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第三章 のっぺらぼう

あやかしの正体

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「此処だんすよー」

 那津が覗き女について調べたいと桂に言うと、現れた場所まで案内してくれた。

 ずらりと並んだ小部屋の障子。

 遊女たちが客を取る場所だ。

 桂が、、
「最初に現れたのは、此処だんす」
とひとつの部屋を指差してくれた。

「次はえーっと」
と少し迷って、端から数を数え、

「確か此処」
と言う。

「桂」

 はい? と那津の呼びかけに、桂が振り返る。

「何故、一つ目は迷わなかった?」

 ああ、と彼女は笑い、
「だって、女が覗いてたところ、穴が空いてたんだんすよ。
 そこを補修してあるから」

 ほら、と穴の上から障子紙が貼ってあるところを見せる。

「てことは、二つ目は空いてないってこと?」
と咲夜が訊いた。

「そうだんす。
 他の覗かれた部屋も空いてないだんすよ」

 ふうん、と那津がその二つ目の部屋の障子を眺めたとき、
「そろそろみんな、上がってくるだんすよ」
と声がした。

 廊下の隅に桧山が立っていた。

 やっぱりね、という顔でこちらを見ている。

 那津は罰悪く、咳払いした。

「霊なら、そこのお坊様に祓ってもらえば終わりだんしょう」

 はーい、と束の間の探偵ごっこで満足したのか、桂は桧山の言葉にすぐ頷いた。

 だが、
「いや……、霊じゃないな」
と那津は呟く。

 みなが振り返った。




「エセ坊主は居ないのか」

 そう言いながら、店を訪れた小平に、隆次は、
「今日も吉原ですよ」
と教える。

「いいご身分だなあ」
「小平様もご一緒されては」

 いや、あそこは苦手だ、と小平は顔をしかめる。

 積んであった派手な木製の手車ヨーヨーを手でもてあそびながら、小平はそこから動かなかった。

「何か私に訊きたいことでも? 小平様」

 いや、と言ったまま、小平は手車を見つめている。

 だから、自分から言ってみた。

「私、小平様を昔、見たことがある気がするんですが」

「昔?」

「私が――

 吉原に居た頃です」

 手車を振ってみていた小平の手が止まる。

「そうかい。
 知らねえな。

 俺は仕事以外で、あんな場所には行かねえからな」

 また来る、と行きかけて、何か買って帰らねば悪いと思ったのか、さっきまでいじっていた手車をひとつ手にする。

「差し上げますよ、それ。
 柄が悪いのか、なかなか売れませんで。

 それから、咲夜なら今日は来ませんよ」

 そう言い、隆次は窺うように小平を見た。

「いや、金は払う」
と言ったあとで、小平は、間を置き、

「あの咲夜って娘は生きてんだよなあ」
と訊いてきた。

「足がありましたでしょう?」

「那津は霊も足があると言うぜ。
 と言うか、あの男と居たから、もしや、生きていないのかと思っただけだ」

 金を台の上に置いて、小平は帰る。

 隆次はいつもより覇気はきのないその後ろ姿を見送った。


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