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一年生・秋の章<それぞれの一週間>
鈍感な独占欲②
しおりを挟む「ライト……お前は結局、フィン・ステラを女だと疑いつつ、同時にリーヴェスが取られると思って嫉妬し、今回の事が起こったということか」
予想とは違う事の顛末に、アレクサンダーはライトニングをいつもの愛称で呼び呆れた声色で話を進める。
「嫉妬?なんですかそれは」
今度はライトニングが首を傾げ眉を顰めたため、我が弟はここまで鈍感なのかとアレクサンダーは困った表情を浮かべた。
「お前はリーヴェスが誰にも取られたくないと思っているんだろう?」
「当たり前です。これは私のものです。小さい時から一緒なのですから!」
さも当たり前のように自慢げに言って退けるライトニングを見たアレクサンダーは、ならばと少し意地悪な笑みを浮かべた。
「今はお前の側近として側においているが、今日にでも私の側近になるかもしれんぞ?」
アレクサンダーはそう言うが、リーヴェスはそれが冗談だと分かっており複雑な表情を浮かべる。事情を察したアレクサンダーがリーヴェスを利用して反省させようとしているが、ライトニングはその作戦にまんまとハマり、アレクサンダーの言葉を間に受け明らかな動揺を見せ目を見開いた。
「な、なぜですか?リーヴェスは私の側近なのですよ!兄様には沢山従者がいるではないですか」
ライトニングは必死にそう訴えるが、そもそもお灸を据えたいアレクサンダーはそれを鼻で笑って第一王子としての余裕の笑みを浮かべ続けた。
「お前はあんな馬鹿な真似をしているのだから、罰としてリーヴェスをお前の従者から解雇するぐらいはしないとな」
ライトニングは自らへの処罰を聞くと、青ざめた顔で瞳を潤ませる。
「待ってください兄様、他の罰なら受けるので、それだけは……!フィン・ステラにもきちんと謝ります、制裁の雷だっていくらでも受けるので!」
ライトニングが目に涙を溜めて必死に懇願すると、アレクサンダーは兄としての感情を押し殺し、第一王子の威厳を保ったまま冷徹な表情を浮かべた。
「謝罪は当たり前の話だ。私は今までお前に制裁の雷を降らせていたが、それではお前が成長しないと今回の件で気付いた。
お前がそこまでリーヴェスに固執しているのであれば、取り上げることがお前への罰。よく反省しろ」
「そ、そんな」
ライトニングは振り向いてリーヴェスを見る。リーヴェスは複雑な表情を浮かべていると、アレクサンダーは溜息を吐く。
「リーヴェス。今日から私の側近として仕えろ。こちらにこい」
リーヴェスはアレクサンダーの真意に気付いているが、一瞬表情に躊躇を見せ、グッと堪えるように表情を変えるとアレクサンダーの元へ歩き出す。
ライトニングはそれを呆然と眺めており、アレクサンダーの横に立ったリーヴェスを見つめた。
「リーヴェス……」
ライトニングの切なげに呼ぶ声は、間違いなくリーヴェスの心を抉る。
しかし、リーヴェスはライトニングを見ることなく口を開いた。
「申し訳ありません、ライトニング王子。私は第一王子にお仕えします故、今後は別の者に全てのお世話を」
「……」
ライトニングは悲しそうな表情を浮かべその言葉を飲み込むと、涙を堪えて俯いた。
リーヴェスはその姿が見ていられず、眉を顰めながら俯いた。
「どうすれば、リーヴェスを返してもらえますか……」
ライトニングは暗い表情でアレクサンダーを見て質問を投げかける。
「お前が王子としての自覚を持ったら考えてやっても良い」
アレクサンダーはそう即答すると、魔法で扉を開いた。
「分かったのならとっとと行け」
アレクサンダーはライトニングにそう言い放つと、ライトニングは渋々部屋を出るため歩き出す。一度立ち止まって振り返ると、小さく口を開いた。
「 」
それは声を出さずに相手に言葉を伝える読唇術。リーヴェスにしか伝わらないように唇を動かしたライトニングは、そのままその部屋を後にした。
ライトニングの言葉を受け取ったリーヴェスは、目を細めその背中を見送る。
「はー……やれやれ、悪役も疲れる」
アレクサンダーは、ライトニングが去った後、大きな溜息を吐いてからリーヴェスを見た。
「本人は気付いていないが、ライトはお前が好きなようだな。側近としてではなく、恋愛的な意味で。気付いていたか?」
アレクサンダーは答え合わせをするようにリーヴェスに問いかける。
「いえまったく……そもそも、あのような事を言うなんて驚いております」
「お前が珍しく自分以外の者に気を許したと思ったのだろうな。完全な嫉妬だ」
アレクサンダーは軽く笑って続ける。
「しばらく休暇をやる。俺の世話はいらないから自由にしておけ」
「え?ですが……」
「ライトはお前に甘えすぎだ。しばらくお前に頼ることなく成長させるために離しただけであって、俺はお前を本当に側近にするつもりはない。お前だって気付いていただろう」
アレクサンダーの指摘に、リーヴェスは小さく頷く。
「今回の件、止められなかった私にも責任があります。この休暇で自分も反省致します」
リーヴェスはそう言って扉の前まで行くと、一礼してその場を後にした。
幼少期から常に側に仕えたライトニングから離れてみると、何をしていいかが分からない。固執していたのはライトニングだけではないと気付いたリーヴェスは、胸を痛めながらその日を過ごしたのであった。
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