上 下
5 / 22
不審な人物が現れました

誘い込まれる喫茶店

しおりを挟む
 
 ここが――

 喜三郎が珈琲を淹れている店か。

 あいつの店なのだろうか……。

 そんなことを思いながら、末太郎すえたろうは道に立っていた。

 緑に包まれた感じのいい喫茶店。

 喜三郎がここにいると聞かなければ、かなり好感を抱いていたことだろう。

 だが、喜三郎がここに出没していると聞いたからこそ、来たのだが。

 そんなことを末太郎が考えていると、横からいつも自分に付き従ってくれている白田はくたが言う。

「とりあえず、入ってみましょう」

 二人で喫茶店の敷地に足を踏み入れかけ、はっ、とした。

 店の扉を開け、とんでもない美女が現れたからだ。

 長い黒髪に白い肌。

 小さい顔。

 知的な瞳。

 しっとりとした雰囲気。

 いつまでも向かい合って語り合いたいと思う感じの美しい女性だった。

 ……実際、向かい合って語り合ったら、物騒な話しかしてこないのだが。

 末太郎たちは、そんなことは知らなかった。

「いらっしゃいませ。
 どうぞー、お入りくださいっ」
とその美人に微笑みかけられ、外からまず、様子を窺おうと思ったことも忘れ、二人はフラフラと店に入り込んでしまった。



 なんだろうな~?
 おじいさんたちがこっちを窺っているようだ。

 玄関前を少し掃こうと思い、外に出かけた琳は足を止めた。

「琳ちゃん、どうかしたの?」

 年齢はそこそこ行ってそうだが、綺麗な常連さんが窓際の席から声をかけてくる。

「はあ、おじいさん二人が何故だか、外からこちらを窺ってらっしゃって。

 このお店、入りにくいですかね?」

 全然、と言って彼女は笑う。

 メガネをかけ、髪をひとつにまとめて、ノートパソコンを打ちながら普通に会話してくる。

 見るからに頭の良さそうな人だと、ずっと思ってはいるのだが。

 突っ込んで訊かないので、未だに何者なのか、よくわからない。

 まあ、お客さまのプライベートに首突っ込まない方が居心地いい空間が作れますしね、と、

「いや、犯人たちのプライベートはっ!?」
と将生たちに叫ばれそうなことを思いながら、琳は外に出てみた。

 何故か自分の顔を見て、ビクつく老人たちに微笑みかけ、
「どうぞ、お入りください」
と声をかけると、老人たちはおずおずと店に入ってきた。

 ……地味な色のシンプルなジャケットとかだけど。

 二人とも、ずいぶんといい仕立ての服だな。

 何者なんだろう? と思いながらも、笑顔で席に案内する。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

マーガレット・ラストサマー ~ある人形作家の記憶~

とちのとき
ミステリー
人形工房を営む姉弟。二人には秘密があった。それは、人形が持つ記憶を読む能力と、人形に人間の記憶を移し与える能力を持っている事。 二人が暮らす街には凄惨な過去があった。人形殺人と呼ばれる連続殺人事件・・・・。被害にあった家はそこに住む全員が殺され、現場には凶器を持たされた人形だけが残されるという未解決事件。 二人が過去に向き合った時、再びこの街で誰かの血が流れる。 【作者より】 ノベルアップ+でも投稿していた作品です。アルファポリスでは一部加筆修正など施しアップします。最後まで楽しんで頂けたら幸いです。

雨屋敷の犯罪 ~終わらない百物語を~

菱沼あゆ
ミステリー
 晴れた日でも、その屋敷の周囲だけがじっとりと湿って見える、通称、雨屋敷。  そこは生きている人間と死んでいる人間の境界が曖昧な場所だった。  遺産を巡り、雨屋敷で起きた殺人事件は簡単に解決するかに見えたが。  雨屋敷の美貌の居候、早瀬彩乃の怪しい推理に、刑事たちは引っ掻き回される。 「屋上は密室です」 「納戸には納戸ババがいます」  此処で起きた事件は解決しない、と言われる雨屋敷で起こる連続殺人事件。  無表情な美女、彩乃の言動に振り回されながらも、事件を解決しようとする新米刑事の谷本だったが――。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

先生、それ、事件じゃありません

菱沼あゆ
ミステリー
女子高生の夏巳(なつみ)が道で出会ったイケメン探偵、蒲生桂(がもう かつら)。 探偵として実績を上げないとクビになるという桂は、なんでもかんでも事件にしようとするが……。 長閑な萩の町で、桂と夏巳が日常の謎(?)を解決する。 ご当地ミステリー。

ダブルネーム

しまおか
ミステリー
有名人となった藤子の弟が謎の死を遂げ、真相を探る内に事態が急変する! 四十五歳でうつ病により会社を退職した藤子は、五十歳で純文学の新人賞を獲得し白井真琴の筆名で芥山賞まで受賞し、人生が一気に変わる。容姿や珍しい経歴もあり、世間から注目を浴びテレビ出演した際、渡部亮と名乗る男の死についてコメント。それが後に別名義を使っていた弟の雄太と知らされ、騒動に巻き込まれる。さらに本人名義の土地建物を含めた多額の遺産は全て藤子にとの遺書も発見され、いくつもの謎を残して死んだ彼の過去を探り始めた。相続を巡り兄夫婦との確執が産まれる中、かつて雄太の同僚だったと名乗る同性愛者の女性が現れ、警察は事故と処理したが殺されたのではと言い出す。さらに刑事を紹介され裏で捜査すると告げられる。そうして真相を解明しようと動き出した藤子を待っていたのは、予想をはるかに超える事態だった。登場人物のそれぞれにおける人生や、藤子自身の過去を振り返りながら謎を解き明かす、どんでん返しありのミステリー&サスペンス&ヒューマンドラマ。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

先生、それ事件じゃありません3

菱沼あゆ
ミステリー
 ついに津和野に向かうことになった夏巳と桂。  だが、数々の事件と怪しい招待状が二人の行く手を阻む。 「なんで萩で事件が起こるんだっ。  俺はどうしても津和野にたどり着きたいんだっ。  事件を探しにっ」 「いや……もう萩で起こってるんならいいんじゃないですかね?」  何故、津和野にこだわるんだ。  萩殺人事件じゃ、語呂が悪いからか……?  なんとか事件を振り切り、二人は津和野に向けて出発するが――。

処理中です...