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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
硝子匣のお姫様②
しおりを挟む「そう……みてぇーだけど。なんか不気味だな」
三人はガラスケースに近付き、様子を伺う。近づくほどに、生気のない三体のお姫様がどうにも人形にしか見えないとセオドアは眉を顰めた。
「ボクらがもたもたしとったから、毒が回って死んでもーた?」
フォンゼルがけろっとした声色でそう言うと、シャオランは溜息を吐く。
「縁起でもないことを言わないでくださいよ……それにしても、このお姫様達は皆さん、本当に眠ってらっしゃるんでしょうか」
シャオランが、右端のガラスケースをトントンと指で叩くと、中にいたブルードレスを着たお姫様が目を覚まし、ガラスケースが一気に割れた。
「お掃除開始シマス」
「なっ……」
シャオランは一歩後ろに下がると、お姫様は真顔のまま手を広げ魔法陣を展開し、大きな鎌を出現させてそれをシャオランに振り翳す。
ただ武器を振り翳している訳ではなく、その身のこなしは武闘に特化していた。魔法詠唱をしようものなら、瞬時に鎌で裂かれるであろう。シャオランは死の危険を感じ一瞬呼吸を忘れた。
「ちょっと、一体何を!」
シャオランは動揺しつつ軽い身のこなしでバク転をして何度も攻撃を避けると、懐から小さな苗を取り出し、杖を振って水魔法で少量の水を出現させると魔法陣を展開した。
「捉えろ、磔竹」
シャオランがそう命じると、苗は瞬く間に大きな竹に成長し、まるで意志を持つかのように割れて無数の枝のようにしならせると、滑らかに動いてお姫様を捉えた。
「……オミゴト」
ブルードレスのお姫様は、鎌を持つ手を含めて全身が竹枝に絡まり、竹に四肢を固定された。反撃が不可能と判断すると、一言シャオランを褒め称えてまるで壊れた機械のように小刻みに動きそのまま一切動かなくなる。
「動きが止まった。なんだったんだ」
「おさげ君が殺したん?」
フォンゼルはにぱっと笑いながら首を傾げる。
「ちょっと、変なこと言わないでもらえます?僕の国の魔法植物を使って動けないようにしただけですよ……」
シャオランは服についた土埃を払いながら反応を示した。
セオドアはブルードレスのドールに近付くと、訝しげに全身を眺めて目を凝らす。
「これは……かなり精巧な魔法人形だな」
セオドアはすっかり動かなくなったお姫様にそっと触れ、生気のなさを確認し、違和感を確信に変えようやくお姫様の正体がドールと知った。
「相当高級な魔法人形やね。戦闘機能がついとるなんて。ほんならこっちは?」
フォンゼルは躊躇うことなくイエロードレスを着たお姫様のガラスケースに手を触れると、セオドアとシャオランは目を見開く。
「お前はまたそーやって軽々しく!」
「まったくです!いい加減懲りてください」
「もー遅いて」
イエロードレスのお姫様は、フォンゼルを確認すると口をパカっと開ける。同時にガラスケースが粉々に砕け、フォンゼルは少し後退して様子を見た。
「高出力魔導砲照射開始」
「およ?」
イエロードレスのお姫様の口に、込められた魔力が集っていく。おそらくそうプログラムされているのだろうか、このままではフォンゼルは魔導砲を当てられてしまう可能性が大いにあった。
「逃げよ」
フォンゼルは楽しそうに空を飛んで見せるが、お姫様は照準をフォンゼルに固定しているのか、首をくるくると回してどの方向にも対応する。
「怖!魔法人形確定じゃん!」
セオドアはイエロードレスのお姫様が首を回すたびに顔を引き攣らせた。
フォンゼルは、というと、自身が狙われていることに気付いていながらも宙に浮き、何か思いついたのか懐からとある葉を用意する。
そしてそれを一気に頬張ると、ベーッと魔法陣の浮き上がった舌を見せた。
「どっちが強いかしょーぶしよか、お人形さん」
フォンゼルはそう言って地上に降りると、狂気にも似た目でイエロードレスのお姫様を睨み詰め寄る。
「発射」
お姫様がそう言うと、口から魔力を凝縮させたレーザービームが放たれ、それは真っ直ぐに、避ける間も無くフォンゼルへとぶつかる。
「おい!フォンゼル!大丈夫か!?」
セオドアは目を見開きその様子を見るが、シャオランはフォンゼルが無事なことに気付き特に何も言わず眺めていた。
レーザービームが止むと、そこには無傷のフォンゼルが立っている。心なしか少しフォンゼルが煌めいて見えたセオドアは、自身の目を擦った。
「ボクの勝ちやねぇ」
フォンゼルはそう言って口角をあげる。
「……直撃してたかと思ったけど、さっき何食べた?」
「いややなぁ、イケメン君がつこーたやつやで。幻草。ぐ、り、ふぁー!」
「!魔法人形を欺いたのか」
セオドアが後ろを振り向くと、そこには本体のフォンゼルが手を振りながら現れた。
「魔法人形はあんまり視認には特化してないようですね」
シャオランは淡々とそう言って、魔力を使い切ったイエロードレスのお姫様が電源が切れたように地面に転が流のを眺めた後、残ったレッドドレスのお姫様を見る。
「残ったあのお姫様は、一体何をしてくるんでしょうか」
「とりあえず、消去法で俺がどうにかしないとな」
そう言ってセオドアは、落ちていた竹の破片を手に取ると、それをレッドドレスのお姫様が眠るガラスケースに目がけて思い切り投げた。
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