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あかずの間ができました

白いそいつの正体は……

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 さすがは悪王子だ。

 ハートが強いな。

 私ひとりなら、あと二ヶ月はこの部屋のドアは開けなかったな……と思いながら、中には入らず、葉名が突っ立っていると、准が一面真っ白になった部屋を見ながら、

「これは雪か……?」
と訊いてきた。

 いっそ雪だったら美しい光景だったろうな。

 そのうち溶けるし、と思いながら、葉名は言った。

「……パウダービーズです」

 時が経っても溶けないパウダービーズを前に葉名は語り出す。

「社長がいらっしゃる前に少し部屋を片付けとこうと思ったんですよ。

 で、ずっと始末するのを先延ばしにしていた、この、人を駄目にする古いパウダービーズクッションをどうにかしようかと――。

 これ、外のカバーは可燃ゴミで、内側のパウダービーズはプラスチックなんですよ。

 分解しないといけないので、とりあえず、カバーにハサミを入れてみたんですが。

 その瞬間、パウダービーズが、ぶわーって」

「いや、そうなることは想定できただろ」

「だから、この部屋でやったんじゃないですか。
 新聞紙、敷いて」
と葉名は床を指差したが、新聞はあふれ出したパウダービーズに埋もれて、何処にあるのかわからない。

「外でやろうかなとも思ったんですが」
と部屋中のいろんなものにくっついてしまったパウダービーズを見ながら、ぼんやり葉名は呟く。

「以前、従兄のおにいちゃんが羽毛ぶとんのカバーを外そうとして。

 そういえば、ちょっと穴が空いてたから、部屋でやったら羽毛がこぼれるかなーくらいに思って、外のデッキでカバーを外したんだそうです。

 そしたら、外した瞬間、大量の羽毛があふれ出し、ちょうど突風が吹いて、羽毛が、ぶあーっと」

「お前の親戚は莫迦ばっかりか」

「え?」

「いや、いいから続けろ」
とパウダービーズから身を守ろうとでもしているかのように腕を組んで准は言う。

「あとで隣の人に謝りに行ったら、
『何処かで鳥が死んだのかと思った……』
と言われたとか」

「……羽毛ならまだしも、パウダービーズが飛んできたら、死ぬほど迷惑な話だな」

 パウダービーズは静電気でいろんなものに引っ付いて離れなくなるからだ。

 今も准と自分の靴下は真っ白になっていて、しかも、動くたび、新たなパウダービーズが舞い上がり、足許から身体が侵食されていく。

 指先にも吸い付いてきたパウダービーズの白い球を見ながら、
「まるでエイリアンですよ……」
と葉名は呟いた。

「で、パウダービーズがあふれ出したのはわかったが。
 何故、それを俺に隠して放置している」

「放置したわけではないです」

 単にどうにもならなかったのだ。

「ともかく、できるだけ静電気を起こさないようにして、ゴミ袋に入れようと思いました。

 でも、指定のゴミ袋自体がプラスチック製なので」
と言うと、外側も真っ白になったゴミ袋を見ながら、准は、ああ、と言う。

 ゴミ袋の中ではなく、外にパウダービーズが張り付いてしまうのだ。

「……エイリアンですよ」
と元は青だったはずなのに、真っ白に侵食されてしまったゴミ袋を見ながら、葉名は繰り返す。

「で、インテリアとして買って、ほとんど使ってなかった小さな竹箒と広告を駆使して、なんとかゴミ袋に押し込んだんだですが。

 一袋では足りそうにもなかったので、一度、袋を締めるかと思って、口を締めようとしたんです。

 でも、締めることによって、圧がかかったのか、わずかな風が巻き起こったのか。

 ぎゅっと縛った瞬間、隙間から、ぶわーっと噴水のように真っ白なパウダービーズがあふれ出してきて。

 もうなすすべもなく、呆然と眺めていたら、ピンポン、と」

 ああ、と真っ白な部屋を見ながら、准も途方に暮れた感じに相槌を打った。

「しかし、このまま眺めていても、どうにもならないだろう……」

「そうですね。
 でも、もうなにもする気が起きなくて。

 違う意味で人を駄目にするクッションでしたね」
とぼんやりと呟く。

 広大な砂漠を水もラクダもなく渡れ、と言われたような心境で、二人で、しばらくその白い部屋を眺めていた。




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