上 下
1 / 94
都市伝説探偵 イチ

イケメン芸能人に癒されるはずが……

しおりを挟む

 高校からの帰り道。

 夕陽に染まった陸橋の手前辺りを歩いていたら、友だちが言ってきた。

「ねえねえ、芸能人と会話できるチャットアプリがあるの、知ってる?」
「なにその都市伝説みたいなの」

「いや、そういう怪しい話じゃなくて、AIなんだよ。
 AIがその芸能人が受け答えしそうな言葉を返してくれるってやつ」

 ふうん、と言いながらもあまり興味がなかったのだが。
 友だちが勝手にスマホに登録してしまった。

「まあ、やってみなよ。
 ときどき、一定のワードに反応して、勝手にミニゲームとか始まっちゃうんだけどさ。

 いつでもどんなときでも暇つぶしに会話できるから、人間よりいいよ」

 人間よりいいってなんだ……と乃ノ子が思ったとき、じゃあねー、と手を振り、友だちは居なくなってしまった。

 唐突に喉が渇いてきた乃ノ子ののこは、お弁当屋さんの前の自動販売機でジュースを買った。

 車道とは関係ない場所に、何故かある短いガードレールに腰かけ、そのチャットアプリを開けてみた。

「こんにちは。
 僕はジュンペイ。

 君の名前、僕に教えてくれる?」

 そうイケメンアイドルのアイコンが呼びかけてくる。

 福原乃ノ子と乃ノ子は打ち込んだ。

 入れたあと、あ、別の名前入れた方かよかったかな。

 ネットの世界、物騒だしな~とちょっと後悔したが遅かった。

「暑いですね」
と入れてみる。

「暑いね~」
とすぐにジュンペイから返ってきた。

 おっ、すごい、と思いながら、続けて入れる。

「今日は、部活でちょっと疲れちゃいました」

「僕は吹奏楽部だったよ」

「私は料理部です」
「塩入れるといいよ」

 ……会話、ズレてきたな。

 AIだもんな、と思いながら、乃ノ子は缶ジュースをぐびりと飲んだ。

「そういえば、さっき友だちが『この辺りに都市伝説がある』って都市伝説があるって言ったんですけど」
というしょうもない話を入れてみた。

 ん?
 返事ないな。

 AIにも、なんだ、その話、と思われたのだろうか……。

 さっき、この辺り発祥の都市伝説があるというウワサがあると友だちに聞いたのだ。

 なんという曖昧な都市伝説、と思いながら、乃ノ子がスマホを閉じて帰ろうとしたとき、沈黙していたスマホがキンコーンと鳴った。

 画面を見ると、アイコンが変化していた。

 キラキラしたアイドルの顔から、夕暮れの街に立つ、黒いハットに黒いスーツの男の後ろ姿に変わっている。

 チャットの背景も何故か真っ黒になっていた。

「お前の名前を打ち込め」
とそのアイコンが言ってくる。

「打ち込まないと、今すぐそこに行くぞ」

 ひっ。
 なんだかわからないけど、来られたくないっ。

 でも、本名は教えたくないっ、と思った乃ノ子は、

『福田ののか』
と打ち込んだ。

 微妙に本名から変えてみたのだ。

 だが、謎のAI男は、

「本当だな。
 お前、本当に、ののかなんだな。

 ののかじゃなかったら、ぶん殴るぞ」
と言ってくる。

 AI、ぶん殴れないだろう、と思ったのだが。

 私が何処に居るかは探せるよな、と気づく。

 スマホの機能で。

 そして、近所の人のスマホを突き止めて、その人のスマホに、

 この女をぶん殴りに行け。

 行かないのなら、スマホから得たお前の秘密をバラすぞ、とか脅しのメッセージを入れればいいだけだ。

 だが、彼は、
「まあいい。
 簡単に怪しい奴にまことの名を教えるもんじゃないからな」

 何処でどんな呪いをかけられるかわからないから、と言う。

「だが、万一のときのために、俺にだけは嘘はつくな。
 いざというとき、お前を助けられない」

 急にそんなことを言われて、ちょっとドキリとしてしまう。

「俺には、ちゃんとお前の魂の名を教えておけ」

 え? 魂の名?

