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一年生・秋の章<それぞれの一週間>

うぉーあいにー⑫

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「シャオくん」


 フォンゼルは震えるシャオランの手をギュッと強く握り返すと、涙目のまま小さく微笑み名前を呼んだ。
 シャオランはピクッと反応を示し、おずおずとフォンゼルを見る。
 長い白の睫毛には涙が水滴のように滴って煌めいており、アメジストを思わせる紫の瞳は、潤んでより一層魅力的だった。
 

「はい……フォンゼルさん」


 全てを忘れさせてくれるような魅力的な美しさに、シャオランは目を細め相手を見つめながら返事をする。


「シャオくんが思う最悪は、僕が絶対全部跳ね返したるよ」


 フォンゼルは真っ直ぐにシャオランを見ると、小さくはにかんだ。


「ボクやったらそのクソみたいな兄貴をぶちのめしたるし、意地悪な母親も黙らせたる。ボクは絶対にやられへんよ、シャオくん」


 それは、“シャオラン自身を案じる言葉”よりも強力に響く言葉だった。シャオランといることで起こり得る不幸は、大きな問題ではないのだと言い張るフォンゼル。


「だから、ボクは大丈夫。あとはシャオくんが覚悟するだけや」

「っ」


 シャオランは目を見開きハッとする。


「ボクのこと全力で愛する準備、してもらわなあかんよ」


 フォンゼルはシャオランの手を取り手の甲にキスをする。
 シャオランはフォンゼルの真っ直ぐな愛情と覚悟を感じると、目を見開き喉の奥が熱くなるような感覚に陥った。



「本当の本当に……本気なんですか。異国の男、それも家では何の権限も持たない僕を」

「シャオくんの肩書きとかそういうのどーでもええ。一目惚れゆーたやんか」


 フォンゼルはぷくーっと頬を膨らませ、シャオランの頬を少し強めに引っ張る。


「いてて」


 シャオランが痛がるとすぐに離したフォンゼルは、得意気に顔を近づけて鼻同士をくっ付けた。


「シャオくんはボクが幸せにしたるよ。絶対に一人にさせへん。ボクが守ったる」


 フォンゼルはそう言ってフワッと笑いシャオランの顔を覗き込んだ。


「っ……フォン、ゼル、さん……」


 グンロンでは周囲を遠ざけて過ごし、この国でもその癖が身に染みていて誰も近寄ってこなかった。味方なんていない、信じるのは自分だけ。それでいいと思っていた。
 しかし、こんなにも自分を光へ導いて強く惹きつけるフォンゼルだけは絶対に手放したくない。


「僕は、貴方を愛せば愛すほどきっと幸せで、その分罪悪感に苛まれます。僕は人を不幸にすると思って生きてきたからです。自分はのうのうとこの国で恋をしていいのかと思ってしまうのも確かです。
 でも、僕は許されたい。怖い気持ちはありますが、それでも貴方を愛したい」


 シャオランは顔を手で覆い、本心を吐露して涙ながらにそう語りかける。フォンゼルを心から愛してしまうことを怖がっているシャオランは、切ない涙を流した。


「ボクは何があっても絶対にシャオくんを諦めへん。シャオくんが何度も背を向きそうになっても、ボクが無理矢理こっちに引き寄せたる」


 フォンゼルはシャオランの手を強く掴み、宥めるような優しい声色を発して涙を浮かべる相手の顔を見つめると、ぺろっと涙を舐めてからキスをした。


「だからシャオくんもボクを諦めへんでよ。必死にもがいて、丸ごと愛して」


 そっと唇を離したフォンゼルは、そう囁いて目を細める。シャオランは俯き加減で小さく頷くと、今度は自分からキスをした。


「……諦めません。貴方のことは絶対に」


 シャオランは決心したような低い声色でそう言うと、フォンゼルの頭を自身の胸元に押し付けるように抱き締め小さく笑みを浮かべた。漆黒の瞳に星空の光が映り込む様子は、シャオランの心に光が差したようだった。


「フォンゼルさん、ありがとう」


 シャオランはとびっきり優しく低い声色でお礼を言うと、目を閉じてギュッとさらに強く抱きしめる。


「んーっ、シャオくんの胸板硬くてくるひいー」


 フォンゼルはふがふがと苦しそうにすると、シャオランは急いで腕を解いて解放する。


「ご、ごめんなさい!つい、力任せに」

「シャオくんムキムキやから、本気でぎゅってされたら骨折れそう」

「気をつけます」


 二人はやがて見つめ合いお互いを見て幸せそうに笑った。




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 シャオランをスレクトゥ寮に送る帰り。箒で飛んでしまえばすぐに着いてしまうからと、二人高台から降りてからは話しながら歩いて帰路についていた。
 二人は恋人繋ぎで、街灯のある舗装された道路を歩いていく。


「ねーシャオくん、今のところボクのどこが好き?」


 フォンゼルは、小さくいじらしい声で問いかける。


「……僕を振り回すその性格が、なんかこう魅力的なのかもしれません。毒迷宮ラビリンスでもずっとからかわれた気がしますが、ああいうのもなんか初めてで」

「ふーん?シャオくん、わがまま言われても優しいから聞いてくれそうやし、こっちも甘えすぎちゃいそうやわ」

「よっぽどじゃない限り、望みは叶えてあげたいです」


 シャオランはそう言ってはにかむ。


「じゃあもっとボクの好きなところ教えて」

「そりゃあ、美人なところです。瞳の色も髪の色も綺麗です」

「シャオくんって面食い?」

「っ、それは、分かりません……でも、フォンゼルさんは本当に美しいなって思いますよ。スレクトゥにも綺麗な方はいますが、本当に見惚れるほど綺麗だと思ったのは貴方だけです」


 シャオランはそう言って顔を赤くするフォンゼルを見下ろし優しく笑って続けた。


「それに、方言というのでしょうか。訛りもなんだか可愛いくてギャップが。それに、線が細いのに無茶苦茶な戦いをするところもまた、なんかこう放っておけない」


 シャオランは眉を顰め考えるようにしてそう言うと、フォンゼルはさらに顔を赤くした。


「も、もうええよそのへんで」

「そうですか?他にも……」

「ええってもうっ」


 フォンゼルは赤い顔のままそっぽを向く。


「貴方が聞いたのに、おかしな人ですね」


 シャオランはフォンゼルが照れていることを察しているが、からかうようにそう言った。
 そんなこんなで、気付けばスレクトゥの寮に繋がる門の前に着いた二人。別れの時間が来たかと思うと、フォンゼルは少し寂しそうに俯いた。







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