上 下
22 / 317
一年生・春の章

祝福の音が聞こえる②

しおりを挟む


 一方、校門を目指し歩いていたルイとセオドアは、楽しそうに談笑していたが、前方にただならぬオーラを放ちフードを深く被る者が現れ、ゾクリと鳥肌を立て表情を歪めた。


「(なんだ、この感覚。身体が重い)」

「(怖!)」


 すれ違い様、二人はぼたぼたと冷や汗を流し、振り返る気力も無いままその場に立ち尽くした。


「なんであんな威嚇的な魔力ダダ漏れで歩いてんのー!?」


 セオドアは震えながら小さく呟く。
 ルイは顔を顰めながらようやく振り返ると、白いローブ姿だけが目に入り、やがて曲がり角で消えていくのを確認し、忘れていた呼吸を思い出すように大きく息を吸った。


「……次元が違うな。何者だよアイツ」

「こえーから早くかえろーよ」


 セオドアは振り返りもせず、ルイの腕を引っ張り早足で歩き出していくが、偶然ジャスパーが通りかかったためピタッと足を止める。


「あ!せんせ、じゃあねー」


 セオドアはルイの腕を掴んだままニコニコと笑みを浮かべ手を振ると、ジャスパーは真顔のまま一瞥し、足を止めず「気を付けて帰れ」と言って去っていった。


「(あれ?なんか怒ってる気がする)」


 セオドアは首を傾げながらジャスパーの背中を見つめると、その後ろを追いかけていく。


「わり、先帰って!また来週!」


 セオドアは手を合わせ、少し早足でジャスパーを追いかけていった。ルイはそれを笑顔で見送る。


「おう。頑張れよ」


 ルイは親指を立て、ニカッと笑みを浮かべ控えめの声でジャスパーを応援した。
 





------------------------------



 医務室にいたフィンとエリオットは、ゾクっとした感覚に襲われ、互いに目を合わせる。


「おいでなすった」


 エリオットは苦笑しながら医務室の扉へ目を向けると、白いローブ姿のリヒトが乱暴に扉を開けて入室した。


「フィンはどこだ」


 普段フィンには見せない怒りの表情で医務室に入るリヒトは、唸るような低い声でそう声を出す。
 エリオットは気まずそうにリヒトの前に姿を現すと、両手を上げて笑みを見せた。



「フィン君はここにいるよ」


「リヒト」


 フィンはエリオットの後ろからぴょこっと顔を出すと、素早くリヒトに駆け寄る。



「……フィン!?」


 倒れていたと思っていたフィンが、何とも無い様子で自分に駆け寄ってくる姿を見たリヒト。
 突き刺すような痛々しい魔力の奔流が一気に収まり、エリオットは安堵の表情を浮かべた。


「(何かあったら学校ごと吹き飛ばしかねないな、気をつけよ)」


 相当急いでやって来たのか、少し息を上げていたリヒトは慌ててフードを脱ぎ、驚きの表情でフィンを見下ろす。


「フィン、大丈夫なんだね?」

「うん!心配かけてごめんなさ……わっ」


 リヒトはギュッとフィンを抱き締め、安心したように表情を緩ませた。


「心配した……」

「ごめんね」


 フィンがリヒトを抱き締め返すと同時に、突然綺麗な鐘の音がお互いの脳内に響く。


「「?」」


 リヒトはパッとフィンから離れ肩に手を乗せると、「まさか」と言いながらまじまじと顔を見つめた。


「福音か?」


 エリオットが横から声をかけると、リヒトは「ああ」と返事をした。

 精霊の祝福を受けた者同士が初めて接すると、共鳴し脳内に祝福の音が聞こえる。これを“福音エヴァンジェリン”と呼び、リヒトは瞬時に、フィンが精霊から祝福を受けたことを察した。



「おい、説明が足りないぞエリオット。フィンが倒れたのは祝福の影響だったんだな?」



 リヒトは苛ついた表情でエリオットを睨む。


「ああ。……悪い。我ながら配慮に欠けたと思う」


 エリオットは再度両手を上げて降参のポーズを取り、申し訳なさそうに笑みを浮かべる。

 その後、エリオットは今回の経緯についてリヒトに説明をすると、リヒトはフィンを抱き上げて満面の笑みを見せた。



「おめでとう。さすがだよフィン、あのシルフクイーンから祝福を貰えるなんて滅多にない事だ」

「えへへ……!」


 フィンはリヒトに褒められると、満面の笑みを浮かべ顔を赤くする。


「でも、無理はしないでほしいな……。君が倒れたと聞いて生きた心地がしなかったよ」

「うん、ごめんなさい……」


 フィンはリヒトの言葉に眉を下げ申し訳なさそうにすると、リヒトは柔らかく笑ってみせた。


「ん、いい子」


 リヒトはフィンの頭を優しく撫で、エリオットがいるのを忘れているかのように愛情丸出しでフィンに接した。



「(いや、だから誰なんだよお前)」


 リヒトの変わり様を再び見ることとなったエリオットは、腕を組みながら訝しげに二人の様子を眺めていたが、深くため息を吐き医務室の扉を開ける。


「とりあえず、馬車は呼んでおいたぞ。それに乗ってとっとと帰った帰った。俺の前でイチャついてくれるなよー」

「ああ。世話をかけたなエリオット。行こうかフィン、今日は休もう」


 リヒトはフィンの手を握る。


「うん!副学長、ありがとうございました」

「ああ。気をつけて帰ってくれ」


 フィンは礼儀正しくエリオットにお辞儀をすると、リヒトは軽くエリオットに手を振ってから深くフードを被りフィンの手を取って歩き出した。

 その姿を見送ったエリオットは、ふぅっと息を吐き天を仰ぐ。


「あー……今年のエスペランスの主催校、うちだっけか?シンプルかつ面白い競技を考えないとな」


 エリオットは欠伸をしながら副学長室へと戻っていくのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

モブ男子ですが、生徒会長の一軍イケメンに捕まったもんで

天災
BL
 モブ男子なのに…

罰ゲームって楽しいね♪

あああ
BL
「好きだ…付き合ってくれ。」 おれ七海 直也(ななみ なおや)は 告白された。 クールでかっこいいと言われている 鈴木 海(すずき かい)に、告白、 さ、れ、た。さ、れ、た!のだ。 なのにブスッと不機嫌な顔をしておれの 告白の答えを待つ…。 おれは、わかっていた────これは 罰ゲームだ。 きっと罰ゲームで『男に告白しろ』 とでも言われたのだろう…。 いいよ、なら──楽しんでやろう!! てめぇの嫌そうなゴミを見ている顔が こっちは好みなんだよ!どーだ、キモイだろ! ひょんなことで海とつき合ったおれ…。 だが、それが…とんでもないことになる。 ────あぁ、罰ゲームって楽しいね♪ この作品はpixivにも記載されています。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

処理中です...