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一年生・秋の章 <エスペランス祭>
第三王子はフィンが気になる①
しおりを挟む「本気なのか……?」
狼狽えるセインに、フィンは首を傾げる。
「は、はい……あの、僕まずいことをしてしまいましたか?」
明らかに動揺を見せるアルテミスの二人に、ルークが嗜めるように口を開く。
「いんや、フィンは何も悪くねーよ。コイツらが驚いてんのは、一族以外の奴がそんな熱心に魔法弓辞典を読んで、読破して尚且つその情報が頭に入ってるのが信じられねぇってことだ」
ルークの解説が図星だったのか、二人は黙ってフィンを見る。
フィンは慌てて手を広げて口を開いた。
「そうなんですか?とても面白い辞典でしたよ!?読むまでは、魔法弓の知識には明るくなかったので、ロングボウ、コンポジットボウぐらいの分類しか知らなかったのですが、アルテミス家はさらに細分化させて特徴を与えています。弓への探究心と向上心、素敵だと思いました。
もう少しで魔法具の授業が始まるので、魔法弓を選択しようかなって思ってたんです。すごく勉強になりました!」
フィンはにぱっと笑みを浮かべながら若干前のめりで純粋にそう言ってみせると、そのあまりの真っ直ぐさに二人は目を見開き固まった。
「なんだ、フィン。そんなことなら、この二人から今度弓でも教わったらどうだ?それに、辞典に載ってる弓だって見せてもらえるぞ」
「えっ……」
ルークの突然の提案に、セインとシムカは顔を引き攣らせる。
フィンは二人の様子を伺って瞬きをし、セインとシムカはルークに聞こえるぐらいの声で口を開き抗議した。
「ルーク様、一体急に何を……!」
「我々の一族はこの国きっての弓の名門ですよ!?ミネルウァの一位とはいえ、庶民に教えろと言われましても」
二人がそう言うと、ルークは目を細める。
「この俺が頼んでもか?俺も一緒に行くからいいだろ?」
ルークが少し眉を下げ二人の頭を撫でると、二人はやがて絆されたように溜息を吐いてフィンを見た。
セインはフィンに近寄り見下ろす。
「フィン。ルーク様の頼みとなれば仕方がない。頃合いを見てアルテミス家に招待してやろう」
セインがそう言うと、フィンは目を輝かせる。
「い、いいんですか……!?」
「(そんなに嬉しいのか……?変わった奴だな)あぁ。話は通してやる。そっちで魔法具の授業が始まる前に一度来るといい。基本的なことぐらいは教えてやろう」
「ありがとうございます!」
シムカはフィンに近付き口を開く。
「お前に使えそうな弓を用意して待っててあげます。体は大きくないし、魔力も大した無さそうですが、不幸にもうちにある弓は上級以上の物ばかり。それでよければ、ですが」
シムカがそう言い捨てると、ジッとフィンを見下ろして首を傾げる。
「随分と肌が白い。北部の出身ですか?」
シムカの問いかけに、フィンは大きく頷く。
「はい!北部から来ました」
「そうですか。それなら北部の素材で出来た弓が馴染みやすいかもしれない。あるいは……」
シムカはセインに視線を送ると、察したセインは首を横に振る。
「シムカ、やめておけ。いくら此奴がシルフクイーンから加護を受けているとはいえ、疾風の矢を使いこなせるかは別だ」
「そうですね」
「よし。話は纏まったようだな。良かったなフィン」
ルークはニカッと笑みを浮かべフィンの頭を撫でると、フィンは蕩けそうな笑顔を見せ頷く。
「はい!ルークさん、ありがとうございましたっ。セイン様、シムカ様、よろしくお願いします。後見人にも話しておきますね。それでは僕、ちょっと友人を探しているのでここで……!」
「おー。またなフィン」
フィンは深く頭を下げた後その場を離れ、一旦校舎内に続く廊下を歩き始めた。
「もしかして、ルイ君とセオ君は僕の様子を見に医務室にきてたのかな……?すれ違いだったらどうしよう」
そんな不安を抱えていると、今度は目の前からライトニングとリーヴェスが歩いてくるのが見え、フィンは廊下の端に寄って頭を下げた。
ライトニングはフィンに気付き立ち止まり、リーヴェスは真顔でフィンを見る。
「王子様こんにちはっ……!リーヴェス様もこんにちは!」
「フィン・ステラか、頭を上げろ。疾風走、見事だったぞ」
ライトニングは軽く笑みを浮かべフィンを労うと、リーヴェスは気まずそうにフィンから目を逸らした。
「ありがとうございます!」
「しばらく姿が見えなかったが、休んでいたのか?所詮は庶民の血筋だ、あれだけの大技を出すとなると平気じゃないだろうに」
「はい……急に魔力を多く消費したので、魔道具の力を借りてもやっぱり追いつかなくて。でももう元気になりました」
フィンは優しげにそう言って笑みを浮かべると、後ろにいたリーヴェスに声をかける。
「リーヴェス様、先程はありがとうございました」
「……笑いたきゃ笑え」
「へ?」
リーヴェスの返しに、フィンは困った表情を浮かべる。
「貴様を散々庶民だと馬鹿にして侮った結果がこれだ。私を責める資格がお前にはあると思うが」
リーヴェスが淡々とそう言うと、フィンはさらに困り顔を浮かべ首を傾げた。
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