上 下
32 / 317
一年生・春の章

ミスティルティン魔法図書館へようこそ!④

しおりを挟む



「フィンがそう言うなら、もう何も言わないよ」


 リヒトはニコッと笑みを浮かべフィンの頭を撫でると、フィンは満面の笑みを浮かべた。


「(助かった……ていうかこの子何者だ!?館長にタメ口だし、なんか気に入られている感じ……だよなぁ)」


 ルークはホッと胸を撫で下ろし、二人のやり取りを見ながら立ち上がる。


「フィン・ステラさん、初めまして。私がこのエリアDを統括しているエリア長・タバサ・エバンズよ!」


 タバサはフィンに手を差し出すと、フィンはにこぉーっと笑みを浮かべてその手を握った。


「よろしくお願いします!」


 フィンが元気よく挨拶をすると、タバサはあまりの可愛さにキュンっと心臓が締め付けられる感覚に陥る。



「(かわいいっ……!!!)」

「?」


 フィンは悶えているタバサを見ると、不思議そうに首を傾げたため、タバサはハッとした表情になり慌てて口を開く。



「手違いで失礼があってごめんなさいね、何をしていた所だったのかしら?」

「返却図書を元の場所に戻してました」


 フィンはカートを指差し、既に何十冊もの本を戻してきたことを話すと、タバサは目を見開く。



「あら。ルーク、貴方ちゃんと着いて行ったの?」



 タバサはルークをギロッと睨み問い詰める。


「い、いえ……エリアの説明書は渡したんですが、すぐ覚えたみたいで任せました」

「いきなり任せるなんて、随分とスパルタね」


 タバサはルークに近付くと、耳打ちするように近付き口を開く。


「ここは天下のミスティルティンよ!?こんな広い図書館をそんなすぐに覚えられる?」


 タバサはコソッとルークに問いかけると、ルークは首を左右に振る。


「いや、俺も心配で最初はちょっと後ろから見てたんっスよ。でも一回も迷わずやってたんで、相当自信があるかと」


 ルークはたらーっと冷や汗をかきながら目を逸らし言うと、タバサは訝しげに睨みすぐに笑顔でフィンとリヒトに向き直る。



「ステラさん、申し訳ないのだけど、もう一回、このカートの返却図書を返しに行ってもらえるかしら?私もついていくわ」

「分かりました!」


 フィンは笑顔でカートを押すと、その後ろをリヒトタバサ、そしてルークとローザもついて行くことになった。
 フィンはカートを押しながら、杖を出してカート内の本のタイトルと印字された番号を暗記すると、全てを整理して受付から最も遠いエリアに移動した。


「(効率良し)」


 タバサは大きく頷く。


「D-a45、D-a83、D-a102」


  フィンは最初の目的地“精霊図鑑”のエリアに辿り着くと、杖を取り出し印字番号を口にして正確な場所に本を収納する。


「あれ?」


 フィンはある一冊に目が止まり、後ろの印字番号を見る。


「これ、魔物図鑑なのに精霊図鑑D-a144の印字がされてます。どうしてですか?」


 フィンは一冊の本をタバサに手渡すと、タバサはルークを睨む。


「あら……?これ、新作よね。そもそも新作は新作の印字をして1ヶ月間はその棚に置かなければならないの。で、ルーク。貴方新作の担当だったわね」


 ルークはビクッと肩を震わせまたもや冷や汗を垂らす。


「すみませんでした」


 タバサは鬼の形相でルークを睨むも、フィンが眉を下げ慌てた表情をしたため、タバサはスッと怒りを収めた。


「(怒りっぽいのよね私……落ち着け落ち着け)」


 その後も順調に返却図書を片付けていったフィンは、滞りなく仕事を終わらせる。



「完璧よステラさん!細かい棚の位置まで覚えてるのね、結構最初は苦戦するのだけど」

「フィンはそのうち、タイトルを聞くだけで印字番号が出てくるようになる。むしろここに収納されている本のリストを見せたら早いかもな」


 リヒトがそう伝えると、タバサは顔を引きつらせる。
 後ろにいたルークとローザは驚きの表情を浮かべた。


「リストならありますけど、そんな芸当が本当に……?」


 タバサはチラッとフィンを見ると、フィンはふにゃっと笑みを見せて頷く。


「で、では試しに小説のD-j1から50のリストを見せます。タイトルを言ったら印字番号を教えてください!」



 タバサはポケットに入れていた縦長のリストをフィンに手渡すと、フィンは集中して目を動かし瞬時に記憶する。
 一分ぐらい経つと、フィンはその紙をタバサに返した。


「はい、覚えました」


 フィンは笑顔を浮かべる。


「は、早い!じゃあ、そうね、“南の国の吟遊詩人と猫”は?」

「D-j36です」

「せ、正解」


 タバサが狼狽えた表情を浮かべると、リヒトはフッと口角を上げた。


「“ごめんなさい神様”」

「D-j8です」

「“王子と精霊は恋をした”」

「D-j49です」



 ルークとローザは唖然とした表情でその様子を見ている。


「俺……もう1年働いてるのにあんなの出来ないわ」


 ルークは砂になって消えたい気持ちになっているのか、遠い目をしている。


「あの……私本当にここで働いていいんでしょうか」


 ローザはすっかり自身を無くし、目を潤ませていた。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

平凡でモブな僕が鬼将軍の番になるまで

月影美空
BL
平凡で人より出来が悪い僕、アリアは病弱で薬代や治療費がかかるため 奴隷商に売られてしまった。奴隷商の檻の中で衰弱していた時御伽噺の中だけだと思っていた、 伝説の存在『精霊』を見ることができるようになる。 精霊の助けを借りて何とか脱出できたアリアは森でスローライフを送り始める。 のはずが、気が付いたら「ガーザスリアン帝国」の鬼将軍と恐れられている ルーカス・リアンティスの番になっていた話。

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!

ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて 素の性格がリスナー全員にバレてしまう しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて… ■ □ ■ 歌い手配信者(中身は腹黒) × 晒し系配信者(中身は不憫系男子) 保険でR15付けてます

不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!

ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。 その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。 しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。 何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。 聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)

【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

処理中です...