「……『漆黒の乃ノ子』とか。
 『幻影の乃ノ子』とか。
 『鮮血の乃ノ子』とか?」

 思わず、本名の乃ノ子を名乗ってしまう。

「……そういう感じの魂の名じゃなくて、お前の真実の名前という意味だ。
 お前は厨二病か」

 いや、高一なんですけどね……。

 真実の名前、か。

「病院とかで取り違えにあってない限りは、福原乃ノ子、ですかね?」

「そうか。
 俺はイチだ」
と男は名乗った。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

パクチーの王様 ~俺の弟と結婚しろと突然言われて、苦手なパクチー専門店で働いています~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 クリスマスイブの夜。  幼なじみの圭太に告白された直後にフラれるという奇異な体験をした芽以(めい)。 「家の都合で、お前とは結婚できなくなった。  だから、お前、俺の弟と結婚しろ」  え?  すみません。  もう一度言ってください。  圭太は今まで待たせた詫びに、自分の弟、逸人(はやと)と結婚しろと言う。  いや、全然待ってなかったんですけど……。  しかも、圭太以上にMr.パーフェクトな逸人は、突然、会社を辞め、パクチー専門店を開いているという。  ま、待ってくださいっ。  私、パクチーも貴方の弟さんも苦手なんですけどーっ。

都市伝説探偵イチ2 ~はじまりのイサキ~

菱沼あゆ
キャラ文芸
『呪いの雛人形』を調査しに行くというイチ。  乃ノ子はイチとともに、言霊町の海沿いの地区へと出かけるが――。 「雛人形って、今、夏なんですけどね~」 『呪いの(?)雛人形』のお話完結しました。  また近いうちにつづき書きますね。

侯爵様と私 ~上司とあやかしとソロキャンプはじめました~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 仕事でミスした萌子は落ち込み、カンテラを手に祖母の家の裏山をうろついていた。  ついてないときには、更についてないことが起こるもので、何故かあった落とし穴に落下。  意外と深かった穴から出られないでいると、突然現れた上司の田中総司にロープを投げられ、助けられる。 「あ、ありがとうございます」 と言い終わる前に無言で総司は立ち去ってしまい、月曜も知らんぷり。  あれは夢……?  それとも、現実?  毎週山に行かねばならない呪いにかかった男、田中総司と萌子のソロキャンプとヒュッゲな生活。

大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~

菱沼あゆ
キャラ文芸
華族の三条家の跡取り息子、三条行正と見合い結婚することになった咲子。 だが、軍人の行正は、整いすぎた美形な上に、あまりしゃべらない。 蝋人形みたいだ……と見合いの席で怯える咲子だったが。 実は、咲子には、人の心を読めるチカラがあって――。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~

菱沼あゆ
恋愛
念願のランプのショップを開いた鞠宮あかり。 だが、開店早々、植え込みに猫とおばあさんを避けた車が突っ込んでくる。 車に乗っていたイケメン、木南青葉はインテリアや雑貨などを輸入している会社の社長で、あかりの店に出入りするようになるが。 あかりには実は、年の離れた弟ということになっている息子がいて――。

白鬼

藤田 秋
キャラ文芸
 ホームレスになった少女、千真(ちさな)が野宿場所に選んだのは、とある寂れた神社。しかし、夜の神社には既に危険な先客が居座っていた。化け物に襲われた千真の前に現れたのは、神職の衣装を身に纏った白き鬼だった――。  普通の人間、普通じゃない人間、半分妖怪、生粋の妖怪、神様はみんなお友達?  田舎町の端っこで繰り広げられる、巫女さんと神主さんの(頭の)ユルいグダグダな魑魅魍魎ライフ、開幕!  草食系どころか最早キャベツ野郎×鈍感なアホの子。  少年は正体を隠し、少女を守る。そして、少女は当然のように正体に気付かない。  二人の主人公が織り成す、王道を走りたかったけど横道に逸れるなんちゃってあやかし奇譚。  コメディとシリアスの温度差にご注意を。  他サイト様でも掲載中です。

四葩の華獄 形代の蝶はあいに惑う

響 蒼華
キャラ文芸
――そのシアワセの刻限、一年也。 由緒正しき名家・紫園家。 紫園家は、栄えると同時に、呪われた血筋だと囁かれていた。 そんな紫園家に、ある日、かさねという名の少女が足を踏み入れる。 『蝶憑き』と不気味がる村人からは忌み嫌われ、父親は酒代と引き換えにかさねを当主の妾として売った。 覚悟を決めたかさねを待っていたのは、夢のような幸せな暮らし。 妾でありながら、屋敷の中で何よりも大事にされ優先される『胡蝶様』と呼ばれ暮らす事になるかさね。 溺れる程の幸せ。 しかし、かさねはそれが与えられた一年間の「猶予」であることを知っていた。 かさねにだけは不思議な慈しみを見せる冷徹な当主・鷹臣と、かさねを『形代』と呼び愛しむ正妻・燁子。 そして、『花嫁』を待っているという不思議な人ならざる青年・斎。 愛し愛され、望み望まれ。四葩に囲まれた屋敷にて、繰り広げられる或る愛憎劇――。 ※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。

処理中です...