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学校VR ~七不思議~

怪しいVRゴーグルを着けてみました

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「イチさん」
と声をかけ、乃ノ子は教室に入る。

 みんなついて来た。

 イチは無言で、机の上を指差す。

 夢で見た机と同じ場所にある机だった。

 白いVRゴーグルが置いてある。

「……俺の机だ」
 神川が青ざめる。

「やっぱり神川が呪われてたんだ……」
と紀代は呟き、神川に怒られていた。

「待てこら。
 机の上に謎のVRがあるだけだろ」

 いや、夢の通りに、謎のVRゴーグルがあるだけで、充分怖いんだが……と思う乃ノ子にイチが言ってくる。

「それ、かけてみろ、乃ノ子」

「いや、なんでですか」
 乃ノ子は突然のご指名に後ずさった。

 月明かりを背にこちらを見下ろすイチは、
「この中でお前が一番、なにかあっても大丈夫そうだから」
と非情なことを言ってくる。

 いやまあ、それはそうなんですけどね~と思いながらも、乃ノ子はちょっと未練がましく言ってみた。

「なんでイチさん、かけてみないんですか」

 するとイチは、いつものように、阿呆か、という顔でこちらをさげすんだあとで言う。

「お前になにかあったら、俺が助けてやれるが。
 俺になにかあったとき、お前に俺が助けられるのか」

 いやまあ、確かに、と妙に納得してしまい、乃ノ子はVRゴーグルに手を伸ばした。

 ちょっとイチの言葉に引っ掛かりを感じながらも。

 俺になにかあったとき、お前に助けられるのか――。

 なんだろう。
 その言葉に、なにかを言い返したい気がするんだが。

 その言葉がなんなのか思い出せない。

 そう思ったとき、イチの白く細い指とは違う、日焼けした無骨な手が乃ノ子の手を止めた。

「物騒だろ。
 俺がやるよ」

 神川だった。

「やだっ、神川っ、格好いいーっ」
と紀代は叫び、

「……俺はかすんで見えてるんじゃなかったのか」
と睨まれていた。

「大丈夫?
 えっと……神川」
と乃ノ子が言うと、神川は呆れたように、

「隣のクラスの奴の名前くらい覚えとけ。
 体育祭で一緒に組んだだろうが」
と言いながら、そのゴーグルを被ってみている。

「なにが見える?」

 そう訊いたイチの方に顔を向けた神川は一瞬、沈黙したが、すぐに、

「……夜の教室が見えますね。
 リアルそのまんまです」
と言った。

 だが、顔をあちこちに向けてみたあとで、いや……と呟くように言う。

「此処にいる人間たちの姿が見えません。
 やっぱり、これ、VRの映像なんですかね?

 でもまだ、中のスマホの操作とかなにもしてないんですけど」

 なるほど、と頷いたイチは神川に外すように言う。

 イチは受け取ったVRゴーグルを手に、少し考えたあとで、紀代の方を見て、
「……紀代?」
とちょっと疑問系で呼んだ。

 ははははは、はいっ、とイチに名を呼ばれ、動転したように紀代が返事をする。

「お前、被ってみろ」

 はっ、はいっ、ありがとうございますっ、となにがありがとうなんだかわからないが、紀代は言い、VRゴーグルを被ってみていた。

「わ。
 ほんとだ。

 みんなの姿が見えないだけで、この教室、そのまん……」

 ま、と言う前に、紀代は、わああああああっ、と叫んだ。

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