8 / 40
化粧品フロア
仕事だ、助手
しおりを挟む「フカフカのパン!
美味しかったですっ」
食べたあと、あげはは近くを通りかかったエンにそう言った。
「ありがとう。
パン屋を褒めてやれ」
そこの先の老舗のパン屋だ、とエンは言う。
「珈琲も美味かったな」
と奪が言うと、
「西の角の珈琲屋が淹れて持ってくるんだ。
珈琲屋を褒めてやれ」
と言う。
「フルーツのカッティングも綺麗でした」
「それは、裏のスナックのおばちゃんが切ってくれている」
おばちゃんを褒めてやれ、と言うエンに、
「……この店は寄せ集めで出来てるのか?」
と奪は言い、あげはは、
それらの人々は生きているのですか?
と思っていた。
「卵は焼いてるし。
紅茶は自分で淹れてるぞ。
あと、いろいろ試作品は作ってみてる」
とエンは言う。
ん? とエンが百貨店の方を見た。
「あの客が下りてきたようだ」
香水を欲しがっているあの娘さんに動きがあったようだ。
「助手」
とエンはこちらを見る。
今、エンは手が離せないからだろう。
「私、今から仕事ですっ」
奪は腕時計を見、
「おっと、もう時間だ。
じゃあな、久嗣」
と五百円玉を置いて立ち上がり、行こうとする。
「いや、待ってくださいっ。
私も行きますよっ」
「まだ時間はあるだろ。
ちょっと手伝ってやれよ」
「え……」
「遅れたら、『久嗣、連絡なしで欠勤』ってことで」
「今、言ってるじゃないですか~っ」
「久嗣はあやかしの手伝いをするから遅れるそうですとか報告できるか」
じゃあ、と薄情な奪は行ってしまった。
「こんにちは、こんばんは、お邪魔します~」
いろいろ言ってみながら、あげはは、そっと百貨店の方に行ってみた。
彼女はまた香水売り場にいたので、そこ以外はまた、ぼんやりとして見えた。
香水の香りを嗅いでみては、ちょっと寂しげだ。
「望む香水に出会えないのは――
あの記憶が私から遠くなってしまっているからかしら?」
ここに自分がいると知っているからなのか。
それとも、独り言なのか。
彼女はそんな言葉を呟いた。
縁もゆかりもない人だけど。
そんな姿を見ていると、この人のためになにかしてあげたいなと思ってしまう。
11
お気に入りに追加
41
あなたにおすすめの小説
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
【R18】ドS上司とヤンデレイケメンに毎晩種付けされた結果、泥沼三角関係に堕ちました。
雪村 里帆
恋愛
お陰様でHOT女性向けランキング31位、人気ランキング132位の記録達成※雪村里帆、性欲旺盛なアラサーOL。ブラック企業から転職した先の会社でドS歳下上司の宮野孝司と出会い、彼の事を考えながら毎晩自慰に耽る。ある日、中学時代に里帆に告白してきた同級生のイケメン・桜庭亮が里帆の部署に異動してきて…⁉︎ドキドキハラハラ淫猥不埒な雪村里帆のめまぐるしい二重恋愛生活が始まる…!優柔不断でドMな里帆は、ドS上司とヤンデレイケメンのどちらを選ぶのか…⁉︎
——もしも恋愛ドラマの濡れ場シーンがカット無しで放映されたら?という妄想も込めて執筆しました。長編です。
※連載当時のものです。
○と□~丸い課長と四角い私~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
佐々鳴海。
会社員。
職場の上司、蔵田課長とは犬猿の仲。
水と油。
まあ、そんな感じ。
けれどそんな私たちには秘密があるのです……。
******
6話完結。
毎日21時更新。
濃厚接触、したい
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
とうとう我が社でもテレワークがはじまったのはいいんだけど。
いつも無表情、きっと表情筋を前世に忘れてきた課長が。
課長がー!!
このギャップ萌え、どうしてくれよう……?
******
2020/04/30 公開
******
表紙画像 Photo by Henry & Co. on Unsplash
社内恋愛~○と□~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
一年越しの片想いが実り、俺は彼女と付き合い始めたのだけれど。
彼女はなぜか、付き合っていることを秘密にしたがる。
別に社内恋愛は禁止じゃないし、話していいと思うんだが。
それに最近、可愛くなった彼女を狙っている奴もいて苛つく。
そんな中、迎えた慰安旅行で……。
『○と□~丸課長と四角い私~』蔵田課長目線の続編!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる