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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

ルイの悩み③

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「とんでもございません。その、私は貴族ではありませんので、お城に住んでいるわけではないのです。この素敵なお洋服も全てルイ様に頂いた物で。庶民の私が、こんな不相応な物を着て申し訳ありません」


 フィンは自身を探られた時に答えるセリフをつっかえる事なく言ってみせると、リュシエンヌは少し目を見開く。


「(庶民ですって?ルイ様のような高貴な家柄の子息が、庶民と……?)」


 眉を顰めるリュシエンヌ。


「ミシュリー。不相応なんて言わないでくれ。とても似合っているし、君以外にそのドレスを着こなせる子がいるとは思えないぐらいに可愛いよ」


 ルイもセリフ通りに笑顔たっぷりでそう言うと、フィンは照れた笑みを見せて両頬を手で押さえる。
 リュシエンヌは二人のラブラブ(な演技)っぷりに苛々しつつも、なんとか作り笑顔を浮かべた。


「そうですよミシュリー様。ルイ様がお選びになったのですから、とてもお似合いですよ(どーりで質の良いドレスだと思ったわ。ま、庶民ということなら本気にはならなさそうね)」


 リュシエンヌはそう解釈して不敵に笑みを浮かべると、振り返り中庭への扉を開いて二人を案内する。そして何食わぬ顔で二人を真っ白で繊細な細工が施された椅子に案内すると、ペコリと頭を下げてからフィンを一瞥した。


「それではごゆっくりお楽しみくださいませ(ルイ様はこういう小さくて愛らしい、フワッとした子がタイプなのかしら。私と真逆ね……)」


 フィンはリュシエンヌと目が合うと、にこりと純粋な笑みを浮かべてお辞儀をする。


「ご案内いただき、ありがとうございますっ」

「……(ルイ様のご寵愛を得られるのは今のうちだけよ)」


 リュシエンヌはぺこりと軽く会釈をした後、笑顔ひとつも見せず心の中で毒を吐きその場を離れた。
 残された二人は、リュシエンヌが完全に中庭から去ったことを確認すると安堵のため息を浮かべる。


「予定が狂ったな」


 ルイは眉を顰め頭を掻くと、フィンは苦笑する。


「そうだねえ。すぐにお部屋に行って、しばらくしたら帰るってシナリオだったもんね?」

「とりあえず適当に時間潰してから部屋に行くか」


 ルイがそう言うと、アレクシがワゴンを押しながら登場した。


「失礼しますルイ様。お紅茶とお菓子をお持ちしました」


 アレクシは執事らしくペコリと頭を下げ、丁寧かつ素早くテーブルに紅茶と高級な菓子を並べていく。


「わぁ……」


 大のお菓子付きのフィンは、演技関係なく目を輝かせよだれを垂らしたため、ルイはクスッと笑った。


「ったく、仕方ないな。好きなだけ食べろよ」

「わー!いいのー?」

「あぁ、でも……悪いが、食べる時は俺に一口ちぎって先に食べさせてくれ」


 アレクシが用意したとはいえ、毒の可能性も捨てきれないルイは、アレクシの方を見る。


「悪く思うなアレクシ。念のためだ」

「心得ておりますルイ様」

「それって毒味ってこと……?」


 フィンは顔を青くして首を傾げる。


「心配すんな。俺みたいな家柄の子供は幼少期から少しずつ毒に慣らされる。並大抵の毒じゃ死なないようになってるんだよ。多分師匠……シュヴァリエ公爵もそうじゃないのか?」

「そうなんだ、知らなかったー」


 フィンは大きめのマカロンを少しちぎると、ルイに手渡す。ルイは上の階の窓からリュシエンヌがこちらを見ていることに気付くと、口角をあげた。


「フィン。アイツが上から見てる。このまま食うからな」


 ルイは演技として優しい笑みを浮かべながら小声でそう言うと、フィンはも合わせるように笑みを浮かべ頷く。


「わかった」


 ルイは渡されたマカロンを手で受け取らず、そのままパクリとフィンの手から直接頬張り満面の笑みを浮かべる演技をする。


「……大丈夫そうだな(馬鹿みてーに甘いな……)」

「じゃあいただきます」


 フィンは手に持っていた半分ほどのマカロンを食べようとすると、ルイはそれを奪いフィンに差し出す。


「まだ上から見てる。トドメを刺すぞ」

「うん!わかった」


 フィンはルイの手からパクリとマカロンを食べると、幸せそうに笑みを浮かべて美味しそうに咀嚼した。


「おいひー」

「そりゃよかった」


 その後も二人はリュシエンヌの視線を受け取りながら、お菓子を食べ続けていた。中庭の様子を上の階の窓から眺めていたリュシエンヌは、しばらくその光景を見て面白くなさそうに表情を歪めた後その場を立ち去る。そして、自室に籠り置いてあった花瓶を思い切り壁に叩きつけた。


「ルイ様は甘い物をお召しにならないのに、あの女の前だと半分こなんてしちゃって……」

「今まで一切恋人の影なんか見せなかったのに、急にどうして……」


 火遊びであれば、と思っていたが、どうにも二人の様子が親密すぎて焦りを見せているリュシエンヌはぶつぶつと小言を言うように呟きはじめた。


「お父様にも頼んで、妾でもいいからルイ様とどうにかならないか相談していたのに……三年もあれば王に進言して私を南に嫁がせる手筈は整うと聞いたわ。でもこれじゃああの女にその座を奪われる」

「貴族なら身元はすぐに割れるのに、庶民じゃすぐには調べがつかないじゃないの!」


 爪を噛むリュシエンヌ。よほどルイに執着していたのか、その表情は醜く歪んでいた。


「今日、殺すしかないかしら」


 狂気に満ちた表情を浮かべるリュシエンヌは、杖を忍ばせて部屋を後にした。





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