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一年生・冬の章
クリスマスプレゼント⑩
しおりを挟む「アルヴィス様とジャンヌ様が到着されました」
本邸の使用人のトップである執事・ライオスが現れ、リヒトの前に立つと片膝をついてから落ち着いた様子でそう報告する。
「(動じるなライオス。私はこの誇り高きシュヴァリエ家に仕える忠実な執事であろう。こんなことで動揺していてはダメだ)」
ライオスはクールな表情を浮かべてはいるものの、内心リヒトのサンタ帽姿を見て動揺を隠せずにいた。それをなんとなく感じ取ったリヒトは、ジトっとした目でライオスを見下ろす。
「おいライオス。声が少し震えていたが何か問題でもあったか?」
脅しのような問いかけにライオスが少し目を引くつかせ、頭を上げることなくそのまま口を開く。
「いえ、滅相もございません。準備は滞りなく」
ライオスは毅然とした声色でそう答えると、正面の扉が勢い良く開かれ一同はそちらに顔を向けた。
「メリークリスマァァァァァァァァァァス!!!」
本物のトナカイが引く木製の大型のそりに乗った、サンタコスプレをする男女二人。そりに取り付けられたベルがけたたましく鳴り響くと、パーティー会場は一気に騒がしくなる。
フィンは突然の光景に目を見開き動揺を隠せずにいた。
「パパ!」
「ママ!」
双子がそう叫んだところで、フィンはその二人がアルヴィスとジャンヌだと気付いた。二人はそりから降りると、アルヴィスはシエルを、ジャンヌはノエルを抱き上げてはしゃぎ出す。
「ただいま帰ったぞ!また大きくなったなお前達」
「ついこの間まで赤ちゃんだったと思ったのにねぇ」
「「赤ちゃんじゃないっ」」
「はっはっはっ」
二人は双子を愛でた後、エヴァンジェリンの方へ駆け寄る。
「おお、エヴァンジェリン。私達に最初の福音を授けた愛おしい子よ。どんどんジャンヌに似てきたな、瓜二つじゃないか」
「あらほんと、若い時の私にそーっくりね」
アルヴィスがそう声をかけると、ジャンヌも驚いた表情でエヴァンジェリンを見る。
エヴァンジェリンはクスクスと笑いカーテシー作法でスカート部分を摘み膝を曲げて身体を沈め挨拶をした。
「お久しぶりです、お父様、お母様」
天真爛漫なエヴァンジェリンだが、この時ばかりは少し畏まった様子で挨拶をした。
「おいでエヴァンジェリン」
ジャンヌがそう声をかけると、エヴァンジェリンはうっすら涙を浮かべジャンヌに飛びつく。
「お母様~!」
いつもの天真爛漫な様子に戻り、満面の笑みを浮かべるエヴァンジェリン。
「もう立派なレディなのに、甘えん坊なのは変わらないわねぇ。誰に似たのかしらぁ」
「私かな」
アルヴィスはそう言ってクスッと笑い、ジャンヌもそれを聞くとクスクスと笑いながらエヴァンジェリンの頭を撫でる。
「……さて」
そして二人は、リヒトを見ると表情を一気に固い表情を浮かべた。一気に雰囲気が変わり、フィンは緊張した面持ちで固まる。
「お前……」
アルヴィスはリヒトに近付き、目を疑うような様子で首を傾げた。
「リヒト、だよな?」
なぜか疑問系で問いかけるアルヴィス。
「……はい。お久しぶりです父上」
リヒトはそう言って一礼すると、アルヴィスは少しの間の後口元を抑え笑いを堪える。
「なんだその格好は!ふざけているのか?お前が?あのお前が?」
リヒトがサンタ帽を被っている事がよほどおかしいのか、震えた声でそう言って笑う。一気に雰囲気が明るくなり、ジャンヌも同じように笑った。
「父上にだけは言われたくないです」
サンタのヒゲまでつけてはしゃぐアルヴィスに馬鹿にされた事が腹立たしいのか、リヒトは口元を引くつかせる。
「それはそうと、少し見ない間に随分雰囲気が変わったのねぇ」
ジャンヌは柔らかな声でそう言ってリヒトを見上げると、そっと頬に触れ愛おしそうに見つめる。
「そうでしょうか」
久しぶりに触れた母親の体温に、リヒトは一瞬懐かしい気持ちが込み上げた。
「ええ。貴方を産んだときにね、“ああ、この子は光。全てを照らす光になる”って思ったの。思った通りだわ。優しい光ね」
ジャンヌはそう言ってリヒトを抱き締める。
「っ」
リヒトは少し動揺した様子で目を見開くも、遠慮がちに、されど優しく抱き締め返し目を細めた。
「お帰りなさい、母上」
リヒトは小さくそう言うと、ジャンヌはうっすら涙を浮かべ小さく頷く。その様子を見たアルヴィスは、サンタ帽を脱いで付け髭を取りフィンに近付いて優しく見下ろした。
「っ!」
間近で見るアルヴィスは、写真よりもリヒトに似ており驚くフィン。
「君がフィンくん、だね?噂は予々。思ったよりも小さくて可愛い子だね」
アルヴィスはフィンの手を取って手の甲にキスをする。
「あ、あの、はじめましてっ……」
驚いたフィンは顔を真っ赤にしながらぎこちなく挨拶をする。
「おやおや、照れ屋なのかな。可愛い表情をする」
アルヴィスは目を丸くした後軽く笑ってフィンの頭を撫でると、ジャンヌの方へ目を向ける。二人は目を合わせ頷くと、ジャンヌはリヒトの背中を何度か撫でてから離れフィンの方へ駆け寄った。
「初めまして、フィンさん」
ジャンヌは上品な笑みを浮かべフィンを見下ろし挨拶をする。フィンは慌てて畏まった様子で挨拶をした。
「初めまして!あの、フィン・ステラです」
フィンは自身なさげな表情で続けた。
「きょ、今日はお邪魔してしまって、申し訳ありませんっ」
俯き加減でそう言うフィンに、二人は目を合わせ軽く息を吐いた。アルヴィスはフィンの手を掴む。
「少し、別の部屋で話せないか?私達夫婦と三人で」
「え……?」
動揺するフィン。
「どういうつもりですか」
自分の目の届かない所に連れていこうとする二人に、リヒトは怪訝な表情を浮かべ躊躇った。そんなリヒトに、ジャンヌは宥めるように耳打ちをする。
「何も悪いことなんて言わないわ。アルヴィスは貴方に聞かれると恥ずかしいのよ、きっと」
ジャンヌはそう言ってリヒトの肩を撫でる。
「悪いが少し借りていくぞ。悪いようにはしない」
「いいですけど、あまりベタベタ触らないでもらえます」
実の父親、それに自分によく似た男だとより不快なのか、リヒトはフィンの手を掴むアルヴィスをじとっとした目で見る。
「おっとすまない。それじゃあ行こうかフィンくん」
「はい……」
フィンはチラッとリヒトを見る。リヒトは小さく頷き、安心させるように軽く笑った。フィンはそれを見ると安心した様子で目を細める。
三人はそのまま近くの談話室に場所を移した。
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