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これは、パクチーによる暴力だ

見つけると、いいことあるらしいですよ?

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 ……酔いつぶれてあげるべきだったろうか。

 酔って翔平に絡んだ挙句、カーペットに倒れて寝ている芽以の父を見ながら、逸人は思っていた。

 なんとか自分を酔わそうとしたようだが、案の定、先に倒れてしまったのだ。

「部屋までお連れしましょう」
と芽以の父の前に片膝をつくと、聖が、

「ああ、いいいい。
 俺が運ぶから」
と言う。

 父親の腕をつかみながら、
「お前は、芽以を連れて帰ってやれ。

 ……疲れ果ててるだろうから」
と芽以を見た。

 芽以は翔平に上に乗られたまま潰れ、
「……ヒヒン」
と悲しく鳴いていた。

 ほぼ百人一首のあと、ずっと翔平におうまさんをさせられていたのだ。

「帰るぞ、芽以」
「ヒヒン……」



 ああ、楽しかったけど。
 なんか仕事の千倍疲れたぞ、と思いながら、芽以は逸人と夜道を帰っていた。

 短い橋の上の風がちょっと冷たい。

 もう遅い時間なので、車はまだ行き交っているが、歩く人はさすがにもう少なかった。

「子どもの相手するって体力いりますよね~。
 親って大変なんだなーって最近思います」

 最近、特にそういう風に感じ始めたのは、やはり、結婚とか、子どもを育てるということが、身近になってきているからだろうか、と思ったあとで、逸人を見上げる。

 だが、視線に気づき、逸人がこちらを見下ろしてきたので、つい、目をそらしてしまった。

 ま、恐れ多いな。
 自分がこの人の子どもを産んで育てるとか、と思う。

 私の血の入った子どもが、そう優秀とも思えないから、逸人さんに申し訳ない感じがするし。

 確か、この人、凄い偏差値とってたな、と思いながら、芽以は逸人を見上げ、訊いてみた。

「あのー、昔、偏差値80越えとかしてましたよね?
 あういうのって、どうやったらできるんですか?」

 ん? とこちらを見た逸人は、
「間違わなければいいんじゃないか?」
と言ってくる。

 えーと……。

 ま、そりゃそうなんですけど。

 困ったな。
 つづきの言葉が思いつかないんだが、この凡人には……。

 だが、逸人は、前を見たまま、
「わからない問題がないよう、日々、努力するだけだ」
と言ってくる。

 そうそう。
 この人、努力をたっとぶ人だったな、と思い出す。

 だが、日々、努力したところで、全員が達成できるわけでもないから。
 やはり、もともとの頭もいいんだろうが。

 それでも、こういうことを言う逸人さんが好きだな、と芽以は思っていた。

 自分はやらなくても出来るとか言う人より、私は好きだ。

 でも、そういえば、圭太も実は、すごく努力する人だったな、と思い出す。

 奴は、やってるのが見え見えでも、やってない、とうそぶく奴だったが。

 まあ、それはそれで可愛らしいが、と思い出し、芽以は笑う。

 そして、気づいた。

 圭太のことも、あのクリスマスイブの夜のことも、思い出しても、なにも胸が痛まない自分に。

 そういえば、いつの間にか、このコートにも迷わず手が通せてるし、とイブのためにとっておいたピンクのコートを着た胸に、そっと触れてみる。

 あの日と変わらない柔らかい手触りだった。

 だけど、日向子さんが言うように、私が最初から逸人さんを好きだったというのなら。

 圭太に対する気持ちはやはり、恋ではなかったのだろうから。

 胸が痛んでいたのは、ただ、ずっと側に居た親友と、もう会えなくなってしまうかもしれないという寂しさだったのかもしれないが。

 やっぱ、男の子の友だちって、結婚しちゃったら、なかなか会えなくなっちゃうもんな。

 そういう意味でも、逸人さんと結婚できてよかったな。

 ずっと一緒に居られるし。

 ……いや、まだしてないようだけどさ、と思いながら、逸人を見上げると、逸人が、なんだ? という目で見下ろしてきた。

 そのとき、黒に黄色のナンバーの運送業社の車が横を走っていった。

「あ、クロッキー」
と芽以は笑って声を上げる。

「昔探しましたよね。
 三台見つけると、いいことがあるって言って。

 でも、翔平がこの間、十五台見つけないとって言ってて、増えすぎ――」

 話している途中で、逸人がいきなり顎に手を触れてきた。

 えっ? と思っている間に、芽以の顎を持ち上げ、口づけてきた。



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