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一年生・冬の章

婚約指輪②

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「おまたせ、えへへ。これですっ」


 フィンは緊張した面持ちでリヒトにプレゼントを手渡す。


「ありがとう。開けてもいい?」


 プレゼントを受け取ったリヒトは宝物を扱うようにそれを持つと、首を傾げフィンに確認をとった。


「うん!」


 返事を聞いたリヒトは小さく笑みを浮かべ、ラッピングを丁寧に剥がすと中から長方形の白い箱が現れる。それをパカっと開くと、中には繊細な銀鎖のネックレスがあり、リヒトはそれを手に取ってチャーム部分を眺めた。


「これは、すごく綺麗だな……花が継続的に輝いていて不思議だ。一体こんなのどこで手に入れたんだ?」


 少し大きめの透明なガラス玉の中に浮かぶ、幻想的に輝く澄んだ青色の花びら。花びらと言えば可愛らしい印象を与えるが、この花びらはダイヤ型の形をしておりクールな印象を与えていることから、リヒトが身につけても違和感がないものになっていた。


「あのね、いろいろお店も見て回ったんだけどあまりピンとこなくて。リヒト、よく僕に世界で一つしかないものをくれるでしょう?だから僕も作ってみたんだ」

「こんな素敵な物……フィンが作ったのか?」


 リヒトは嬉しそうに目を見開く。


「うん……!あのね、シルフクイーンにお願いして妖精界にしかないお花を摘んできてもらったの。リヒトの目の色に近い青いやつでお願いーって!
 それでね、それを丸いガラスの中にスターパラフィンと一緒に流し込んで閉じ込めるようにして作ったんだ。水だと上手く浮かばなかったから」

「なるほど、この液体少しとろみがあると思ったら、そういうことか」


 スターパラフィンは、魔力星石とパラフィンを魔法で融合させることで得られる煌めく透明の液体。物同士を合わせて何かを生み出す錬金術と呼ばれる手法となっており、魔法よりも比較的魔力の消費が抑えられるため、魔力の少ない庶民でも錬金術師を生業とする者もいる。
 花びらを綺麗に浮かせるようばスターパラフィンを探すのは大変だったろう、とリヒトは内心思った。


「妖精界のお花ってね、摘んでも枯れないんだって。それでね、花びら一枚にたくさんの魔力が籠ってるんだよ」

「ほう。妖精界には、こちらではあり得ない物が沢山あると聞く。そんな貴重な物を分けてもらえるなんてすごいなフィンは」


 リヒトは優しい手つきでフィンの頭を撫でると、フィンはふわっと照れ笑いを浮かべた。


「えへへ……!もし魔力が枯渇したら、そのお花が代わりになってくれるってシルフクイーンが教えてくれたんだ。リヒトに限ってそんなことは起こらないかもしれないけど、お守りだと思ってつけていてほしいの」


 フィンは照れながらそうお願いをすると、リヒトはフィンを引き寄せて優しく抱き締める。


「もちろんだ、すごく嬉しいよ。フィンの手作りの物を貰えるなんて俺は幸せ者だな。ああ、そうだ。俺に今つけてくれる?」

「うん!」


 フィンは抱き締めるような体勢でリヒトにプレゼントのネックレスをつける。透明感の銀髪にマッチした細めの銀鎖が、よくリヒトに似合っているとフィンは得意げに笑みを浮かべた。


「えへへ、やっぱりすごく似合う。リヒトの綺麗な銀髪には銀のアクセサリーが一番ぴったり」

「フィンが言うなら間違いない。一生大事にするよ。……この銀、結構な値段したんじゃないか?」


 目利きなリヒトは、銀の質の良さに驚きながら問いかける。一等地にあるジュエリーショップに置いてあるような品質のものだろうが、相当な値段になることは間違いなかった。


「値段のことはいーの!僕へそくりいっぱいあるんだからねっ。なんてったって図書館のお給料がとっても良いから」


 バイトで稼いだところで、普段の生活での使い所があまりないフィン。いつの間にか良質なネックレス用の銀鎖を買えるほどのお金が溜まっていたのだと笑う。


「フィン、全然お金を使わないと思ったら、こんな形で俺に返ってくるなんてね。しかも手作りなんて、本当に君は可愛いことをする」


 リヒトはチャーム部分を摘みキスをすると、愛おしそうにフィンを見つめた。色っぽいリヒトの所作にフィンは思わず顔を赤らめ目を逸らす。


「っじ、自分のためより、誰かのための方がすんなり使えるんだ僕。リヒトの喜ぶ顔が見たくて……なんて、えへへ」


 フィンはそう言って照れを誤魔化すようにしてシャンパンをごくごくっと飲み干していった。リヒトはそれを見るとぷはっと吹き出す。


「良い飲みっぷりだね。明日はお互い何もないんだから、とことん飲もうか。(フィンのほろ酔い姿がみたい)」


 リヒトはくすくすと笑いながらペースを合わせて同じようにシャンパンを飲み干すと、空のグラスにシャンパンを注いでいった。


「じゃあ、次は俺のプレゼントを開けてくれるか?」


 リヒトは自身が用意したプレゼントを指差すと、フィンは目を輝かせる。リヒト自身、本当に渡したいプレゼントは懐に隠したままだったが、フィンはそんなことは知らず嬉しそうにツリーの方へ向かった。


「うん!二つもありがとう、おっきい方から開けようかなぁっ」

「うん、そうして」


 フィンはツリー前で膝を付いて大きな箱のリボンを解いていく。包装を剥がし出てきた大きな青い箱をパカっと開けると、中には色々な品物がてんこもりに現れた。


「わあ!いっぱい入ってた!!」


 フィンは一つ一つ品物を確認する。すると、見覚えのあるぬいぐるみが目に入り目を輝かせた。


「おっきなうさぎのぬいぐるみ!お目目が青いやつ!(これ、リヒトの目と一緒のやつ!この間シエルとノエルとお出かけした時に一目惚れしたやつだよね?!)」

「それは魔力を与えると大きくなるらしい。逆に魔力を戻せば小さくなる。俺が魔力を与えたから結構な大きさになっているけど、こうやってもう一度触れれば抜けるから」


 リヒトがぬいぐるみに触れると、どんどんと収縮し手のひらサイズまで小さくなった。フィンはそれを見て目を輝かせる。

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