70 / 94
学校VR ~七不思議~
怪しいVRゴーグルを着けてみました
しおりを挟む「イチさん」
と声をかけ、乃ノ子は教室に入る。
みんなついて来た。
イチは無言で、机の上を指差す。
夢で見た机と同じ場所にある机だった。
白いVRゴーグルが置いてある。
「……俺の机だ」
神川が青ざめる。
「やっぱり神川が呪われてたんだ……」
と紀代は呟き、神川に怒られていた。
「待てこら。
机の上に謎のVRがあるだけだろ」
いや、夢の通りに、謎のVRゴーグルがあるだけで、充分怖いんだが……と思う乃ノ子にイチが言ってくる。
「それ、かけてみろ、乃ノ子」
「いや、なんでですか」
乃ノ子は突然のご指名に後ずさった。
月明かりを背にこちらを見下ろすイチは、
「この中でお前が一番、なにかあっても大丈夫そうだから」
と非情なことを言ってくる。
いやまあ、それはそうなんですけどね~と思いながらも、乃ノ子はちょっと未練がましく言ってみた。
「なんでイチさん、かけてみないんですか」
するとイチは、いつものように、阿呆か、という顔でこちらを蔑んだあとで言う。
「お前になにかあったら、俺が助けてやれるが。
俺になにかあったとき、お前に俺が助けられるのか」
いやまあ、確かに、と妙に納得してしまい、乃ノ子はVRゴーグルに手を伸ばした。
ちょっとイチの言葉に引っ掛かりを感じながらも。
俺になにかあったとき、お前に助けられるのか――。
なんだろう。
その言葉に、なにかを言い返したい気がするんだが。
その言葉がなんなのか思い出せない。
そう思ったとき、イチの白く細い指とは違う、日焼けした無骨な手が乃ノ子の手を止めた。
「物騒だろ。
俺がやるよ」
神川だった。
「やだっ、神川っ、格好いいーっ」
と紀代は叫び、
「……俺は霞んで見えてるんじゃなかったのか」
と睨まれていた。
「大丈夫?
えっと……神川」
と乃ノ子が言うと、神川は呆れたように、
「隣のクラスの奴の名前くらい覚えとけ。
体育祭で一緒に組んだだろうが」
と言いながら、そのゴーグルを被ってみている。
「なにが見える?」
そう訊いたイチの方に顔を向けた神川は一瞬、沈黙したが、すぐに、
「……夜の教室が見えますね。
リアルそのまんまです」
と言った。
だが、顔をあちこちに向けてみたあとで、いや……と呟くように言う。
「此処にいる人間たちの姿が見えません。
やっぱり、これ、VRの映像なんですかね?
でもまだ、中のスマホの操作とかなにもしてないんですけど」
なるほど、と頷いたイチは神川に外すように言う。
イチは受け取ったVRゴーグルを手に、少し考えたあとで、紀代の方を見て、
「……紀代?」
とちょっと疑問系で呼んだ。
ははははは、はいっ、とイチに名を呼ばれ、動転したように紀代が返事をする。
「お前、被ってみろ」
はっ、はいっ、ありがとうございますっ、となにがありがとうなんだかわからないが、紀代は言い、VRゴーグルを被ってみていた。
「わ。
ほんとだ。
みんなの姿が見えないだけで、この教室、そのまん……」
ま、と言う前に、紀代は、わああああああっ、と叫んだ。
0
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~
菱沼あゆ
キャラ文芸
クリスマスイブの夜。
幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。
「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。
だから、お前、俺の弟と結婚しろ」
え?
すみません。
もう一度言ってください。
圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。
いや、全然待ってなかったんですけど……。
しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。
ま、待ってくださいっ。
私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。
都市伝説探偵イチ2 ~はじまりのイサキ~
菱沼あゆ
キャラ文芸
『呪いの雛人形』を調査しに行くというイチ。
乃ノ子はイチとともに、言霊町の海沿いの地区へと出かけるが――。
「雛人形って、今、夏なんですけどね~」
『呪いの(?)雛人形』のお話完結しました。
また近いうちにつづき書きますね。
侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~
菱沼あゆ
キャラ文芸
仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。
ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。
意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。
「あ、ありがとうございます」
と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。
あれは夢……?
それとも、現実?
毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。
大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。
だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。
蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。
実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。
四葩の華獄 形代の蝶はあいに惑う
響 蒼華
キャラ文芸
――そのシアワセの刻限、一年也。
由緒正しき名家・紫園家。
紫園家は、栄えると同時に、呪われた血筋だと囁かれていた。
そんな紫園家に、ある日、かさねという名の少女が足を踏み入れる。
『蝶憑き』と不気味がる村人からは忌み嫌われ、父親は酒代と引き換えにかさねを当主の妾として売った。
覚悟を決めたかさねを待っていたのは、夢のような幸せな暮らし。
妾でありながら、屋敷の中で何よりも大事にされ優先される『胡蝶様』と呼ばれ暮らす事になるかさね。
溺れる程の幸せ。
しかし、かさねはそれが与えられた一年間の「猶予」であることを知っていた。
かさねにだけは不思議な慈しみを見せる冷徹な当主・鷹臣と、かさねを『形代』と呼び愛しむ正妻・燁子。
そして、『花嫁』を待っているという不思議な人ならざる青年・斎。
愛し愛され、望み望まれ。四葩に囲まれた屋敷にて、繰り広げられる或る愛憎劇――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~
菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。
だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。
車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。
あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。
白鬼
藤田 秋
キャラ文芸
ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。
普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?
田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!
草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。
少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。
二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。
コメディとシリアスの温度差にご注意を。
他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる