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書籍フロア

仕事以外は阿吽の呼吸

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 いい感じの図書館だな。

 奪は違う区にあるその図書館にバスで向かった。

 緑に包まれた図書館で、建物も新しくはないが、雰囲気がある。

 なんとなく、久嗣が喜びそうな図書館だ、と思ったのだが。

 でも、お前が好きそうな図書館見つけたぞ、とわざわざ教えてやるのはなんか恥ずかしいなと思う。

 なにが恥ずかしいのかと思ったが、自分が彼女が好みそうなものがなんとなくわかる、ということを彼女自身に教えるのが恥ずかしいのだな、と気がついた。

 あれでも一応、若い女性だからな。

 普段は、使えない部下としか認識していないが……。

 図書館の中の入った奪はカウンター近くにあるパソコンで検索する。

 やはり、あるな。
 書庫だが。

 それを印刷し、カウンターに持って行く。

 貸し出しのところにいる若い女性は横を向いてパソコンの画面を見ていた。

「すみません」
と声をかけると、はい、とこちらを振り返ったあとで、何故か挙動不審になる。

「これ、お願いします」
「は、はい」

 彼女は、震える手で紙を受け取ると、

「しょ、書庫の本ですねっ。
 とって参りますっ」

 今すぐに!
という感じで奥に駆けていった。

 そこまで急いではいないんだが。

 あと、図書カード作らなくても、手持ちのポイントカードで借りれるみたいなんだが、これで大丈夫か確認したかったのにな……、
と思ったあとで、奪は気づいた。

 待てよ。
 霊って、読んだあと、本、返してくれるのだろうか。

 自分で返しに来てくれなくてもいいが。

 本持ったまま、成仏してしまわないだろうか。

 そんなことを考えているうちに、女性は本を手に戻ってきた。

「お待たせいたしましたっ」

 奪は差し出された古い全集を受け取らないまま、見下ろして言う。

「すみません。
 これ、なくなっても大丈夫ですか?」

 えっ? という女性に向かい、奪は繰り返す。

「なくなっても大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫じゃないです」

 さっきまで赤い顔をしていた女性が青くなる。

「買い取ることとかできますか?」
「できません……」

「じゃあ、今すぐ裂いたら、買い取りになりますか?」

 しゅ、主任、主任~っ、と後ろを振り返り、彼女は助けを求めはじめた。



「たまに本を放出してるらしいんだが。
 あの本が出るのは、いつになるかわからないというので、とりあえず借りてきた」

 帰ってきてみると、あげはは、お茶タイムのようだった。

 ……こいつ、ずっとお茶タイムだったんじゃないだろうな、と思ったが。

 ちゃんとやるべき仕事は終えているようだった。

 適当そうに見えて、仕事はきちんとしている。

 あの百貨店のコンシェルジュも、こいつのそういうところが見えているから、仕事を頼んでいるのかもな、と奪は思う。

「あのー、今回、専務が借りたことにより。
 まだ借りる人がいる、という理由によって、放出されなかったりするかもしれませんね。

 廃棄する決まりって、ほんとうのところ、どうなってるんでしょうね?

 捨てそうにもない貴重な本が突然、消えてたりするし。
 ボロボロになって、廃棄されたりしてるんですかね?」
とあげはは小首をかしげる。

「……じゃあ、この本をボロボロにしたら、廃棄になるだろうか」

「まさか、図書館でその危険思想、さらしてきてませんよね……?」

 ところで、お茶、いかがですか?
とあげはは訊いてきた。

「……そういえば、なに飲んでるんだ、お前」

「え?
 沖縄のブクブクー茶です」

 かき氷食ってるのかと思った。

 ぶくぶくとしたかき氷のような白い泡に砕いたピーナッツがトッピングとして乗っている。

「いや、ここは人目がないので」

 ……好き放題やってるな。

「課長にも作ってあげますよー」
とブクブクー茶の素みたいなのと硬水のペットボトルを出してくる。

「……いや、いい」
と言ったが、あげははじっと自分を見つめてくる。

「作りたいんだな……」

 わかった、と言うと、はいっ、とあげはは鍋を手に硬水を沸かし始めた。

「お前、今日、ついてくるか」
とその背に向かって問うと、何処へ? とも訊かずに、あげはは振り向き、

「はいっ」
と言った。


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