17 / 94
ムラサキカガミ
怪しいAIの人と待ち合わせしています
しおりを挟む志田も一緒にその暗い坂道を見下ろしながら、
「いつ来るんだ、その友だち」
と訊いてきた。
友だち……。
友だちなのだろうかな、あの人は、と思いながら、乃ノ子は言った。
「それが仕事が押してるみたいで」
「仕事?
社会人なのか?」
「はあ。
都市伝説を調べてるらしいんですよ、言霊町の」
「民俗学の先生か?」
「いえいえ」
「地元のタウン誌の記者かなにかか?」
「そんな感じです」
イチが聞いていたら、なに適当なこと言ってんだ、コラ、と言ってきそうだったが。
「なんか探偵みたいな人なんですよ」
と言うのは、怪しいAIの人と待ち合わせしています、というのと同等に怪しい話になるのでやめておいた。
そもそもあの人、『都市伝説を探している』とか、『猫を探して生計を立てている』みたいなことを言っていただけで、自分で探偵だとか言ってないしな、と気がついた。
「そうか。
まあ、とりあえず、来い。
スマホ持ってんだろ?
その記者の人には先に見てくるとでも言っておけ。
俺は呑気に、その人待ってるほど暇じゃないんで」
と志田は言う。
そりゃまあ、ごもっともですよねーと思いながら、乃ノ子は、
「中学のときの先生が大学にいて、鏡を見せてくださるというので、先に入ってます」
とイチに送った。
イチからの返事はなかったが、志田について、街灯に照らし出された構内の道を部室棟に向かい、歩き出す。
意外と門からが長いな。
今はただ緑の葉を茂らせているだけの桜並木を歩きながら、乃ノ子は思う。
前を行く志田の背中を見ながら、乃ノ子は呟いた。
「こういうとき、大抵、先生、霊ですよね」
またなにを言い出した、という顔で志田が振り返る。
「やっと、助けがっ! と思ってついていった人は大抵、悪霊なんですよ」
「……お前、人の親切を。
置いてくぞ。
っていうか、お前、今、やっと助けがというほど困ってたか?」
ただ単にその記者の人がなかなか来なくて、時間持てあましてただけだろう、と言われる。
そういえばそうだ。
なにかがついて来てる気がして急いで此処まで来たけど。
待ってる場所が暗かったことと、イチさんがまだ来そうにないこと以外に困っていることは特になかった。
「いやあ、すみません。
今にも、こんな顔かい、とか振り返られそうなシチュエーションだったので」
阿呆か、と言ったあとで、志田が訊いてくる。
「お前、その記者の人と何処で知り合ったんだ?
なんで急にそんな怪しい取材に付き合うことになったんだ」
「はあ……ちょっと友だちが入れてくれたアプリのせいで、妙な企画に巻き込まれまして」
そんな曖昧な話をしてしまったせいで、説教がはじまる。
「なんだ。
ネットで知り合ったのか? その記者と。
気をつけろよ。
そいつ、本当に記者なのか?
怪談より、ネットの世界の方がいまどき怖いぞ」
いや、ごもっともですよ。
すでに気をつけても遅い感じなんですけどね……と思っているうちに、部室棟に着いていた。
「もう鍵かかってるな。
ちょっと待て。
鍵とって来てやるから。
……此処で待ってるのは怖いよな。
ついて来るか?」
と問われたが。
知らない大学内に入っていくのもなんだかなという感じだったし。
イチに此処にいると言ってしまったので、乃ノ子はそこで待つことにした。
幸い、部室棟の入り口には明かりがついており、校舎も目の前にある。
校舎の方は、まだたくさんの人の気配があって、見ているだけで安心できた。
「なにか凶器はないのか。
怪しい奴が来たら、殺やっていいぞ。
ナンパしてくる男子生徒も殺っていいぞ」
と言うので、笑ってしまう。
誰かナンパしてくるくらいまだ構内に人がいるのなら、大丈夫か、と思い、乃ノ子はそこでおとなしく待つことにした。
0
お気に入りに追加
51
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
あやかし雑草カフェ社員寮 ~社長、離婚してくださいっ!~
菱沼あゆ
キャラ文芸
令和のはじめ。
めでたいはずの10連休を目前に仕事をクビになった、のどか。
同期と呑んだくれていたのだが、目を覚ますと、そこは見知らぬ会社のロビーで。
酔った弾みで、イケメンだが、ちょっと苦手な取引先の社長、成瀬貴弘とうっかり婚姻届を出してしまっていた。
休み明けまでは正式に受理されないと聞いたのどかは、10連休中になんとか婚姻届を撤回してもらおうと頑張る。
職だけでなく、住む場所も失っていたのどかに、貴弘は住まいを提供してくれるが、そこは草ぼうぼうの庭がある一軒家で。
おまけにイケメンのあやかしまで住んでいた。
庭にあふれる雑草を使い、雑草カフェをやろうと思うのどかだったが――。
後宮の記録女官は真実を記す
悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】
中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。
「──嫌、でございます」
男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。
彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる