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催事場フロア

お気楽な方が楽しいですよ

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「迷わず帰れとか言うから、あの人も霊なのかと思っちゃいましたよ~」
とあげはは言った。

「最中を配って歩く霊か。

 ……それにしても、こんな場末の部署にも菓子とか回ってくるんだな」
と言ったあとで、奪はあげはを見て、

「おい。
 この人、めんどくさい人だな、とか顔に書くのはやめろ」
と言ってくる。

 超能力か。

「あの店主も言っていたが、お前は思っていることが顔に出過ぎだ」

 はいはい、と思いながら、あげはが奪のデスクに最中を置くと、奪は、ん? という顔をした。

「コピー用紙じゃないんだな」

 この会社でお菓子の下に敷いているのは、折ったコピー用紙なことが多い。

「はい。
 素敵な懐紙をおばあちゃんにもらったんですが、使い所がなくて。

 やっと使えて、今日は幸せです」

 そうあげはが言うと、奪は小馬鹿にしたように言う。

「お前の幸せは簡単だな」

「簡単な方が人生楽しいですよ」

 あげはは桜の透かしの入った懐紙を見ながら、そう言った。

「そういえば、運動会で幸せになるとか言っている霊もいたな」

「いや、幸せになるって言ってたわけじゃないですよ。
 運動会、懐かしいなあって言ってたんです」

「だが、あの百貨店でそう呟いたのなら、それがその霊の望みなんだろ。

 ……っていうか、百貨店と運動会、なんの関係もないんだが。

 なにしに百貨店に化けて出てきたんだろうな。

 それで、あいつは、一体、どうするつもりなんだ?」

「エンさんですか?」

 さあ? とあげはは小首をかしげた。

「百貨店……赤白帽とかなら売ってますかね?」

 とりあえず、今日帰りに行ってみませんか? と言って、その話を締め、仕事にとりかかる。



「で、なんで、俺たちは花を作ってるんだ?」

 会社帰り、二人はエンに命じられ、喫茶室でペーパーフラワーを作っていた。

 小学校や幼稚園で作って飾っているあれだ。

「運動会と言えば、これじゃないか?
 入場門を飾るやつ」
とエンは言う。

「そんなことより、喫茶で、こんなことをやっていていいんですかね?」

 三人はど真ん中のテーブルの上で、作業をしていた。

 ここが一番明るいからだ。

 この店のライトはちょっと雰囲気がありすぎて、暗い。

 だが、真ん中のここなら、いろんな場所から下がっているライトの光も届いていて、他の場所よりはちょっと明るいのだ。

「カーテン閉まってるのに、客、来ないだろ」
と奪が言う。

 まあ、確かに。

 エンは灯りはつけているものの、重厚な赤黒いカーテンをほぼ閉めていた。

 ――バーでもないのに、こんな感じに中が見えない店。

 確かに、ちょっと怖くて、入れないよな~。

「でも、なんか懐かしいですね、こういうの作るの」

 あげはは、じゃばらにペーパーフラワー用の紙を折り、真ん中を輪ゴムで止める。

 カラフルな花が真っ白なテーブルクロスの上に積み上がっていくさまは壮観だ。

「そういえば、百貨店のお客様って、一人ずつしか来ないんですか?」

「いや、そんなこともないと思うが」

「じゃあ、こうして作業しているときも、いきなり霊が尋ねてきたり――」
とあげはが言った瞬間、ドンドンドン、と誰かがガラスを叩きはじめた。

 分厚いカーテンの向こうから音がする。

 ひっ、と思わず、近くにいた奪の腕をつかんでいた。

 だが、あっさり振り払われる。

 あっ、ひとでなしっ、と思ったとき、奪が立ち上がった。

「そこにいろ。
 見てきてやる」
と言う。

 ……頼りになるのかならないのかわからないな、などと思っているうちに、奪はさっさとカーテンの向こうに行ってしまった。



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