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先生、事件ですっ!
あの……先生、事件ですよ?
しおりを挟む「平川さん」
と夏巳が窓を開けると、
「先生っ、事件ですっ」
と平川はそのスマホを突き出し、桂に叫ぶ。
「先生っ、妻が浮気していますっ」
「気のせいです」
突き出されたスマホを見ることもなく、桂は言った。
だが、平川は一気にまくし立てる。
「妻がスマホを買い換えたので、いろいろ設定してやってたんですが。
カレンダーの毎週水曜日のところに、「し」という文字とハートマークが。
だが、妻はそんなもの知らないと言うんですよっ。
これって浮気する日の印なんじゃないですかねっ?」
分不相応な……失礼。
ちょっと平川には似合っていない美人妻をめとってしまったせいで、平川は常に妻が浮気をするのではっ? と怯えているようだった。
「考えすぎですよ、平川さん」
と桂は言う。
「奥さん、なにか楽しみにしているドラマでもあるんじゃないですか?
『し』で始まる」
「そうか。
そうかもしれませんね。
毎週水曜とかドラマっぽいですよね。
さすがは名探偵ですね、先生」
……そうですか?
ともかく、発進したいから、口から出まかせを言ってるようにしか聞こえないのですが。
だが、桂の美貌に何故か、平川妻だけではなく、平川本人もやられているようなので。
平川はありがたかって、桂の言葉を聞いている。
だが、大事な妻のこと、さすがにすぐに正気に返ったらしく、
「いや、先生っ。
今シーズン、『し』で始まるドラマはないですっ」
と平川は叫び出した。
やけに早く判明したな、と思ったのだが、平川は新しいドラマが始まるたびに、とりあえず、一話目を録画して見る習性があるのだと言う。
「やはり浮気っ。
先生、調査してくださいっ」
と妻が心配で平川は叫び出すが、此処で桂はもっともなことを言った。
「落ち着いてください、平川さん。
愛人との密会予定の載ってるスマホを平川さんに設定してくれなんて渡すはずありません」
「あ、そうですね」
と納得しかけて、スマホを見つめた平川だったが。
「でも、そういえば、ガラケー時代、以前のガラケーと同期させたら、入れた覚えのないスケジュールが湧き出てきたという話を聞いたことがあります。
もしや、私に見られまいと消したはずのスケジュールが湧き出てきて」
「そういうこともあるかもしれませんね」
いや、先生、今、本気で答えてますか?
なんか適当に話を進めて終わらせようとしていませんか?
先生のお好きな……いや、浮気調査だからお好きではないでしょうが、事件ですよ?
と思いながら、夏巳は車を降りようともしない桂を見つめる。
おうちのしつけがいいせいか、いつもなら降りて馬鹿丁寧に挨拶しているのに。
どんだけ津和野に行きたいんだ、と夏巳は思った。
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