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催事場フロア
なにかができてます
しおりを挟む「どうもお世話になりました。
あ、私、教育委員会の知念と申します」
と男は名刺を出してくる。
学校から出てないじゃんっ、という顔で、あげはたちは見てしまったが。
まあ、教育委員会であって、学校ではないから、体育祭などとは関係ないのかもしれないな、と思う。
「はじめてお客様から名刺もらってしまいましたよ」
あげはも名刺をもらったので、まじまじとそれを見つめる。
「そうだな。
名乗られたのも初めてだな。
まあ、相手は生きた人間だからな」
と自分の名刺を知念に渡しながら、奪は言う。
「あっ、そういえば、私は返す名刺がありませんっ」
「来週には届くはずだから、総務にとりに行け」
とすげなく言われた。
「じゃあ、また」
霊ではないので、じゃあ、また、と言って、三人目の客、教育委員会の知念は手を振り、去っていった。
「今回、こっち、あんまり行かなかったですね」
とあげはは外した花を手に扉をくぐり、廊下の方を見る。
「行ってみるか?」
とエンに問われ、百貨店側に行くと、客はいないが、彼がいるせいが、百貨店が煌めきはじめた。
あげはがただ電気をつけたときとは違い、店内に物や棚が現れ、ヘリオトロープの香りが漂いはじめる。
あげはは香水売り場の向こうにあるエスカレーターを見上げて言った。
「あっ、もうエスカレーターと上の階、定着したんですよね。
そういえば、書籍フロア、私、まだ見てません」
行ってみてもいいですかっ?
と訊き、一緒に上がる。
すると、ずらりと新旧の本が並ぶ棚の向こうに、もうひとつのエスカレーターがあるのが見えた。
「あっ、奥に更に上りのエスカレーターがっ。
エンさんっ、課長っ」
二人を呼び、三人でそのエスカレーターに乗ってみた。
だが、ちょっと怖かった。
行く先のフロアが真っ暗だったからだ。
ゴンゴン動く、ゆっくりとしたエスカレーターで上がりながら言う。
「あの~、この先、あの世だったり、床がなくて、真っ逆さまだったりしないですかね?」
さあ? と言いながら、エンは歩いて先に行き、普通に暗闇の床に降りた。
「そこ、降りたところで、ちょっと待て」
と言うので、奪と二人待っていると、エンがスイッチを見つけて、電気をつけたようだった。
がらんとなにもない空間が広がっている。
「なんにもないですね。
これからなにか始めようという、知念さんの意思が残ったんでしょうか?」
「生者の意思でも作れるもんだな」
と感心したように呟くエンに、
「この空間、どうするんだ?」
と奪が訊く。
「そうだっ。
催事場にでもしたらどうですか?」
とあげはは手を叩いた。
「京都とか北海道の物産展とかあるといいですよね~っ」
と願望のままに、あげはは言う。
「バランス合わせろ。
下は昭和初期くらいだぞ」
「昔の催事場って、なにやってたんですかね?」
エンはなにもない空間を見ながら、ちょっとだけ笑ったようだった。
「まあ、またなにかを望む霊が現れたら、ここも変わるだろ――」
と呑気なことを言う。
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