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呪いの(?)雛人形

で、結局、此処は何屋なんですか?

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 近くの店でお昼を食べることになって、乃ノ子たちは会長さんオススメのお店に行った。

 基本、甘味処らしいのだが。

 お食事メニューも充実しているという。

 乃ノ子は何処かで見たような木のテーブル、切り株のような椅子を見て、ん? と思う。

「この椅子はさっき、……デジャヴでしょうか」

「あの笠と蓑も見たな」
と壁にかけられている笠と蓑を見て、イチが言う。

「この町はこのテーブルと椅子と笠と蓑を店に置く呪いにかかっているのか?」

 お茶とメニューを持って出て来た若い娘が、
「そのテーブルと椅子。
 うちのおばあちゃんが会長さんとこで買ってきたやつなんですよ」

 笠と蓑はおまけでもらいました、と笑う。

 その他の店の飾りもさっき見たようなものが多く、

「なんか、民芸品店と区別がつかないんですが……。

 此処はほんとうに甘味処なのですか」

 メニューに甘味より、お食事メニューが多いことからいっても、甘味処なのか謎だ、と思いながら、乃ノ子は井桁柄の布張りのメニューを眺める。

「おしるこにしようかな」

「昼ごはんだっつってるだろ」
と言うイチと乃ノ子のやりとりに笑いながらも、店員さんはちゃっかりジュンペイにサインをもらっていた。

「さっきの話ですけど」
と注文を終えた乃ノ子は催眠術の話を蒸し返す。

「私たちが見ていたから、会長が自分の手で戻したわけじゃない、と思ってましたけど。
 私たちも操られていた可能性もありますよね」

「会長が戻してるのを見てたけど忘れてるとか?」

「それか、自分たちも一緒に戻したけど、忘れてるとか」

「それいいね」
とジュンペイが言い出す。

「自分が辛い思いして働いたのを忘れてる。
 記憶から抹消したら、なかったも同じだよ」

「いや、疲労感は残るだろ」
とイチは言ったが、ジュンペイは遠い目をして言う。

「でもほら、忘れたい仕事ってあるだろ。

 クイズ番組であの空気読まない解答はなかったとか。

 バラエティで、あっ、此処、突っ込まない方がよかったってとこに突っ込んじゃったとか」
 
「……なにがあった、ジュンペイ」

 アイドルもなかなか大変そうだな、と乃ノ子は苦笑いする。

「それであの、我々に催眠術かけてみたら、真相がわかるかもしれないと思ったんですが」

「誰にかけるんだ。
 俺か、お前か」
とイチが渋い顔をする。

「いいじゃん、それ。
 乃ノ子ちゃんにかけようよ」
とジュンペイは運ばれてきたざるそばを前に笑う。

「乃ノ子に催眠術とかかけるな。
 どんな恐ろしいことしゃべり出すかわかったもんじゃない」

「えっ?
 最初っから、兄貴を利用しただけだったとか。
 乃ノ子ちゃんがイサキ様になって、しゃべり出すってこと?」

 その言葉にイチが沈黙する。

 千年以上前に居たという「はじまりのイサキ」。

 私の前世だというが、あんまり記憶はないな、と乃ノ子は思う。

 前世がらみで、拝まれたり、飛んでにげられたりするが。

 思い出した記憶は、静のものばかりだ。

 なんでだろうな? 一番近い過去だから?

 ……それとも、なにかこう、

 幸せだったからだろうか。

 凍えるような雪の中。

 遠からず消えてしまうだろう壱の手を握り、雪に足をとられながら歩いた。

 今、目の前に居るイチを見てみたが、あのとき自分を見つめてきたような、切なくなるような視線は何処にもなく。

 めんどくさそうに、
「早く食えよ、乃ノ子」
と言ってくるだけだ。

 まあ、前世は前世。

 今は今だしな―― と思ったとき、イチが言った。

「早くしないと、しるこ食う時間なくなるぞ」

「あ、はいっ」
と喜んで乃ノ子はきつねうどんをすする。

 あぶらあげがほんのり甘辛くジューシーなきつねうどんだ。

 小さなおいなりさんも可愛くて美味しい。

「僕、あべかわね。
 ギャラ出るんだろうから、おごってよ兄貴」
とジュンペイはもう今の話は忘れたように兄にたかっていた。


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