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あやうく、わらしべ長者になるところでした ~パキラ~
運命なんて、そうそう落ちてないものよ
しおりを挟む「准ーっ。
久しぶりーっ。
相変わらず、イケメンねえー」
と淡いピンクの大きなキャリーバッグを引いて、陽子が現れる。
二人は抱き合って再会を喜びあっていた。
だが、不思議と嫉妬心はわかない。
陽子は今風の美人なのだが、天然なうえにサバサバしているので。
なんというか、男同士の友情をはぐくみ合っているようにしか見えないからだろう。
……でも、すっきり男らしい性格なのに、よく悪い男に騙されるんだよなあ、陽ちゃん。
っていうか、その荷物が気になるんだが、と思いながら、ラメの入った派手なキャリーバッグを見ていると、その視線に気づいた陽子が、
「ごめん、葉名。
二、三日泊めてくれない?」
と言い出した。
「いや、泊めてって、此処、陽ちゃんのうちだし。
って、また彼氏と喧嘩したの?」
運命の相手じゃなかったのか、と思っていると、
「そうなのよー。
でも此処、もうあんたに貸した家だからね。
来るのもどうかなーと思ったんだけど、他の部屋の鍵なくしちゃってー」
と陽子は笑う。
……またなくしたのか。
そのうち、誰か知らない人が住んでるぞ、と思いながら、
「いや、いいよ。
私が出てく――」
と言いかけたところで、准が陽子に、
「じゃあ、お前、此処帰って住め。
こいつは俺が連れて帰るから」
と葉名を指差し、言い出した。
いやいやいやいやーっ、と葉名が大きく手を振っていると、
「そうだ。
なんで、葉名と准が付き合ってるの?」
と陽子は訊いてくる。
うむ、と准は重々しく頷き、
「実はこいつは、俺の幼なじみで、運命の相手だったのだ」
と言い出した。
いやいやいやいやーっ。
「そうなの、素敵ね」
と陽子は言う。
「でも、運命なんて、そうそう落ちてないものよ。
……玄ちゃんっ、運命の相手だと思ってたのにっ」
と陽子は唐突に嘆き悲しみ始めた。
スマホを手に、
「今更、謝ってきても、絶対許さないし。
電話にも出ない――っ」
と陽子が言いかけとき、そのスマホが鳴った。
「もしもし、玄ちゃん?」
今、出ないっつったー!
と思いながら、陽子を見ていると、陽子は笑い、
「わかったー。
じゃあ、肉まんとピザまん買って帰るねー」
と言って、キャリーバッグをガラガラ引きずりながら、玄関へと向かい始めた。
「やだもうー、迎えになんて来なくていいってー。
心配性なんだからー」
と甘えるように言ったあとで、物のついでのように、
「准、葉名。
式には呼んでね。
私も呼んであげるから」
と言い、また彼氏と話し出す。
「えっ?
やだ、そう、結婚式よー。
私、この間、いいとこ見つけたのー」
と言いながら、振り返ることなく、陽子は消えていった。
げ、玄ちゃんさん……。
あと五分早く電話してくれてたら、陽ちゃん、此処に到達せずにすんだのに、と思いながら、葉名が閉まった扉を見ていると、横に立って、准が言う。
「以前、呑み会のあと、此処まで陽子を送ってきて、珈琲をご馳走になったことがあるんだ」
ああ、何人かでだぞ、と付け加えたあとで、
「やっぱり、お前の従姉妹は樟木陽子か」
と准は言ってきた。
じゃあ―― と開きかけた准の言葉を塞ぐように葉名は言う。
「従姉妹じゃないです」
「お前、従姉妹って言っ――」
「従姉妹じゃないですっ。
すごく遠い親戚なんですっ」
と葉名は訴える。
「だから、陽ちゃんちはお金持ちだけど、うちは絵に描いたような中流家庭なんですっ」
いや、本当だ。
貧乏でもなく、金持ちでもなく。
極普通の、狭いながらも楽しい我が家だった。
一家離散するあの日までは――。
黙って葉名を見下ろしていた准は、
「いや、……別にどっちでもいいんだが」
と本当にどうでも良さそうに言ったあとで、部屋の中を見回し、
「そんなことより、俺が気になっているのは、あのテレビの前の散乱したゲーム類だが」
と言ってくるので、
「いやそれ、貴方も遊びましたよね……?」
と葉名は言った。
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