上 下
111 / 114
おまけ

私とは同衾してくれんのだ

しおりを挟む
 

 ははは、と笑って見ているのどかを見ていた綾太たちは、ひそひそと話していた。

「面白くないな、一気にラブラブになりやがって」
と言う綾太に、

「……別に面白くないというわけではないですが。
 このままというのもどうかと思います」
と中原が言う。

 いや、どうかと思いますってなんだ? とのどかが聞いていたら、突っ込んでいるところだろうが。

 泰親が確かに、と重々しく頷いた。

「私も困っておるのだ。
 のどかは最近は貴弘とばかり寝て、私とは同衾どうきんしてくれん」

 いや、それは貴方が猫じゃなくなったからでは……、
とみんなの目には書いてあったのだが、泰親は特に気にすることもなく、訴え続ける。

「しかも、のどかは夜遅くになって、人目がなくなると、貴弘に強要されるのか、貴弘サンなどと呼んでおるのよ」

 のどかが聞いていたら、
「……いや、いけませんか?」
と赤くなって言い返してくるところだろう。

「おおそうだ」
とそこで、泰親は手を打った。

「さっき、風子とのどかがいい話をしておったのよ。
 ちょっと貴弘のところに行ってこよう。

 貴弘は、ああ見えて、のどかのことに関しては、ちょっと自信がない奴だからな。
 ひとつ、からかってやろう」

 貴弘ー、と走っていく泰親を見て、八神が、
「あの神主、此処に居る誰より俗っぽくないか?」
と呟いていた。
 


 のどかたちのところに、
「貴弘ー」
と機嫌よく泰親がやってきた。

 機嫌よすぎて不気味だな、とのどかが思っていると、
「貴弘、ちょっと来い」
と泰親は貴弘の肩を抱き、隅の方に連れていく。

 だが、この神主、普段、あまりコソコソしない性格なので、コソコソ言っているつもりなのだろうが、まったく小声になっていなかった。

「お前、のどかが本当に自分を好きなのか、心配なのであろう。
 今日、風子がいいこと言っておったぞ。

 のどかがお前を好きか嫌いか、花占いでもしてみたらどうだ」

 なにも内緒になってはいない泰親の話を聞きながら、花占いの話なら、さっき社長にしましたよ、とのどかは思っていたのだが。

 そういえば、雑草で花占い、のところからしか喋ってないので、どの花だったら奇数だから、何処で終わる、という話はしていなかったなと気がついた。

「そうか、やるか。
 ちょっと待て」
と言った泰親が、

「これじゃ、これじゃ」
と持ってきたのはコスモスだった。

 寮に飾ってある花瓶から抜いてきたらしい。
 前の大家さんがたくさん咲いたからとくれた夏咲きのコスモスだ。

 うっ。
 コスモスは偶数だから、好きで始めたら、絶対、嫌いで終わるのに。

 あざといな神主、と思い、
「社長」
と声をかけようとしたとき、貴弘は、もうコスモスをむしっていた。

「キライ」

「……嫌いから始めるか。
 そうか。

 普通、好きから始めないか。
 やっぱり、ハートが強いな、お前は」
と泰親が小さく呟いていた。

 笑ってしまう。

しおりを挟む

処理中です...