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王様に課せられたこと
ゆったりした時間が流れているな
しおりを挟む夕暮れどき、アイリーンは池の側にしゃがみ、水の中に倒れている女神像を眺めていた。
これはこれで風情があるなと思う。
その女神像の横。
見たことのない脚の長い虫が水の上をすいすいと進んでいく。
細すぎて見えないくらいの脚だ。
虫が動くと水の輪が移動していく。
それを眺めていると、
「面白いか」
と背後で声がした。
声に遅れて水に映ったのは、美しき王、エルダーの顔。
「はい」
とアイリーンは振り返った。
エルダーは横に座り、一緒に虫を眺めてくれる。
「ここは、ゆったりした時間が流れているな」
と呟いたようだった。
「そうですか。
遠征のついでにいらっしゃったんですか」
髪飾りありがとうございます、とずいぶんマシになった、だだっ広い食堂でアイリーンは言った。
倒壊しそうな家具や彫刻、花瓶などを片付けたので、ガランとして、声が反響する。
「はあ、そうなんです。
遠征のついでに」
と肉を食らいながら、イワンが言った。
「王は、ここに来るついでを作るためなら、新たな戦さをも起こしかねない勢いです」
なんの話だ、とエルダーがイワンを見る。
給仕しているメディナがなぜか笑っていた。
「もういらっしゃらないのかと思っていました」
緑のガラスのボトルでワインをそそぎながら、アイリーンはエルダーに言った。
エルダーがはアイリーンを見上げ、
「来るなと言うのか」
と鋭い眼光で訊いてくる。
顔が綺麗なだけに怖いんですけど……と思いながらもアイリーンは言った。
「いえいえ。
ちょっと油断してまして。
王様がいらっしゃるのに間に合ってよかったです」
「どこかへ行っていたのか?
買い出しか?」
「まあ、どっちかと言うと……散歩ですかね?」
とアイリーンは適当なことを言う。
最初こそ、そんな感じにちょっと険悪だったものの、すぐにみんなで話が盛り上がり、楽しく夕食を終えた。
「王様、いろいろ運んでくださったので、寝室は前より立派になってますよー」
いつもより呑んだアイリーンは上機嫌にそう言った。
エルダーを寝室に案内するため、二人で廊下を歩いていたのだ。
なぜかメディナたちはついて来ていなかった。
「そうか……」
アイリーンは一応、エルダーがいつ来てもいいように、寝室を整え、扉も磨いていた。
前よりかなりマシになったその扉を開ける。
「どうぞ、ごゆっくりおやすみください~」
「ん?」
では、とアイリーンは王の眠りの妨げないよう、早々にその場を立ち去った。
そして、厨房でくつろいでいたメディナとイワンに、
「なんで戻ってきたんですかっ」
と怒られた――。
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