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一年生・秋の章 <エスペランス祭>

疾風走(テンペスター)④

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 シルフは精霊界に咲く花から生まれる風の精霊。その中でもシルフクイーンはアルストロメリア・クラウンという希少かつ精霊界で最も魔力の潤沢な花から生まれ出る精霊であり、本来の姿は非常に高い魔力と風の元素を身に纏った180cmほどの大きさとなる。
 シルフクイーンが本来の姿であるシルフクイーン・アルストロメリアとして召喚されるには条件があった。
 まず一つ目は、召喚者がシルフクイーンから祝福を受けていること。そしてもう一つが、完全体として召喚するための膨大な魔力を有していること。そして最後は、完全体として召喚するためのシルフクイーン独自の召喚方法を本人から教わり、それを理解して使用することだった。

 最後の条件が一番難しいことは、誰もがよく分かっている。
 精霊独自の魔法は、精霊界のセオリーで構成された非常に難解なものであり、平凡な理解力では到底魔法陣を練り上げることは難しい。しかしフィンは、すでに祝福を受け、魔力を魔法具でカバーし、そして時間はかかりつつも完璧に魔法陣を練り上げてみせた。


「フィン、とうとう私がアナタの勝利の女神になってあげる日が来たのだな」


 シルフクイーンとしての本来の姿、つまり完全体で召喚されたシルフクイーンは、透明感のある美しい姿はそのままに、アルストロメリアで出来た豪奢な花冠を付け、カラフルな花のドレスを身に纏って姿を現す。
 そして華やかな笑みを浮かべ花弁を散らせながら一度羽を広げると、普段のカタコトとは違った流暢な言葉で話しながら笑みを浮かべた。


「シルフクイーン!よかった、うまくいった……とってもきれいだね、僕の精霊」


 一度に大量の魔力を使用したため、フィンは少し息を切らせつつも満面の笑みでシルフクイーンの手を取って紳士らしく手の甲にキスを落とすと、シルフクイーンは恍惚とした表情でそれを見下ろし、大きな羽を広げてフィンを抱き締めた。


「かわいいかわいいフィンよ、その健気で愛らしい姿は何度見ても愛おしい」


 会場は予想外の展開に目を丸くする者が多く、それはルイとセオドアも例外ではなかった。


「聞いてないぞ……シルフクイーンの完全体なんて」


 ルイはお伽話を体現させたようなフィンを見て、身震いをしながら口角を上げる。


「フィンちゃん、マジかよ」


 セオドアは目を丸くした後、ルイに肩を組んで続け様に口を開いた。


「フィンちゃんいいぞー!サプライズ最高!そんな隠し玉あったんだなこのやろぉー!」


 セオドアは笑みを浮かべてそう言うと、それに続くようにミネルウァの生徒達が湧き上がる。観客はもちろん、ミネルウァの教師陣も拍手をする者が出るほどの光景。
 学長であるケイネスも、飲んでいたワインを持ったまま唖然とし、近くに立つエリオットを呼び寄せて声をかけた。


「庶民の出で第一位と言うのは聞いていたが、文献でも情報の少ないシルフクイーンの完全体を召喚出来るほどの能力があるとは。生きてる間に完全体を見れるなんて、幸運だな。
見ろ、イデアルとスレクトゥの学長も呆気に取られている」


 ケイネスは豪快に笑ってみせると、エリオットの後ろに控えていたリヒトに気付く。


「これはこれは大魔法師様。後見人として見に来たのですか」


 爵位で言えばリヒトの方が上なため、ケイネスは少し丁寧な様子でリヒトに挨拶をする。


「大魔法学士、ご無沙汰しております。私は今日はフィンのとして見に来ました」


 リヒトが真顔で即座にそう言うと、ケイネスは一瞬目を丸くした後またもや豪快に笑う。


「はっはっはっ。リビドリアの文献を見た時は半信半疑でしたが……なるほど、余程好いているという訳ですね。その溺愛する恋人の勝負、しかと見届けましょう」
 

 ケイネスはそう言って楽しそうにワインを飲むとその場から去る。


『な、なんと……フィン選手!あのシルフクイーンの完全体を召喚しましたぁ!シルフクイーンは風の上級精霊!この勝負まだ分かりませ~ん!フィン選手の下剋上、大いに有り得ます!』


 ナレーターの興奮した声が響き渡ると、フィンに対する声援が徐々に増えていく。最初は庶民の血だと馬鹿にしていた者はフィンに一目置き、イデアルの過激な貴族至上主義の者たちは悔しそうに表情を歪めていた。
 

「ふん。完全体の私が上級だと?笑わせるな」

「シルフクイーン、落ち着いて、僕だけ見て。そろそろいこう?」


 シルフクイーンは、レポーターの声を聞くと苛ついた表情を浮かべながら反抗するが、フィンが優しい笑みを浮かべてそれを甘く溶かしたため、シルフクイーンはすっかり絆されてフィンの背中に抱き付いた。


「ふふ、フィン、一瞬で勝たせてあげる」


 シルフクイーンは満面の笑みを浮かべ大量の魔力を放出させると、観客席に飛ぶほどの花弁を散らせながら羽を大きく広げた。


「シルフクイーン、練習の時よりでお願い。あの二人が怪我しないように、ただ一番にゴールしたいだけだから」

「甘いなぁフィンは。だが分かった、なるべくそうする。さぁ、私を動かすとびっきりの呪文を!」


 シルフクイーンの目が宝石の様に輝き、フィンは腕輪を光らせ両手を前に翳した。
 フィンの目の前には特大の淡く光る緑色の魔法陣が現れ、精霊魔法の特徴である閃光が散らばったような幻想的な煌めきが起こると、会場は一気に湧く。


 


 
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