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ひとつ、私の願いが叶いました

この人、決断早すぎる

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「俺はもともと器じゃなかったんだ」

 圭太はナプキンをテーブルに投げ、椅子に背を預ける。

「逸人なら、甘城のバックアップがなくともやっていける。
 重役たちもそう思ってるさ」

 だが、逸人は、
「そんなことを本気で思っているのなら、そいつらの目は節穴だ」
と言い出した。

「お前はあれだけ好きだった芽以を諦めてまで、会社のために尽くそうとしたんだぞ。

 そんなお前の覚悟に俺なんかが敵うわけがない。

 そう思ったからこそ、俺は会社を辞めたんだ。

 俺だったら、会社を捨てても、芽以を取る」

 ……どうしよう。

 そんな場面ではないのに、ちょっと泣きそうになってしまった。

 圭太、と逸人は兄に向かい、呼びかける。

「お前がどうしても社長になりたいと言うのなら、俺が手を貸してやる。

 お前に甘城がついてなきゃ認めないと言ってる奴らは、俺を担ぎ出したいんじゃない。

 お前に難癖つけたいだけだ。
 今すぐ、そいつらを此処へ連れてこい」

 光彦と富美の顔には、いや、連れてきたら、なにが起こるかわからないから、この息子の前には連れて来られない、と書いてあった。

「そいつらが、俺に社長になれと言うのなら、なってやろう。

 お前の覚悟も見抜けないような連中は、会社に居ても、役には立たないからな。
 
 即行、クビにしてやる」 

 ひっ、と芽以は身をすくめた。

 本当に、即行、クビにしそうだ、と思ったからだ。

 逸人さん、逸人さん、その人たちにも養わなければならない、妻や子や孫や愛人さんが居るかもしれませんよ。

 いや、愛人さんはいいか……。

 しかし、この人、パクチーの店をやってる方が害がなくていいかも、と改めて芽以は思った。

 なにかと、決断が早すぎる……。

 まあ、それが上に立つものとして、向いている、ということなのかもしれないが。

 だから、たぶん、その重役さんたちの目が節穴なわけでは、決してない。

 そんなことを思いながら、逸人を見たとき、日向子が、神田川に連れられ、戻ってきた。

 というか、扉の外で話を聞いていたようだった。

 戻るタイミングを窺っていたのだろう。

 たまたま、出くわした神田川に説得されたようだっだが。

 まあ、マスコットみたいな神田川さんに、
「戻りましょう」
とか言って、微笑まれたら、逆らえないもんなー。

 ゆるキャラに言われてるみたいで、と思いながら、ニッコリ微笑んで去っていく神田川を見送った。

 罰が悪そうにしている日向子をチラと見て、富美が言う。

「……私だって、好きでこの人と結婚した訳じゃないのよ」

 ええっ? お義母様っ、今、言うっ?
と芽以は富美を見た。

 お義父さんが呆然とされてますけどっ?
と思ったとき、富美は日向子を見ずに言ってきた。

「でも、今では、私が一生を共にするのは、この人しか居ないと思ってる。

 ……まだ若いのに、結論早すぎなのよ、貴女たちは。

 人生は長いのよ。
 何度でも、何処からでもやり直せるわ」

 一度は、ほっとしかけた光彦だったが、すぐにまた、やり直す気かっ? という顔をしていた。

 なんだかんだでラブラブなようだ、と思い、笑ってしまった。

 

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