107 / 317
一年生・秋の章 <エスペランス祭>
疾風走(テンペスター)④
しおりを挟むシルフは精霊界に咲く花から生まれる風の精霊。その中でもシルフクイーンはアルストロメリア・クラウンという希少かつ精霊界で最も魔力の潤沢な花から生まれ出る精霊であり、本来の姿は非常に高い魔力と風の元素を身に纏った180cmほどの大きさとなる。
シルフクイーンが本来の姿であるシルフクイーン・アルストロメリアとして召喚されるには条件があった。
まず一つ目は、召喚者がシルフクイーンから祝福を受けていること。そしてもう一つが、完全体として召喚するための膨大な魔力を有していること。そして最後は、完全体として召喚するためのシルフクイーン独自の召喚方法を本人から教わり、それを理解して使用することだった。
最後の条件が一番難しいことは、誰もがよく分かっている。
精霊独自の魔法は、精霊界のセオリーで構成された非常に難解なものであり、平凡な理解力では到底魔法陣を練り上げることは難しい。しかしフィンは、すでに祝福を受け、魔力を魔法具でカバーし、そして時間はかかりつつも完璧に魔法陣を練り上げてみせた。
「フィン、とうとう私がアナタの勝利の女神になってあげる日が来たのだな」
シルフクイーンとしての本来の姿、つまり完全体で召喚されたシルフクイーンは、透明感のある美しい姿はそのままに、アルストロメリアで出来た豪奢な花冠を付け、カラフルな花のドレスを身に纏って姿を現す。
そして華やかな笑みを浮かべ花弁を散らせながら一度羽を広げると、普段のカタコトとは違った流暢な言葉で話しながら笑みを浮かべた。
「シルフクイーン!よかった、うまくいった……とってもきれいだね、僕の精霊」
一度に大量の魔力を使用したため、フィンは少し息を切らせつつも満面の笑みでシルフクイーンの手を取って紳士らしく手の甲にキスを落とすと、シルフクイーンは恍惚とした表情でそれを見下ろし、大きな羽を広げてフィンを抱き締めた。
「かわいいかわいいフィンよ、その健気で愛らしい姿は何度見ても愛おしい」
会場は予想外の展開に目を丸くする者が多く、それはルイとセオドアも例外ではなかった。
「聞いてないぞ……シルフクイーンの完全体なんて」
ルイはお伽話を体現させたようなフィンを見て、身震いをしながら口角を上げる。
「フィンちゃん、マジかよ」
セオドアは目を丸くした後、ルイに肩を組んで続け様に口を開いた。
「フィンちゃんいいぞー!サプライズ最高!そんな隠し玉あったんだなこのやろぉー!」
セオドアは笑みを浮かべてそう言うと、それに続くようにミネルウァの生徒達が湧き上がる。観客はもちろん、ミネルウァの教師陣も拍手をする者が出るほどの光景。
学長であるケイネスも、飲んでいたワインを持ったまま唖然とし、近くに立つエリオットを呼び寄せて声をかけた。
「庶民の出で第一位と言うのは聞いていたが、文献でも情報の少ないシルフクイーンの完全体を召喚出来るほどの能力があるとは。生きてる間に完全体を見れるなんて、幸運だな。
見ろ、イデアルとスレクトゥの学長も呆気に取られている」
ケイネスは豪快に笑ってみせると、エリオットの後ろに控えていたリヒトに気付く。
「これはこれは大魔法師様。後見人として見に来たのですか」
爵位で言えばリヒトの方が上なため、ケイネスは少し丁寧な様子でリヒトに挨拶をする。
「大魔法学士、ご無沙汰しております。私は今日はフィンの恋人として見に来ました」
リヒトが真顔で即座にそう言うと、ケイネスは一瞬目を丸くした後またもや豪快に笑う。
「はっはっはっ。リビドリアの文献を見た時は半信半疑でしたが……なるほど、余程好いているという訳ですね。その溺愛する恋人の勝負、しかと見届けましょう」
ケイネスはそう言って楽しそうにワインを飲むとその場から去る。
『な、なんと……フィン選手!あのシルフクイーンの完全体を召喚しましたぁ!シルフクイーンは風の上級精霊!この勝負まだ分かりませ~ん!フィン選手の下剋上、大いに有り得ます!』
ナレーターの興奮した声が響き渡ると、フィンに対する声援が徐々に増えていく。最初は庶民の血だと馬鹿にしていた者はフィンに一目置き、イデアルの過激な貴族至上主義の者たちは悔しそうに表情を歪めていた。
「ふん。完全体の私が上級だと?笑わせるな」
「シルフクイーン、落ち着いて、僕だけ見て。そろそろいこう?」
シルフクイーンは、レポーターの声を聞くと苛ついた表情を浮かべながら反抗するが、フィンが優しい笑みを浮かべてそれを甘く溶かしたため、シルフクイーンはすっかり絆されてフィンの背中に抱き付いた。
「ふふ、フィン、一瞬で勝たせてあげる」
シルフクイーンは満面の笑みを浮かべ大量の魔力を放出させると、観客席に飛ぶほどの花弁を散らせながら羽を大きく広げた。
「シルフクイーン、練習の時より抑えめでお願い。あの二人が怪我しないように、ただ一番にゴールしたいだけだから」
「甘いなぁフィンは。だが分かった、なるべくそうする。さぁ、私を動かすとびっきりの呪文を!」
シルフクイーンの目が宝石の様に輝き、フィンは腕輪を光らせ両手を前に翳した。
フィンの目の前には特大の淡く光る緑色の魔法陣が現れ、精霊魔法の特徴である閃光が散らばったような幻想的な煌めきが起こると、会場は一気に湧く。
168
お気に入りに追加
4,666
あなたにおすすめの小説
国王の嫁って意外と面倒ですね。
榎本 ぬこ
BL
一国の王であり、最愛のリヴィウスと結婚したΩのレイ。
愛しい人のためなら例え側妃の方から疎まれようと頑張ると決めていたのですが、そろそろ我慢の限界です。
他に自分だけを愛してくれる人を見つけようと思います。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
罰ゲームって楽しいね♪
あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」
おれ七海 直也(ななみ なおや)は
告白された。
クールでかっこいいと言われている
鈴木 海(すずき かい)に、告白、
さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。
なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの
告白の答えを待つ…。
おれは、わかっていた────これは
罰ゲームだ。
きっと罰ゲームで『男に告白しろ』
とでも言われたのだろう…。
いいよ、なら──楽しんでやろう!!
てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が
こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ!
ひょんなことで海とつき合ったおれ…。
だが、それが…とんでもないことになる。
────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪
この作品はpixivにも記載されています。
水の巫覡と炎の天人は世界の音を聴く
井幸ミキ
BL
僕、シーラン・マウリは小さな港街の領主の息子だ。領主の息子と言っても、姉夫婦が次代と決まっているから、そろそろ将来の事も真面目に考えないといけない。
海もこの海辺の街も大好きだから、このままここで父や姉夫婦を助けながら漁師をしたりして過ごしたいのだけど、若者がこんな田舎で一生を過ごしたいなんていうと遠慮していると思われてしまうくらい、ここは何もない辺鄙な街で。
15歳になる年、幼馴染で婚約者のレオリムと、学園都市へ留学しないといけないみたい……?
え? 世界の危機? レオリムが何とかしないといけないの? なんで? 僕も!?
やけに老成したおっとり少年シーラン(受)が、わんこ系幼馴染婚約者レオリム(攻)と、将来やりたい事探しに学園都市へ行くはずが……? 世界創生の秘密と、世界の危機に関わっているかもしれない?
魂は巡り、あの時別れた半身…魂の伴侶を探す世界。
魔法は魂の持つエネルギー。
身分制度はありますが、婚姻は、異性・同性の区別なく認められる世界のお話になります。
初めての一次創作BL小説投稿です。
魔法と、溺愛と、ハッピーエンドの物語の予定です。
シーランとレオリムは、基本、毎回イチャイチャします。
ーーーーー
第11回BL小説大賞、無事一か月毎日更新乗り切れました。
こんなに毎日小説書いたの初めてでした。
読んでくださった皆様のおかげです。ありがとうございます。
勢いで10月31日にエントリーをして、準備も何もなくスタートし、進めてきたので、まだまだ序盤で、あらすじやタグに触れられていない部分が多いのですが、引き続き更新していきたいと思います。(ペースは落ちますが)
良かったら、シーランとレオリムのいちゃいちゃにお付き合いください。
(話を進めるより、毎話イチャイチャを入れることに力をいれております)
(2023.12.01)
長らく更新が止まっていましたが、第12回BL大賞エントリーを機に再始動します。
毎日の更新を目指して、続きを投稿していく予定です。
よろしくお願いします。
(2024.11.01)
拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件
碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。
状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。
「これ…俺、なのか?」
何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。
《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て運命の相手を見つけるまでの物語である──。》
────────────
~お知らせ~
※第5話を少し修正しました。
※第6話を少し修正しました。
※第11話を少し修正しました。
※第19話を少し修正しました。
────────────
※感想、いいね大歓迎です!!
田舎貴族の学園無双~普通にしてるだけなのに、次々と慕われることに~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
田舎貴族であるユウマ-バルムンクは、十五歳を迎え王都にある貴族学校に通うことになった。
最強の師匠達に鍛えられ、田舎から出てきた彼は知らない。
自分の力が、王都にいる同世代の中で抜きん出ていることを。
そして、その価値観がずれているということも。
これは自分にとって普通の行動をしているのに、いつの間にかモテモテになったり、次々と降りかかる問題を平和?的に解決していく少年の学園無双物語である。
※ 極端なざまぁや寝取られはなしてす。
基本ほのぼのやラブコメ、時に戦闘などをします。
貧乏Ωの憧れの人
ゆあ
BL
妊娠・出産に特化したΩの男性である大学1年の幸太には耐えられないほどの発情期が周期的に訪れる。そんな彼を救ってくれたのは生物的にも社会的にも恵まれたαである拓也だった。定期的に体の関係をもつようになった2人だが、なんと幸太は妊娠してしまう。中絶するには番の同意書と10万円が必要だが、貧乏学生であり、拓也の番になる気がない彼にはどちらの選択もハードルが高すぎて……。すれ違い拗らせオメガバースBL。
エブリスタにて紹介して頂いた時に書いて貰ったもの
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる