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化粧品フロア
喫茶室で朝食を
しおりを挟む「……明かりがついてる」
喫茶室を外から見た奪が驚いたように言う。
「この間もついてましたよ」
「日曜か?
俺も来たんだが」
カウンターにパンを置きながら、エンが言う。
「お前と百貨店の方に移動したとき、切ったんだ。
儲かってないから、電気代もったいないだろ」
夢と幻想の百貨店が急にショボイ話になってきたなあ、と思うあげはの頭の中では、あやかしが電気代の徴収に来ていた。
「電気つけとかなきゃお客さん、来ないですよ」
「破格の値段で出してるモーニングの時間帯は、そこそこ来るんだがな」
「パン買ってる間に、もう誰か来て帰っちゃったかもしれませんよ」
誰もいない店内を見回しながら、あげはは言ったが、エンはお湯を沸かしながら、
「いや、常連は来たら、いつの間にか、いつもの席に座ってるから」
と言う。
「それは生きた常連さんですか……?」
パン、配達してもらえないんですか?
とあげはが訊くと、
「たいした量じゃないし、悪いだろ」
とエンはまともなことを言う。
「フランスか何処かの国では、毎朝、パン屋さんが店の取っ手にパンひっかけといてくれるらしいですよ」
そんな怪しい知識を披露してみたが、
「ここは日本だ。
飲み物はなににする?」
とエンに軽く流される。
「珈琲で」
「紅茶で」
しばらくすると、バラバラ常連らしいサラリーマンやおじいさんがやってきた。
待てよ、困ったぞ。
モーニングがやってくるまで、このイケメン課長様と差し向かいで座っとかなきゃいけないのか。
会話に困るな、と思っていたが、沈黙に耐えられないあげはの口は勝手にしゃべっていた。
「課長の名前って、変わってますよね」
「お前の名前も変わってるぞ」
と言ったあとで、奪は溜息をつき、
「行け行け、押せ押せな親なんで。
なにもかも奪いに行けと言う意味で、奪、とつけたらしい」
と言う。
……いや、どんな親だ。
奪はこちらをチラと見て言った。
「なにもかも奪いに行けとはしつけられたが。
お前は奪わないから安心しろ」
そんな心配していませんよ……。
「その名に負けないよう、なにもかも頑張ったが、こうして左遷されて場末の部署に飛ばされてしまったわけだ」
「でも、課長には栄光の時代もあったわけじゃないですか。
私なんて入ってすぐに左遷されてるんですけど」
「最初から駄目なところにいる場合は、左遷って言わないだろ」
「それにしても、何故、場末の部署なんかに」
「……俺を可愛がってくれていた専務が派閥争いに敗れたんだ、よくあることだ」
「その専務が社長になっていれば、課長の天下だったわけですね」
「どちらかに思い入れするのはよくないと聞いてはいたんだが、俺はずっと世話になってた専務の期待に応えたかったから」
意外に人情味のある人なのかな、と思ったとき、モーニングセットがやってきた。
ふわふわのスクランブルエッグにふかふかのパン。
野菜とちっちゃいな白い皿に入ったヨーグルトとフルーツ。
そして、相変わらず、美味しい紅茶。
これでワンコインは確かに破格のお値段だ、とあげはは思う。
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