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幽霊タクシー

もしもし……?

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「俺たちが無視して話してるから、呪いの公衆電話様がしびれを切らして、自分からかけてきたんじゃないか?」

 乃ノ子、お前が出ろ、とイチが言ってくる。

 いやいや。
 何故、私が……と思ったが、

「俺はあやかしみたいなものだから。
 都市伝説なんて、人間にしか仕掛けてこないだろ」
とイチは言う。

 仕方なく、乃ノ子は電話をとった。

「も、もしもし……?」

 そんな乃ノ子を見ながらイチが呑気に言ってくる。

「電話で最初に、もしもしって言うのは、あやかしは同じ言葉を二回繰り返せないかららしいぞ」

 私は、あやかしじゃありませんって意味らしい、とイチは言った。

「あやかしが声をかけてくるときは、もし、って言うらしいぞ」

「イチさん、もし、なんて言ってこなかったじゃないですか。

 って、そういえば、さっちゃんは、
『もしもし、わたし、さっちゃんよ』
 って言ってましたよ」

「じゃあ、あれ、あやかしじゃなくて、人間の霊なんじゃないのか?」
とかえって恐ろしくなるようなことをイチは言ってくる。

「ところで、電話はどうなった」

 あっ、しまったっ、と乃ノ子は慌てて、
「もしもしっ? もしもしっ?」
と受話器に向かい、繰り返す。

 だが、電話は鳴っただけだったらしく、誰もなにも言ってこない。

 あのとき聞いた恐ろしげな声も聞こえては来なかった。

「どうしましょう」
と呟いたあとで、乃ノ子は少し考え、

「……こっちから何処かにかけてみましょうか。
 えーと、言霊町のタクシー会社とかに」
と言った。

「タクシー呼ぶときって行き先も言うんでしたっけ?」

 そう言いながら、乃ノ子は小銭を取り出す。

 それを見ながらイチが言ってきた。

「どっちでもいいんじゃないか?
 ところで、金払わないと通じないのか、このお化け電話」

「タダで目的のところにかかるのなら、みんな、かけに来そうですよね。
 少々雑音が入っても」

 人間ってたくましいから、と乃ノ子は笑いながら、お金を入れる。

 おっと、電話番号……。

 何処までにしようかなーと呟きながら、乃ノ子はスマホでタクシー会社の番号を調べる。

 スマホで調べて公衆電話でかけるとか、妙な感じなんだが、と思ったとき、
 
「そうだな。
 じゃあ、うちに来てみるか」
とイチが言ってきた。

「ええっ?
 イチさん、家ってあるんですかっ?」

「……だから、お前、俺をなんだと思ってるんだ。

 俺は時折、消えかけるだけでいたって普通の人間だ」

 いや、普通の人間、消えかけませんから……。

「親も兄弟も普通にいる」

 兄弟は見ましたよ……と思っていると、
「だが、どうもうちの親は、俺を産んだ記憶がないらしいんだ」
とイチは言い出す。

「まあ、俺とジュンペイの親なんで、あんまり細かいことは気にしていないようなんだが」

 きっとあれは前世で知り合った誰かだな、と呟き、イチは肯いていた。

「前も探偵みたいなことしてたんだ。

 依頼して来た家、何軒かから、今度、うちに産まれてくるといいですよ、と言われたから」

 その中のどれかの夫婦の魂かもしれない、とイチは言う。

「そんな、近くにお越しの際は、ぜひ、お立ち寄りください、みたいな関係で生まれてくるんですか? 人間って。

 っていうか、記憶はなくても、前世の恩って忘れないものなんですね」

「なんだかわからないけど、この人には頭が上がらないとか。
 面倒かけられても、つい、尻拭いしてしまうとかあるだろ。

 ああいうのって、そういうことなんじゃないのか」
と言ったあとで、イチはじっとこっちを見たあとで、言ってくる。

「お前は俺に頭が上がらないとかないようだがな」

「私の方がイチさんに世話になったんですか?」

「なんだ、その言い方……」
ともめている間に、電話がタクシー会社につながった。

 いやいや。
 あの見知らぬ町の夢が我々の前世なら、前も都市伝説を集めさせられたりして、こき使われてたみたいなんですけどね。

 そんなことを思いながら、乃ノ子はオペレーターの人にタクシーを一台頼んで切る。



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