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おまけ

居て欲しいと思ってるよ

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 今度はカップ麺を作ると言って、綾太たちはまた湯を沸かし始めた。

 綾太と中原と泰親と、付き合わされている青田がせっせとやっているので、のどかたちは少し離れて見ていた。

 八神が訊いてくる。

「お前たち、いつまで、寮に居るんだ?」

「え? 別に出るつもりないですけど?」

「でも、そのうち、子どもができたりとかしたら、此処だと落ち着かないんじゃないのか?」

「……出てって欲しいんですか、八神さん」
とのどかは苦笑いして言ったが、八神は珍しく真面目な顔で言ってくる。

「いや―― 居て欲しいと思ってるよ。
 さっき、貴弘が言ってたじゃないか。

 怖いことは後回しにしない方がいい。
 不安だったから、訊いてみた」

 その言葉にちょっと笑ってのどかは言う。

「先のことはわからないですけど。
 私は、子どもにもこういうところで育って欲しいかなと思っています」
とまたなにか揉めて騒いでいる綾太たちを見て笑う。

 そうだな、と八神は、かつてのあばら屋敷とちょっとだけ手入れされた雑草まみれの庭を見ながら言った。

「こんな美しい風景の中で暮らせるお前たちの子どもは幸せだと思う」

 実はずっと都会暮らしだったという八神のそんな言葉に、
「いいえ、こんな美しい風景があって、こんなに楽しい人たちがいる中で、ですよ」
と言って、のどかは笑った。



「のどか、ちょっと目をつむって来てみろ」

 八神も火の方に行ってしまったあと、貴弘がすっと何処かに消えたと思ったら、そう言ってきた。

「また花占いですか……?」
と目を閉じて花をめ、と言われたのを思い出し、のどかは言ったのだが。

「違う。
 いいから、目をつぶれ。

 早く」
と急かされ、言われた通りにする。


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