神は気まぐれ

碓氷雅

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…言ったではないですか、お父様。

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 はたから見るだけでがれきの下の二人が絶命しているのがわかる。数秒もしないうちに、二人の出血で辺りは周辺が染まっていく。

 悲鳴を皮切りに、会場はパニックになった――――はずだった。




 音が消えた。




 いや、正しくはが消えたというべきか。とにかく、静寂が広がったのである。

 人間の動きは石化したように止まり、やがて砂となって崩れ落ちて消えた。まるで砂糖が紅茶に溶けるように、空気に砂はほとんどが溶けていく。それは瓦礫の下敷きになった二人を囲んでいた者から中心に、波状に広がり、会場の外まで続いていった。

「ア…ンナ…」

 その声に振り向かされれば、フリオが崩れる腕を抱えて頽れていた。苦し気にフリオの表情が歪む。まだ残っている方の腕をアンナの方に伸ばした。胸元の襟にちらりと赤いハンカチが見えた。

 その赤だけ少し胸の端に引っかかった気がしたけれど、何をするでもなく、アンナはただ直立不動のままフリオを眺める。

 やがてフリオの灰色の頬に涙が一筋流れて、彼は塵となった。

「…言ったではないですか、お父様。この国は滅び、人間は消えると…」

 そんな無機質な声は、廃墟と介した王宮に吹く風に掻き消されてしまった。
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