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暁の静 漆黒の乃ノ子 ~大正時代編~

言霊町駅のアイドル

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 夢の中、乃ノ子は暗い自分の部屋の真ん中に立っていた。

 明るいのは耳に当てているスマホの光だけ。

 雑音とともに、そのスマホから甲高い女性の声が聞こえてくる。

「もしもし、ワタシ、リカちゃん。
 ……アナタの後ろにいるわ」

 振り向くと、可愛らしいリカちゃんがちょこんと床の上に立っていた。

 だが、乃ノ子はそんなリカちゃんの後ろを無言で指差す。

 慌てて振り返り、ひっ、と息を呑むリカちゃん。

 リカちゃんの後ろには、ニタリ……と笑うさっちゃんがいた。

 さっちゃん、最強……と乃ノ子は目を覚ます。



「なにくだらない夢見てるの?」

 朝、駅にいたジュンペイにその夢の話をすると、呆れたように言われた。

「そんな夢見るくらいなら、僕の夢でも見てよね」

 その言葉を聞いた近くにいた高校生やOLのお姉さんたちが、
「やだーっ。
 ジュン様っ、私にも言ってーっ」
とジュンペイに向かって言う。

 此処ではジュンペイはアイドルのジュンペイによく似た大学生のジュン、という設定になっている。

「ありがとう、みんな。
 みんなも僕の夢見てねっ」
とジュンペイはみんなに向かって、投げキッスをして見せる。

 きゃーっ、とみんな喜んだ。

 ……サマになりすぎてて怖い。

 ほんとうにジュンペイだとバレていないのだろうか。

 いや、バレているのかもしれないが、真実を口にしたら、ジュンペイがいなくなってしまうかもしれないと思って。

 みんなそこは一致団結して黙っているのかもしれない。

「さあ、今日も一日働く意欲が湧いたわ~っ」
「行ってきます~っ」
と口々に言いながら、みんな月曜朝の気怠けだるさを吹き飛ばすように改札を通っていく。

「……すごいですね、ジュンペイさん。
 一駅にひとりジュンペイさんですね」

「いや、そんなにあちこち出没してたら、死ぬから……」
とそれでなくとも多忙なジュンペイは言ってくる。

「ところで、乃ノ子ちゃん、なんで此処にいるの?」
と問われ、

「いやー、なんとなく気になったんですよね。
 なんかこう、もやもやすると言うか」
と言いながら、乃ノ子は額に人差し指を当て唸ってみた。

「気になるって、僕のことが?」
とジュンペイは笑ってみせる。

「はは、そうかもしれませんね」
と適当に乃ノ子は流した。

 だが、そう間違ってもないかな、と乃ノ子は思っていた。

 乃ノ子が気になっていたのは駅の伝言板だ。

 大正時代辺りの乃ノ子がイチに呼び出されていた伝言板。

 あのとき見た過去の映像では、書生姿のジュンペイが駅で自分に向かい話しかけてきた。

『また兄貴になにか頼まれた?』

 そう言って。

 しかし、同じ兄弟で同じように美形でも、キャラ違うな~、イチさんとジュンペイさん、と思いながら、乃ノ子は電車に向かうジュンペイに手を振り、歩き出した。

 学校に向かいかけ、ふと、駅前の通りを振り返る。

 いつか見た古い街はそこにはなかった。


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