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いえ、まだ緊張しています
変わったことがありすぎて……
しおりを挟むそのあと、実家の母から電話がかかってきて、お店が終わってからでもいいから、たまには晩ご飯でも食べに来なさいよ、と言われた。
夜、店を片付けてから実家に帰ると、夕食と酒が用意してあって、ご機嫌な父親が訊いてきた。
「芽以、なにか変わったことはないか?」
変わったこと?
圭太が包丁つかんで、逸人さんに、一緒に死んでくれ、と言ったこととか。
婚姻届と指輪を逸人さんに生ゴミにポイ、されそうなこととか?
と思いながら、
「ないよ」
と言うと、水澄が小声で言ってきた。
「お義父さんの、変わったことないかってのは、子どもは出来てないかってことなのよ」
と。
ええっ? と振り向くと、
「今日、お友だちがお孫さん連れて歩いてるの見たんですって。
可愛い女の子だったそうよ」
私もさっき訊かれたわ、と水澄は苦笑いしている。
横に居た聖が、
「この間、芽以に手を出させまいと、逸人を酔いつぶれさせようとしたくせになー」
と言っていた。
いや、子どもどころか、結婚前に離縁されそうなんですけど、と思いながらも、美味しく酒と食事をいただき、家を出た。
寒い夜道を歩きながら、またあの橋を通りかかり、クロッキー通らないかなーと思う。
まだ自分からは逸人になにも言っていなかったことに気がついたのだ。
それが逸人にとっていいことかはわからないが。
クロッキーを見かけたら、ちゃんと告白しよう、と思いながら帰ったのだが。
時間が遅すぎて、一台も出会わなかったうえに、手袋も忘れなかったので、逸人に手を握ってもらうこともなかった。
なんかいろいろ間抜けだ、と思いながら、寝る前、まだ芽の出ない種たちに、
「今日もいろいろあったよ。
おやすみ」
と話しかけたとき、誰かがドアをノックした。
誰かって……
まあ、逸人しか居ないが。
一緒に暮らしている夫のような人なのに。
ドアを叩いてきただけで、まだ、なんだか緊張してしまう。
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