懐古百貨店 ～迷えるあなたの想い出の品、作ります～

催事場フロア

催事場 その後――

　翌朝、あげはたちがモーニングを食べて外に出ると、
「あ、おはようございますー」
とリュックを背負い、軽やかにランニングをしてくる人に出会った。

「知念さんじゃないですか」

「はい。
　とりあえず体を鍛えようかと思いまして」
と知念は笑う。

　最初は、霊と間違うくらい、ぼーっとして生気がなかったのに。

　今ではとても生き生きしている。

　あの百貨店、人の思いに合わせて煌めくけど。

　あそこを訪れた生きている人もやっぱり煌めくんだなあと思った。

　それでは、と知念は二人に頭を下げ、ガラス窓越しにエンにも挨拶する。

　颯爽と去っていくその後ろ姿を見ながら、あげはは笑った。

「通勤時の知り合いが増えましたね」

「そうだな。
　この百貨店とずっと関わっていると、そのうち、通勤中に見る地縛霊の知り合いとか増えそうだけどな」
と言いながら、奪は先に立って歩き出す。

「……まあ、いい顔になってたな」

　そうぼそりと言うのが聞こえてきた。



「あ、もう会社に着いてしまった。
　今日も暇な一日がはじまりますね～」

「嫌なことを言うなよ」

「私、今日、新しいお茶を持ってきたんです」

「何処に情熱注いでるんだ。
　うちの部署をナンバーワンにすると言ったろ、働け」

　そんなことを言いながら、あげはたちが地下に下りようとしたとき、昨日、お菓子をくれた女子社員、吉田周子が現れた。

「おはようございますっ」
と奪に勢いよく挨拶する。

「……おはよう」
と返し、奪は、さっさと階段を下りていってしまった。

　あーあ、とそれを見下ろしながら、周子はため息をもらす。

「いいわね、あなた」
とあげはを見た。

「うらやましいわ。
　私も、ここに飛ばされたかった」

「は？」

「イケメン課長と寂さびれて、人気のない、
　一般社員には、何処にあるのかもわからない場末の部署で二人きり！」

　うらやましいっ、と彼女は叫んだが、聞こえていたらしい奪の声が地下の廊下から響いてきた。

「虚むなしくなるからやめろ！
　新手の嫌がらせか！」

　下を見た周子が、
「……愛が伝わらないわ」
と呟いていた。

　とりあえず、社内に知り合い、増えました――。