9 / 17
閑話 神殿の話
しおりを挟む
最高司祭の男は、儀式のためのローブに身を包み、杖の音を響かせて回廊を歩いていた。付き人はなく、起きるには早すぎる夜明け前であった。神殿の中心部にある教会堂を横切り、北の端にある塔へと入る。
普通に扉を開けば下へと続く階段が現れ、その先には宝物が保管されている。しかしこの司祭は仕掛けのレバーをいったん横にずらしてから下げた。鈍い音が続き、開いた扉の向こうには上へとつながる階段がある。
杖を頼りに男は登った。
「神よ。我らが崇める女神よ。どうか我らに先見の明を与えたまえ」
きれいに切り出された石が敷き詰められた空間は、外からではない光でことのほか明るい。古代から残る、女神の力が宿っているとされる石のおかげであった。
淡く光を放つ石の前に跪き、頭を垂れて司祭は儀式を始めた。呪文をぼそぼそと繰り返し、何度も何度も額を床にこすりつける。
やがて声が嗄れ、床に血がにじみ出す。
石は眩い閃光を放った。
司祭の頭に声が響く。朦朧とした意識の中で聞いた言葉を何とか紙に書き留めた。興奮状態から冷めやらぬ身体のまま、自分の書いた文字を見てあわてて階段を駆け下りていく。
伝えねばならぬ。一刻も早く。
この塔で聞いたお告げに間違いはなかった。ならば今回も予言通りのことが起こるだろう。国王に助けを。助力を求めねば…。
急ぐあまり、勢い余って司祭の身体は宙に浮く。落ちた先の石段は、運の悪いことに鋭く欠けていた。側頭部を強く打ち、血が止めどなく流れていく。それでもなお、司祭は使命感に突き動かされ、歩いた。
男はそれから数時間後、塔の扉の前、血だまりの中で見つかった。その手には書き留めた予言をしかと握りしめて。
普通に扉を開けば下へと続く階段が現れ、その先には宝物が保管されている。しかしこの司祭は仕掛けのレバーをいったん横にずらしてから下げた。鈍い音が続き、開いた扉の向こうには上へとつながる階段がある。
杖を頼りに男は登った。
「神よ。我らが崇める女神よ。どうか我らに先見の明を与えたまえ」
きれいに切り出された石が敷き詰められた空間は、外からではない光でことのほか明るい。古代から残る、女神の力が宿っているとされる石のおかげであった。
淡く光を放つ石の前に跪き、頭を垂れて司祭は儀式を始めた。呪文をぼそぼそと繰り返し、何度も何度も額を床にこすりつける。
やがて声が嗄れ、床に血がにじみ出す。
石は眩い閃光を放った。
司祭の頭に声が響く。朦朧とした意識の中で聞いた言葉を何とか紙に書き留めた。興奮状態から冷めやらぬ身体のまま、自分の書いた文字を見てあわてて階段を駆け下りていく。
伝えねばならぬ。一刻も早く。
この塔で聞いたお告げに間違いはなかった。ならば今回も予言通りのことが起こるだろう。国王に助けを。助力を求めねば…。
急ぐあまり、勢い余って司祭の身体は宙に浮く。落ちた先の石段は、運の悪いことに鋭く欠けていた。側頭部を強く打ち、血が止めどなく流れていく。それでもなお、司祭は使命感に突き動かされ、歩いた。
男はそれから数時間後、塔の扉の前、血だまりの中で見つかった。その手には書き留めた予言をしかと握りしめて。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
虐げられた令嬢、ペネロペの場合
キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。
幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。
父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。
まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。
可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。
1話完結のショートショートです。
虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい……
という願望から生まれたお話です。
ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。
R15は念のため。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる