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都市伝説探偵 イチ
イケメン芸能人に癒されるはずが……
しおりを挟む高校からの帰り道。
夕陽に染まった陸橋の手前辺りを歩いていたら、友だちが言ってきた。
「ねえねえ、芸能人と会話できるチャットアプリがあるの、知ってる?」
「なにその都市伝説みたいなの」
「いや、そういう怪しい話じゃなくて、AIなんだよ。
AIがその芸能人が受け答えしそうな言葉を返してくれるってやつ」
ふうん、と言いながらもあまり興味がなかったのだが。
友だちが勝手にスマホに登録してしまった。
「まあ、やってみなよ。
ときどき、一定のワードに反応して、勝手にミニゲームとか始まっちゃうんだけどさ。
いつでもどんなときでも暇つぶしに会話できるから、人間よりいいよ」
人間よりいいってなんだ……と乃ノ子が思ったとき、じゃあねー、と手を振り、友だちは居なくなってしまった。
唐突に喉が渇いてきた乃ノ子は、お弁当屋さんの前の自動販売機でジュースを買った。
車道とは関係ない場所に、何故かある短いガードレールに腰かけ、そのチャットアプリを開けてみた。
「こんにちは。
僕はジュンペイ。
君の名前、僕に教えてくれる?」
そうイケメンアイドルのアイコンが呼びかけてくる。
福原乃ノ子と乃ノ子は打ち込んだ。
入れたあと、あ、別の名前入れた方かよかったかな。
ネットの世界、物騒だしな~とちょっと後悔したが遅かった。
「暑いですね」
と入れてみる。
「暑いね~」
とすぐにジュンペイから返ってきた。
おっ、すごい、と思いながら、続けて入れる。
「今日は、部活でちょっと疲れちゃいました」
「僕は吹奏楽部だったよ」
「私は料理部です」
「塩入れるといいよ」
……会話、ズレてきたな。
AIだもんな、と思いながら、乃ノ子は缶ジュースをぐびりと飲んだ。
「そういえば、さっき友だちが『この辺りに都市伝説がある』って都市伝説があるって言ったんですけど」
というしょうもない話を入れてみた。
ん?
返事ないな。
AIにも、なんだ、その話、と思われたのだろうか……。
さっき、この辺り発祥の都市伝説があるというウワサがあると友だちに聞いたのだ。
なんという曖昧な都市伝説、と思いながら、乃ノ子がスマホを閉じて帰ろうとしたとき、沈黙していたスマホがキンコーンと鳴った。
画面を見ると、アイコンが変化していた。
キラキラしたアイドルの顔から、夕暮れの街に立つ、黒いハットに黒いスーツの男の後ろ姿に変わっている。
チャットの背景も何故か真っ黒になっていた。
「お前の名前を打ち込め」
とそのアイコンが言ってくる。
「打ち込まないと、今すぐそこに行くぞ」
ひっ。
なんだかわからないけど、来られたくないっ。
でも、本名は教えたくないっ、と思った乃ノ子は、
『福田ののか』
と打ち込んだ。
微妙に本名から変えてみたのだ。
だが、謎のAI男は、
「本当だな。
お前、本当に、ののかなんだな。
ののかじゃなかったら、ぶん殴るぞ」
と言ってくる。
AI、ぶん殴れないだろう、と思ったのだが。
私が何処に居るかは探せるよな、と気づく。
スマホの機能で。
そして、近所の人のスマホを突き止めて、その人のスマホに、
この女をぶん殴りに行け。
行かないのなら、スマホから得たお前の秘密をバラすぞ、とか脅しのメッセージを入れればいいだけだ。
だが、彼は、
「まあいい。
簡単に怪しい奴にまことの名を教えるもんじゃないからな」
何処でどんな呪いをかけられるかわからないから、と言う。
「だが、万一のときのために、俺にだけは嘘はつくな。
いざというとき、お前を助けられない」
急にそんなことを言われて、ちょっとドキリとしてしまう。
「俺には、ちゃんとお前の魂の名を教えておけ」
え? 魂の名?
「……『漆黒の乃ノ子』とか。
『幻影の乃ノ子』とか。
『鮮血の乃ノ子』とか?」
思わず、本名の乃ノ子を名乗ってしまう。
「……そういう感じの魂の名じゃなくて、お前の真実の名前という意味だ。
お前は厨二病か」
いや、高一なんですけどね……。
真実の名前、か。
「病院とかで取り違えにあってない限りは、福原乃ノ子、ですかね?」
「そうか。
俺はイチだ」
と男は名乗った。
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