10 / 101
寿退社で殺される
どうなる、結婚式
しおりを挟む「千佳、パクチー好き?」
芽以が社食で唐突にそう訊くと、千佳は海老天うどんを食べる手を止め、
「喧嘩売ってんの?」
と言ってくる。
……喧嘩は売っていません。
お嫌いなようだ。
駄目な人はほんと駄目だもんな~、パクチー。
やっぱり、あの匂いがなー、と芽以は思う。
一般的には、カメムシのようだと言われるが。
私は、香水のような匂いだな、と思うのだが。
香水。
嗅ぐにはいいが、食べ物として口に入れろと言われたら、非常に嫌だ。
そして、口に入れたときの鼻に抜ける感じがいつまでも残り、もう見るだけで嫌になる。
一時の流行りが消えたら、お店が立ち行かなくなるんじゃなかろうか、とまだオープンもしていないのに、芽以は気の早い心配をしていた。
ふたたび、甘いんだか辛いんだかよくわからない社食のカレーを食べ始めたとき、千佳が、
「あんた、今日、暇?
暇なら、あんたんち行っていい?」
と言ってきた。
「いやー、それが今日から新居に荷物運ぶことになっててさ」
と言うと、
「うそーっ。
結婚式はっ?」
と千佳が言ってくる。
そうだ。
結婚式は? とそのとき気づいた。
包丁突きつけられて、血判状に拇印を……
違うな。
婚姻届にサインをさせられて、既に結婚した気になっていたが、気がつけば式も挙げていない。
「なによ。
あんたも挙げない気?」
と千佳が睨んでくる。
「最近、結婚式やらないか、海外でとか、うちうちでとか多くてさ。
セールになったからって買った私のドレスはどうなるのって感じなんだけど」
うん。
まあ、その気持ちはわからないでもない、と自分も、着る当てもないのに、うっかりドレスを買ってしまったことのある芽以は思う。
ワンピースかスーツくらいの感じで来てくれとか言われるレストランウェディングも多いしなー。
レストラン……。
はた、と気づく。
まさか、結婚式、自分の店でやるとか?
いや、あの人の性格からいって、式自体、やらないとかっ?
と芽以は青くなる。
いやいやっ。
私、ウェディングドレス着たいんですけどーっ、と思っていると、
「なによ。
ほんとにやらないの?」
とこちらの顔色を見て、千佳が訊いてくる。
「いやー、どうなるんだろー?」
と不安げに呟いて、
「ほんとに、なんにも決めてないの?
なんで結婚したの? 勢い?」
と問われてしまった。
うう。
まあ、ある意味、と思っていると、
「ま、結婚って勢いなのかなとは思うわよね。
チャンスがあるときには逃さないことよ。
すぐにお互い気が変わっちゃったりもするしね。
適当に結婚した方が意外と長く続くとかいうし」
と言ってくれたあとで。
「でも、えらく急いで結婚したものね。
この間まで、付き合ってる風でもなかったのに。
……もしや」
とお腹の方を見るので、
「いや……手もつないでな……
いや、握られたか。
包丁つかんで、手を切られそうになったときと、パクチーの匂いを嗅がされたとき」
と思い出しながら、呟くと、
「なにそれ、どんな危険な男?」
っていうか、私、包丁より、パクチーの方が怖いわ、と千佳は言ってくる。
1
お気に入りに追加
57
あなたにおすすめの小説
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
別れてくれない夫は、私を愛していない
abang
恋愛
「私と別れて下さい」
「嫌だ、君と別れる気はない」
誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで……
彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。
「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」
「セレンが熱が出たと……」
そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは?
ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。
その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。
「あなた、お願いだから別れて頂戴」
「絶対に、別れない」
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った
五色ひわ
恋愛
辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。
※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる