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呪いの(?)雛人形

前世からの縁ってあるんですね

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「あっ」
と叫んだ乃ノ子を会長は不思議そうに見ていた。

 乃ノ子は、はは、と笑って誤魔化したあと、小声でイチに言う。

「この人、よく見たら、あかりなし蕎麦のときの屋台のおじさん、ソックリじゃないですか」

「本人だろう。
 結構あるぞ、そういうの。

 昔、調査を頼まれた相手に、今生でもまた頼まれるとか」

 慣れているのか、イチは淡々とそう言う。

 その時代ごとには、それぞれわずかな縁でも、毎度続いているのなら、それは結構な縁ではなかろうか。

 そう思いながら、乃ノ子は呟く。

「恐ろしいですね。
 人って転生しても、けっこう前世そのままの姿になってしまうんですね」

「何処見て言ってんだ……」

 乃ノ子の視線は、主に会長の頭の辺りを見ていた。

 会長は頭髪の薄くなり具合まで、あかりなし蕎麦のおじさん、そっくりだった。

「ところで私、自己紹介してないんですけど。
 なんだと思われてるんでしょうね?」

「普通に考えて助手だろう」

「若すぎませんか?」

「あの世代のおじさんたちは、あやかし退治物の少年漫画とか見て育っている。
 喫茶店やお好み焼き屋にあるあの手の漫画は、大抵、退治屋の相方は女子高生だ。

 お前を見て、普通に助手だと思ったんだろ」

 いや、そんな理由で……と思ったとき、イチが言う。

「それと、思い出しはしなくとも、魂の奥底で、昔の俺とシズを覚えているから、違和感ないのかもしれないな」

 ああ、それはあるかもしれない、と乃ノ子が思ったとき、座敷に通された。

 七段飾りのお雛様が幾つも並んでおり。

 由緒ありげなのも、最近のもあった。

 吊るし雛なんかも飾ってあり、朱色を中心にした色の洪水のようで、部屋中、艶やかだ。

「壮観ですね~。
 これが片付けられないってどういう感じなんですか?」
と乃ノ子が会長に訊くと、

「やってみますね」
と会長はお雛様を綺麗に包み、片付けはじめる。

 乃ノ子やイチも手伝った。

 納戸にそれをしまい、

 やれやれ、大変だったな、と思いながら、会長について納戸から座敷に戻る。

 お雛様は綺麗に座敷に並んでいた。

「……どういうことなんですかね?」

「勝手に並んでくれるのなら、お雛様を出したいときには、並べる手間が省けていいけどな。
 小物がたくさんあるし、どれが何処とか調べるの、結構大変じゃないか」

 我が家では今だに母親が自分の雛人形をインテリア代わりに飾るから、手伝わされている、とイチは眉をひそめている。

 この居るのか居ないのかわからない息子を当てにして、お雛様を出すのも大変では……。

 もうひとりの息子はアイドルでなかなか捕まらないだろうしな、と思いながら聞いていた。

 また綺麗に並んでしまった年代物のお雛様を眺め、乃ノ子は呟く。

「町中がこんな感じになってるんですよね?」

 それぞれの家のお雛様がこんな風に飾られたままになっているらしい。

「……此処の人たちがみな、いき遅れたりとかないのでしょうか?」

 雛人形を遅くまで出していると、いき遅れるという、昔からの都市伝説があるはずだが、と思いながら、乃ノ子は訊いてみたが、

「むしろ、ものすごく早くから出していると解釈することもできるぞ」
とイチは言う。

 なにかを見極めようとするように、イチは目を細め、お雛様たちを見ていた。

「お札でも貼ってみるか」

「悪いものでないのなら効かないのでは?」

 そんな乃ノ子の言葉に、こんな現象が起こって、悪いものではないなんてあるんですか、という顔で、会長が見る。

 腕組みして立つイチは渋い顔で、

「そもそも出てきたいと言っているものを引っ込めてもいいものか」
と案の定、あやかしサイドに立って考えはじめていた。


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