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一年生・春の章
祝福の音が聞こえる②
しおりを挟む一方、校門を目指し歩いていたルイとセオドアは、楽しそうに談笑していたが、前方にただならぬオーラを放ちフードを深く被る者が現れ、ゾクリと鳥肌を立て表情を歪めた。
「(なんだ、この感覚。身体が重い)」
「(怖!)」
すれ違い様、二人はぼたぼたと冷や汗を流し、振り返る気力も無いままその場に立ち尽くした。
「なんであんな威嚇的な魔力ダダ漏れで歩いてんのー!?」
セオドアは震えながら小さく呟く。
ルイは顔を顰めながらようやく振り返ると、白いローブ姿だけが目に入り、やがて曲がり角で消えていくのを確認し、忘れていた呼吸を思い出すように大きく息を吸った。
「……次元が違うな。何者だよアイツ」
「こえーから早くかえろーよ」
セオドアは振り返りもせず、ルイの腕を引っ張り早足で歩き出していくが、偶然ジャスパーが通りかかったためピタッと足を止める。
「あ!せんせ、じゃあねー」
セオドアはルイの腕を掴んだままニコニコと笑みを浮かべ手を振ると、ジャスパーは真顔のまま一瞥し、足を止めず「気を付けて帰れ」と言って去っていった。
「(あれ?なんか怒ってる気がする)」
セオドアは首を傾げながらジャスパーの背中を見つめると、その後ろを追いかけていく。
「わり、先帰って!また来週!」
セオドアは手を合わせ、少し早足でジャスパーを追いかけていった。ルイはそれを笑顔で見送る。
「おう。頑張れよ」
ルイは親指を立て、ニカッと笑みを浮かべ控えめの声でジャスパーを応援した。
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医務室にいたフィンとエリオットは、ゾクっとした感覚に襲われ、互いに目を合わせる。
「おいでなすった」
エリオットは苦笑しながら医務室の扉へ目を向けると、白いローブ姿のリヒトが乱暴に扉を開けて入室した。
「フィンはどこだ」
普段フィンには見せない怒りの表情で医務室に入るリヒトは、唸るような低い声でそう声を出す。
エリオットは気まずそうにリヒトの前に姿を現すと、両手を上げて笑みを見せた。
「フィン君はここにいるよ」
「リヒト」
フィンはエリオットの後ろからぴょこっと顔を出すと、素早くリヒトに駆け寄る。
「……フィン!?」
倒れていたと思っていたフィンが、何とも無い様子で自分に駆け寄ってくる姿を見たリヒト。
突き刺すような痛々しい魔力の奔流が一気に収まり、エリオットは安堵の表情を浮かべた。
「(何かあったら学校ごと吹き飛ばしかねないな、気をつけよ)」
相当急いでやって来たのか、少し息を上げていたリヒトは慌ててフードを脱ぎ、驚きの表情でフィンを見下ろす。
「フィン、大丈夫なんだね?」
「うん!心配かけてごめんなさ……わっ」
リヒトはギュッとフィンを抱き締め、安心したように表情を緩ませた。
「心配した……」
「ごめんね」
フィンがリヒトを抱き締め返すと同時に、突然綺麗な鐘の音がお互いの脳内に響く。
「「?」」
リヒトはパッとフィンから離れ肩に手を乗せると、「まさか」と言いながらまじまじと顔を見つめた。
「福音か?」
エリオットが横から声をかけると、リヒトは「ああ」と返事をした。
精霊の祝福を受けた者同士が初めて接すると、共鳴し脳内に祝福の音が聞こえる。これを“福音”と呼び、リヒトは瞬時に、フィンが精霊から祝福を受けたことを察した。
「おい、説明が足りないぞエリオット。フィンが倒れたのは祝福の影響だったんだな?」
リヒトは苛ついた表情でエリオットを睨む。
「ああ。……悪い。我ながら配慮に欠けたと思う」
エリオットは再度両手を上げて降参のポーズを取り、申し訳なさそうに笑みを浮かべる。
その後、エリオットは今回の経緯についてリヒトに説明をすると、リヒトはフィンを抱き上げて満面の笑みを見せた。
「おめでとう。さすがだよフィン、あのシルフクイーンから祝福を貰えるなんて滅多にない事だ」
「えへへ……!」
フィンはリヒトに褒められると、満面の笑みを浮かべ顔を赤くする。
「でも、無理はしないでほしいな……。君が倒れたと聞いて生きた心地がしなかったよ」
「うん、ごめんなさい……」
フィンはリヒトの言葉に眉を下げ申し訳なさそうにすると、リヒトは柔らかく笑ってみせた。
「ん、いい子」
リヒトはフィンの頭を優しく撫で、エリオットがいるのを忘れているかのように愛情丸出しでフィンに接した。
「(いや、だから誰なんだよお前)」
リヒトの変わり様を再び見ることとなったエリオットは、腕を組みながら訝しげに二人の様子を眺めていたが、深くため息を吐き医務室の扉を開ける。
「とりあえず、馬車は呼んでおいたぞ。それに乗ってとっとと帰った帰った。俺の前でイチャついてくれるなよー」
「ああ。世話をかけたなエリオット。行こうかフィン、今日は休もう」
リヒトはフィンの手を握る。
「うん!副学長、ありがとうございました」
「ああ。気をつけて帰ってくれ」
フィンは礼儀正しくエリオットにお辞儀をすると、リヒトは軽くエリオットに手を振ってから深くフードを被りフィンの手を取って歩き出した。
その姿を見送ったエリオットは、ふぅっと息を吐き天を仰ぐ。
「あー……今年のエスペランスの主催校、うちだっけか?シンプルかつ面白い競技を考えないとな」
エリオットは欠伸をしながら副学長室へと戻っていくのであった。
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