懐古百貨店 ～迷えるあなたの想い出の品、作ります～

大食堂フロア

いらっしゃいませ、大食堂です

　
「素敵ね。
　夢見ていた通りだわ」

　大食堂の前のショーウインドウには、食品サンプルがぎっしり詰まっている。

　オムライス、ナポリタン。
　松花堂弁当。

　ビフテキ。
　サンドイッチ。
　お子様ランチ。

　サイダー、ラムネ、クリームソーダ。
　銀の器に入ったアイスとウエハース。

　かたそうなレトロプリンもある。

　急に増えたな……。
　なんでだろう？　と思いながら、ご婦人をご案内した。

　歩いていく途中、ご婦人が小声で訊いてくる。

「あら、近くに撮影所でもできたの？」

　源氏物語の人や、将校さんを見て言っているようだ。

「そうなんですよー」
とあげはは適当なことを言う。

　調子がよく深く考えない性格が功を奏した。

　ご婦人は、そうなのねーという感じで彼女らを見ている。

　源氏物語や将校さんはメニューを見たり、目を閉じてパフェの到着を待ったりしている。

「いらっしゃいませ」

　エンは用意した椅子に実にスマートに彼女を座らせる。

「ありがとう。
　この椅子、見覚えがあるわ。

　喫茶室のものじゃないかしら」

「そうです」

　あれ？
　喫茶室の方にも来たことある霊なのかな、とあげはは思った。

　エンは彼女に水とメニューを出すと、小声であげはに言う。

「着替えてこい」
「は？」

「あの制服に着替えてこい」

　いいから、早く、と言われ、あげはは急いで着替えに行った。


　制服を着て、大食堂に戻ろうとしたとき、エンが下まで下りてきた。

「ちょっと佃さんとこ行ってくるから、お前、ご婦人と話してろ」

　なんだかわからないが、はいっ、とあげはは駆け戻る。

　エンさんにしては、なんか気合い入ってるな、と思いながら。

　大食堂に着いたときには、小走りはやめ、百貨店の雰囲気を壊さないよう、できる限り、ゆっくりと落ち着いた感じに歩いた。

　ご婦人はすぐに制服姿のあげはに気づき、あらっ、と微笑む。

「いやだ、懐かしいわ、素敵ね。
　……ここはほんとうに、あの百貨店なのね」
と婦人は目を細める。

　え？　あの？
と思っていると、エンが戻ってきた。

　ご婦人はエンに、

「そうね、紅茶と……

　ほんとうはお子様ランチを食べてみたいのだけど。
　いい大人が駄目よね」
と言って、イタズラっぽく笑う。

　チャーミングなおばあさまだな。

　こんな風になりたいな、と思い、あげはは見ていた。

「いえ、すぐにご用意いたします」

　……佃さんが、というエンの心の呟きが、その笑顔の向こうに透けて見えた気がした。