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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
三匹の子ブタ
しおりを挟む食事を終え団欒スペースに移動していたフィンとルイは、そこで飲み物を購入し雑談をしていると、とある話し声が聞こえルイが眉を顰める。
「ルイ君?」
異変に気付いたフィンが問いかけると、ルイは人差し指をたてて「しっ」とフィンの唇を触る。
どうやらセオドアに絡んでいた三人衆が死角の方でセオドアの悪口を言っていたため、フィンもそれを察し聞き耳を立てていた。
「ったく、あのセオブタ、随分見ないうちに変わってたよなぁ。初等部の頃は俺達に言い返すなんてことなかったのに」
馬鹿にするようなフォリラの話し声は、フィンとルイの表情を曇らせる。
「そうだな。でもさーフォリラ、セオブタだって、腐っても伯爵家だし、あんまり馬鹿にするとマズイんじゃないのか?」
友人の一人がそう言うと、フォリラは鼻で笑う。
「何ビビってんだよ。確かに爵位は向こうが上だけど、あの家は王都最大の魔法薬業を担っているだけだろ?王族と繋がりが深い訳でもないし」
「まぁそうだけどさー。友達がルイ・リシャールだぜ?リシャール侯爵家って南を統べる大貴族じゃん。気をつけた方がいいんじゃないの?」
フォリラの取り巻きは、フォリラよりよっぽど慎重に考えてそう説くが、フォリラは鼻で笑う。
「何ビビってんだよ、そんなの今だけだろ。アイツそもそも、昔からパッとしなかっただろ?全然目立ってなかったし、大人しかったし、ちょっと魔法でいたずらしたらビビってたし。まさかあのブタがミネルウァにいるとは思わなかったけど」
初等部時代のセオドアを思い出すと、今のセオドアは見る影もなく明るい雰囲気と端正な顔立ちに少し筋肉質な体付きになっていることを思い出すフォリラ。その事実が悔しいのか、それからも過去を引き合いに出してセオドアを貶し続けた。
「噂じゃ、毒迷宮に出るらしいぜー」
取り巻きがそうフォリラに伝えると、フォリラは失笑する。
「あのブタが?へぇ、生意気だな。爵位で勝ち取った出場権だろ、どうせ」
フォリラの幼稚な陰口と笑い声はしっかりとルイとフィンに届き、ルイは我慢出来なかったのか立ちあがろうとするが、フィンがそれを止める。
「おいフィン、止めるな」
「ううん、あのね、僕にやらせて」
フィンは少し強気な瞳で笑みを浮かべると、飲み物を購入してからルイに背を向けて何やら準備を始める。ルイは首を傾げながらその様子を見ていたが、フィンはやがてにまっと満足そうな笑みを浮かべてフォリラの元へ歩いて行った。
「フィン?」
ルイは唖然とした様子でその様子を見守る。
「こんにちは」
フィンは三つの飲み物をトレイに乗せながら笑顔を浮かべてフォリラの前に現れる。
「は?」
フィンが登場し一瞬狼狽えるフォリラ達だが、相手は庶民だと分かっているためすぐに馬鹿にしたような笑みを浮かべた。
「これはこれは庶民の星、フィン殿」
フォリラが皮肉混じりにそう挨拶すると、フィンはぺこりと頭を下げる。
「先程ぶりです。あの、よろしければ飲み物はいかがですか?」
フィンが三人に飲み物を勧めると、フォリラは何も疑うことなく銀のコップを受け取る。
「ほう。いい心掛けだな。庶民はこうでなくては」
フォリラはそう言って飲み物を一気に飲み干すと、それを見た他の二人も飲む。
フォリラは満足そうに銀のコップをフィンに戻すと、突如体に異変が起こり目を見開いた。
瞬きをしたその瞬間、自身の身体が縮んでいくのを感じ、視界に入ったフィンの表情はまるで天使のような笑みを浮かべている。
「フォリラ!?おい、フォリラ、なんでミニブタになってるの??!!」
仲間二人はブタの姿になったフォリラを見て慌てるが、自分達も時間差で同じようにミニブタに変化してしまう。
「かわいいブタさんにしてあげました!……セオ君を悪く言ったら、僕が許しません」
「「「!?」」」
フィンはそれを見届け笑顔でそう言うとその場を離れ、何事も無かったかのようにルイのところへ戻った。
「(おい!元に戻せこのクソ庶民!)」
ブタになったフォリラはそう叫ぶが、喋れる変化ではなかったため単純にブタの鳴き声として変換されていく。
「……まさに三匹の子ブタだな」
フィンのささやかな仕返しを見たルイは、苦笑しながらフィンを見る。
「セオ君のこと悪く言ったから、おしおきですっ」
フィンはぷくっと頬を膨らませると、ルイは大笑いして立ち上がる。
「ははっ、ざまーねぇな。よし、戻るか」
「はーい」
二人は一瞬フォリラの方を見てからその場を離れていく。
「(覚えてろー!!!)」
フォリラは精一杯心の中でそう叫び、気づけば晒し者になりながらも時間経過で治るのを待った三人であった。
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競技開始十分前。
特設会場のゲート前では、少しスッキリした表情を浮かべるセオドアを、フィンとルイが見送る。
「セオくん、頑張ってね!!」
「お前なら大丈夫だと思うけど、油断するなよ」
ルイはセオドアの方をポンっと叩く。
「おうよ。二人とも見送りあんがとさん」
セオドアは嬉しそうに笑みを浮かべて親指を立てる。
「おい。あそこにいる奇妙な服を着た奴、東方の国からスレクトゥ留学している奴だ。東方は漢方薬が盛んな国だから、手強いかもな」
セオドアはパオと呼ばれる東方の服を着た男子生徒を見る。漆黒の髪を三つ編みにして後ろに束ね、独特の雰囲気を放っていた。
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