ。俺の命令を無視するのか」
「やむをえない状況でない限り開けるなとの、皇太子殿下の命令ですので出来かねます」
護衛の騎士は非情だった。
その声に覚えがあった。確か名家の貴族の次男で、俺が取り立ててやったこともあった男だ。その恩を忘れるとは。もはや俺に味方はいないのか。このまま大人しくストラテ王国ごときの豚に嫁ぐなど、ありえない。何とかして脱出し、お父様に助けてもらおうと騎士たちの隙を狙う俺の耳には、平民どもの駄弁が嫌でも聞こえてきた。
「弟君だって? 帝国もなめられたもんだな」
「それがよ、ストラテ王国が頼み込んだらしいぜ? その代わり、帝国と正式に貿易をするらしい」
「ん? 貿易なんて今までもしてきたじゃないか」
「ストラテ王国は結構裕福な国でよ、帝国の辺境伯とはやってたらしいが今回のは大々的に皇室とも貿易するらしい。景気も良くなるだろうよ」
「つぅことは、なんだ。ルーク殿下のおかげか!」
「そういうこったな!」
げらげらと笑い声がする。
俺のおかげで、貿易が?
ストラテ王国が頼み込んだ?
それらが頭の中をぐるぐると回り、そのうち悪い気はしなくなった。ストラテ王国が頼み込んだのなら、帝国側、つまり俺のほうが立場が上ということだ。であれば、婚約の場で破棄してやればいい。さぞ胸のすく思いがするだろう。
部屋に閉じ込められて三日、馬車の中に押し込められてまた三日。しかも帝都を出てからというもの、揺れがひどく、酔っているというのに止まらない。待っていろよ、と意気込みつつ、俺はバケツを抱えていた。
「…でもよ、今の不景気はルーク殿下のとんちんかんな政策と浪費のせいだろ? なら、責任取るのは当たり前なんじゃないか?」
「それもそうだな!」
10
お気に入りに追加
166
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された上、冤罪で捕まり裁判前に貴族牢で毒殺された公爵令嬢。死に戻ったのでお返しに6歳の王宮主催のお茶会で不敬発言を連発します
竹井ゴールド
恋愛
卒業パーティーで義妹を虐けてるとの冤罪で公爵令嬢は王太子から婚約破棄を言い渡された挙げ句、貴族牢へと入れられた。裁判で身の潔白を証明しようと思ってた矢先、食事に毒を盛られて呆気なく死んだ公爵令嬢は気付けば6歳の身体に戻っていた。
それも戻った日は王太子と初めて出会った王宮主催のお茶会という名のお見合いの朝だった。
そっちがその気なら。
2回目の公爵令嬢は王宮主催のお茶会に決意を持って臨むのだった。
【2022/7/4、出版申請、7/21、慰めメール】
【2022/7/7、24hポイント3万9000pt突破】
【2022/7/25、出版申請(2回目)、8/16、慰めメール】
【2022/8/18、出版申請(3回目)、9/2、慰めメール】
【2022/10/7、出版申請(4回目)、10/18、慰めメール】
【2024/9/16、お気に入り数:290突破】
【2024/9/15、出版申請(5回目)】
【2024/9/17、しおり数:310突破】
婚約者が隣国の王子殿下に夢中なので潔く身を引いたら病弱王女の婚約者に選ばれました。
ユウ
ファンタジー
辺境伯爵家の次男シオンは八歳の頃から伯爵令嬢のサンドラと婚約していた。
我儘で少し夢見がちのサンドラは隣国の皇太子殿下に憧れていた。
その為事あるごとに…
「ライルハルト様だったらもっと美しいのに」
「どうして貴方はライルハルト様じゃないの」
隣国の皇太子殿下と比べて罵倒した。
そんな中隣国からライルハルトが留学に来たことで関係は悪化した。
そして社交界では二人が恋仲で悲恋だと噂をされ爪はじきに合うシオンは二人を思って身を引き、騎士団を辞めて国を出ようとするが王命により病弱な第二王女殿下の婚約を望まれる。
生まれつき体が弱く他国に嫁ぐこともできないハズレ姫と呼ばれるリディア王女を献身的に支え続ける中王はシオンを婿養子に望む。
一方サンドラは皇太子殿下に近づくも既に婚約者がいる事に気づき、シオンと復縁を望むのだが…
HOT一位となりました!
皆様ありがとうございます!
〖完結〗妹が妊娠しました。相手は私の婚約者のようです。
藍川みいな
恋愛
妹のデイジーは、全てを奪って行く。愛する婚約者も、例外ではなかった。
「私ね、キール様の子を妊娠したみたいなの」
妹は、私の婚約者との子を妊娠した。両親は妹を叱るどころか二人の婚約を祝福した。
だけど、妹は勘違いをしている。彼を愛してはいたけど、信じてはいなかった。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
趣味を極めて自由に生きろ! ただし、神々は愛し子に異世界改革をお望みです
紫南
ファンタジー
魔法が衰退し、魔導具の補助なしに扱うことが出来なくなった世界。
公爵家の第二子として生まれたフィルズは、幼い頃から断片的に前世の記憶を夢で見ていた。
そのため、精神的にも早熟で、正妻とフィルズの母である第二夫人との折り合いの悪さに辟易する毎日。
ストレス解消のため、趣味だったパズル、プラモなどなど、細かい工作がしたいと、密かな不満が募っていく。
そこで、変身セットで身分を隠して活動開始。
自立心が高く、早々に冒険者の身分を手に入れ、コソコソと独自の魔導具を開発して、日々の暮らしに便利さを追加していく。
そんな中、この世界の神々から使命を与えられてーーー?
口は悪いが、見た目は母親似の美少女!?
ハイスペックな少年が世界を変えていく!
異世界改革ファンタジー!
息抜きに始めた作品です。
みなさんも息抜きにどうぞ◎
肩肘張らずに気楽に楽しんでほしい作品です!
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~
日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。
もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。
そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。
誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか?
そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。
「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です
リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。
でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う)
はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか?
それとも聖女として辛い道を選ぶのか?
※筆者注※
基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。
(たまにシリアスが入ります)
勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる