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化粧品フロア

朝の百貨店

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「課長、おはようございます」

 翌朝、あげはは道で出会った奪に挨拶したが、視線をそらされた。

 昨日、仕事終わりに二人で百貨店を探したが、結局見つからなかったのだ。

 場末の部署なので、時間通りに終わるから、動き回る余裕はあるのだ。

「それにしても、課長の家がこんなに近いとは――」

 百貨店は見つからなかったが、奪の家は見つかった。

 意外に近所なことが発覚したのだ。

 こうして、うっかり通勤途中に出会ってしまうくらいに……。

 無言で前を歩く奪について、いつもとちょっと違う道を歩く。

「残念でしたね。
 百貨店見つからなくて。

 暗かったからですかね。

 でも、しみしみおでん、美味しかったです。
 課長はいいお店ご存知ですね。

 ただ、課長と一緒だったので、緊張してあまり呑めませんでしたけど」

 奪がようやく振り返って言う。

「本人に向かってそう言う奴は、たいして緊張もしてないと思うんだが……」

 はは、すみません、と苦笑いしたあとで、あげはは、しみじみと言った。

「あれは私にしか見えない百貨店だったのかもしれないですね」

「いや、俺の目にも見えるな」

 足を止めた奪は斜め前を指差して言う。

「もしかして、これのことじゃないのか?」

 そこには紛れも無い、あの廃墟の百貨店があった。

「昨日、お前の話を聞いているうちに、これじゃないかと思ったんだが。
 お前が違う道を言うから。

 あやかしの百貨店だからなかったんじゃなくて。
 そこにあるのに、ただ迷っただけなんだろ」

 これ、ただの廃ビルでは? と課長が言う。

「でも、ここに迷える店員さんがいたんです」

「別に迷ってない」
と背後から声がした。

 あっ?
 えっ?
と二人が振り返ると、あの神々しいイケメンが透明な袋に入ったパンを手に立っていた。

「なんですか、そのパン」
「モーニングに出すんだ」

 霊が面白いこと言ってるなー。

「霊が面白いこと言ってるなーみたいな顔で見るのやめろ……」

「やはり、あやかしですか?
 今、心を読まれましたが」

 やかましい、と言ったあとで、エンは言う。

「モーニング、食ってくか?
 税込みワンコインだぞ」

 二人はダメダメな部署なら、せめて誰よりも早く行こうと出勤するのは早かったので、まだ時間に余裕があった。

 急いで出たのと、昨日呑みすぎたので、朝食は菓子パンをちょっとかじっただけだった。

 奪と目が合う。

 二人でエンについて店に行った。
 



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